北朝鮮とアメリカが弾道ミサイル発射をめぐり、挑発の応酬を繰り広げています。米領グアム島周辺にミサイル4発の発射計画を公表した北朝鮮に対し、アメリカのトランプ大統領はツイッターで「軍事的解決の準備は万全だ」と投稿するなど、軍事的措置の可能性をちらつかせています。

北朝鮮は7月に2発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射。両者の緊迫は再び高まっているようにもみえますが、アメリカの北朝鮮攻撃の可能性をどう見るか。元航空自衛隊幹部の数多久遠氏に寄稿してもらいました。

北朝鮮がグアム沖へのミサイル発射の検討を表明し、これに反応する形で、トランプ大統領が報復攻撃を示唆しました。小野寺防衛相が、自衛隊部隊を展開させるなど危機の可能性が一気に高まったように見えます。ニューヨークの株式も下落し、すわ米朝軍事衝突とも噂されています。

 4月にも「緊迫する北朝鮮情勢(上)アメリカはどこまで『本気』なのか?」と題した寄稿しました。今回は、武力衝突に至ることはないとした前回記事の時と比較し、何が変わり、何が変わっていないのかを、主に軍事の観点から概観し、北朝鮮によるグアム攻撃及びその後の情勢について、考察してみたいと思います。

現状、放たれた“実弾”は経済制裁のみ
 現在の情勢緊迫は、7月に2度に渡って行われた北朝鮮によるICBM発射が契機となっています。

 トランプ大統領のアメリカは、勇ましい発言は行いつつも、あくまで交渉により北朝鮮の核ミサイル開発の鈍化、最終的には開発の放棄を狙っていることは、前回の記事でも書きました。

 それに対する、北朝鮮の答えが、ICBMの発射でした

 トランプ大統領とすれば、顔に泥を投げ付けられたというところですが、情勢の緊迫化は、単にトランプ大統領が恥をかかされたことに怒っているという状況な訳ではありません。

 北朝鮮によるICBM発射後、トランプ大統領本人だけでなく、マティス国防長官などの米政府高官も、これを非難する強い言葉を発していますが、今までに言葉だけではない“実弾”として撃たれたのは、8月6日に行われた国連による制裁決議だけです。トランプ大統領は「冷静に」圧力を強めているのです。

 この制裁決議は、以前のものと比較すると、かなり強力な制裁です。北朝鮮からの輸出総額の3分の1を禁止させる内容になっています。しかし、戦前の日本を太平洋戦争に突き進ませたような「石油の禁輸」は含まれておらず、北朝鮮とすれば苦しいものの、死活的な制裁決議ではありません。

 また、決議には中国、ロシアも賛成したものの、両国ともに北朝鮮がアメリカに屈することは望んでいません。そのため、この決議の実効性にも疑問符が付きます。北朝鮮と国境を接するこの2か国は、隠れて制裁違反を行うことは容易だからです。トランプ大統領は、このうち特に中国の制裁破りには苛立ちを募らせているといわれます。

 この制裁に対し、北朝鮮がとった反撃が、グアムに対する攻撃計画の発表です。そして、それを受け、トランプ大統領が行っているのが、瀬戸際外交と言われる北朝鮮のお株を奪うかのような強硬発言です。


グアム攻撃へ向けた北朝鮮の“入念な”準備
 果たしてグアム攻撃は実行されるのか? その答えは、YESかつNOでしょう。

 分からないということではありません。北朝鮮にとってはYESであり、アメリカにとってはNOである攻撃が行われるという意味です。

 北朝鮮の国営朝鮮中央通信は、軍高官の談話として「朝鮮人民軍が発射する火星12ロケットは、日本の島根、広島、高知各県の上空を飛び、3356.7キロを1065秒飛翔した後、グアムから30~40キロ離れた海面に着弾する」と報じています。

 「グアムから30~40キロ離れた海面」。この言葉は、領土はもちろん、領土と同じ主権の及ぶ領海(基線から12マイル(約20キロ))には落とさないという意味になります。

 北朝鮮によるミサイルは、日本近海に打ち込まれるケースが頻発していますが、これらと同様に、領海の外である接続水域や排他的経済水域に落下させることと、国際法上は大差ないことを行うと言っているに過ぎません。相手が日本ではなく、アメリカだというだけです。

 これに対して、トランプ大統領は「もしグアムに何かあったら、北朝鮮に大変な惨事が起きる」「北朝鮮がグアムや米国の領土、同盟国に対して事を起こせば、真に後悔することになる。直ちに後悔するだろう」と応じています。

 言葉は強烈ですが、「もしグアムに何かあったら」「事を起こせば」という前提条件を必ず付けています。言い換えれば、グアムに何もなければ、反撃はしないと言っているのです。

 北朝鮮は、軍高官が言ったとおり、グアムの“近海”にミサイルを発射し(YES)、アメリカにとっては、グアムにとって実質的な影響はなにもない(NO)領海外にミサイルが落下したという事象となる可能性が高いということです。

 現在は、このシナリオに則り、双方が過激なメッセージのやり取りを行い、双方の面子が立つ状況を探っているに過ぎません。

 しかし、事故は起こりえます。

 そのため、北朝鮮は、発射に失敗しても、実際の被害が生じないよう、ロケットを自爆させるなどの準備を、今までのミサイル発射以上に入念に準備していると思われます。

 グアム近海の落下予定地点付近は、北朝鮮からは水平線下となります。報道は見当たりませんが、もし北朝鮮海軍の艦艇や偽装された民間船舶がグアムに近づいているのであれば、被害を発生させないため、ミサイルを自爆させるための艦艇でしょう。

 こうした動きがあれば、北朝鮮の意思を確認するため、米軍は監視を行いつつ、放置していると思われます。

 一方で、北朝鮮が8月中旬までに、この準備を完了させると発言しているのは、日本や米国が、もしもの事故に備えて、迎撃準備を行う時間的猶予を与えるためだとも思えます。自衛隊は、ミサイルが上空を通過する中国・四国地方の4県(島根、広島、愛媛、高知)に地上配備型迎撃ミサイル「PAC-3」部隊を配備しましたし、イージス艦も既に待機位置に到着していると思われます。北朝鮮としても、事故によって日米に被害がでてはマズいためです。
北朝鮮攻撃なら地上戦含めた徹底した攻撃が必要
 北朝鮮が、実際にグアム近海にミサイルを撃ち込むかは分かりませんが、撃ち込んだとしても、軍事攻撃ではなくパフォーマンスに過ぎません。アメリカも、北朝鮮が日韓や米本土に反撃を行う口実となるような実害を与える反撃はできません。

 もし北朝鮮に対する攻撃を実行するならば、湾岸戦争やイラク戦争と同様に、地上戦力を含めた攻撃準備を入念に行い、北朝鮮が反撃を行いたくとも、反撃が不可能となる徹底した攻撃を行う必要があります。

 空爆しか行わないのであれば、既に多数のミサイルを持ち、核の搭載は不透明とは言え、化学兵器や生物兵器も大量に保有するとみられる北朝鮮が反撃に出た場合れば、大きな被害が発生することは避けられません。

 特に、国境を接する韓国には、弾道ミサイルを使用するまでもなく、砲撃事件が発生した延坪島(ヨンピョンド)のように、通常の榴(りゅう)弾砲を用いてソウルを攻撃することが可能です。

 日本に対しては、弾道ミサイルが主な攻撃手段になりますが、ノドンミサイルの保有数は、200発を越えるとされます。たとえ日本側が100%の確率で迎撃できたとしても、迎撃ミサイルの数自体が足りません。また、最近になって頻繁に目撃されるようになったビニール風船によって、化学兵器や生物兵器、あるいは放射性廃棄物をばらまくことも可能です。特に、放射性廃棄物を使ったダーティボムは脅威です。風船一つで、福島原発事故並の被害を発生させられるでしょう。

 一方、北朝鮮がICBMを発射したとは言え、あのICBMが戦力として実効性のあるものであるのかは、極めて不透明ですし、数も予備があるのかさえ分かりません。

 北朝鮮がICBM火星14の発射として映像として公開した映像を見ても、1回目の映像では、車両から切り離した後、かなりの時間をおいて発射していることは明らかです。また、ミサイルの下にある発射台のようなものに給電のための発電機やバッテリー、コントロール装置が見当たりません。また2回目の夜間発射の際には、明らかに地下施設があることが分かる映像も含まれていました。つまり映像に映っていた車両は、運搬車でしかなく、発射管制機能は、地下にあったと思われるのです。

 もちろん、発射管制車両の開発には、それほど長い時間を要するとは思えません。しかし、今回の発射が、かなり急いで実施されたものであることは分かります。

 北朝鮮がICBMの大規模な生産に移行していないため、たとえ米国に向けて発射しても、ICBMは迎撃されてしまう可能性が大です。

 アメリカはICBM迎撃用のGBIと呼ばれるミサイルをアラスカのフォートグリーリーとカリフォルニアのヴァンデンバーグに配備しています。実際にICBMを迎撃する実験は、配備後も実施されていませんでしたが、北朝鮮による相次ぐミサイル発射を受けて、本年5月に実施し、成功しています。

 トランプ大統領は、今までのアメリカ大統領が行ってきた、国外の問題への積極的な関与を批判し、第二次大戦以前のような、孤立主義的な方向にアメリカを向かわせるとして大統領に当選しました。そのため、北朝鮮がグアム近海にミサイルを撃ち込んだとしても、地上戦まで行い、北朝鮮の非核化を実力行使で行うとは考えられません。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170814-00000005-wordleaf-int&p=2

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