撃ち漏らしたら、アウト
 かつて政府は自衛隊が保有できる兵器を「自衛のための必要最小限度のものでなければならない」とし、攻撃的兵器の保有を禁じてきた。

 これを受けて防衛省(庁)は、戦闘機の航続距離が長いと周辺国の脅威になりかねないとの理由から、米国から導入したF4戦闘機から空中給油装置を取り外した。だが、1980年代に調達したF15以降の戦闘機はすべて空中給油装置を外すことをやめている。

 さらに飛行しながら燃料供給できる空中給油機を4機導入して航続距離の問題を解消させた。また戦闘機を指揮できる管制機能を持つ高性能の空中警戒管制機(AWACS)4機と早期警戒機(E2C)13機を保有した。

 敵基地攻撃は、戦闘機が空中給油を受けながら長距離を飛行し、同時にAWACSの航空管制を受ける。敵基地が近づくと電子戦機が妨害電波を出して地上レーダーや対空ミサイルを攪乱させるなど、複数の航空機を組み合わせる必要がある。


 航空自衛隊で保有していないのは、電子戦機だけだったが、2008年から2人乗りのF15DJ戦闘機を改修、電子妨害装置を搭載するための開発に取り組み、成功した。

 攻撃に欠かせない爆弾は、日本の演習場でできなかった実弾の投下訓練をグアムで行い、2012年から衛星利用測位システム(GPS)を利用した精密誘導装置付き爆弾(JDAM)を導入。より正確な爆撃のため、2014年からイラク戦争で米軍が使ったのと同じタイプのレーザー光線で誘導するレーザーJDAMも導入し、F2戦闘機による投下で目標に命中させている。

 これらの航空機や爆弾を組み合わせれば、米軍に近い敵基地攻撃能力を持つことになるのである。

 だが、北朝鮮のミサイル基地は中国国境に近く、攻撃すれば中国を刺激しないわけにはいかないこと、また北朝鮮の軍事施設の7割は地下化されていることから、意図通りに攻撃を成功させるのは不可能に近い。

 1カ所でも撃ち漏らしがあれば、日本列島に弾道ミサイルが飛来するおそれがある。(参照:現代ビジネス=2017年4月7日「対北朝鮮『ミサイル防衛』も『敵基地攻撃』も驚くほど非現実的である」)

「国是」がいつのまにか骨抜きに
 敵基地攻撃能力の保有は攻撃力ばかりでなく、抑止力にもなる、との見方がある。

 抑止力とは、「侵略を行えば耐え難い損害を被ることを明白に認識させることにより、侵略を思いとどまらせるという機能」(政府見解)である以上、どれほどの犠牲も強いてでも攻撃を仕掛けようとする相手には通用しない。

 そんな相手が北朝鮮の金正恩労働党委員長ではないだろうか。敵基地攻撃能力の保有というせっかくの備えも、無駄金を投じたのと同じことにならないだろうか。

 日本政府は自衛隊が持つ弾道ミサイル防衛システムに加え、新型の地対空迎撃ミサイル「イージス・アショア」を追加配備する方針を決めている。「イージス・アショア」は現行の中期防には記載がないことから、中期防を改定する必要がある。中期防は大綱と歩調を合わせるため、大綱も改定され、来年度から新大綱、新中期防となるだろう。

 その時には、敵基地攻撃についても具体的に踏み込んで記述されることが想定される。そうなれば、来年度防衛費の「島嶼防衛用高速滑空弾(ミサイル)」 「島嶼防衛用新対艦誘導弾(ミサイル)」にある「島嶼防衛用」の言葉をいつでも「敵基地攻撃用」に切り替えることができるようになる。

 国是である「専守防衛」を、ミサイル保有などの既成事実を積み重ねることにより、なし崩しのうちに変えてしまってもよいのだろうか。閣議決定だけで変更可能な大綱、中期防によって、国是を骨抜きにしてよいはずがない。

 敵基地攻撃能力の保有により、自衛隊の武器体系は大幅に変更され、6年連続して増える防衛費をさらに押し上げる要因になるのは確実である。国会審議を通じて、日本防衛のあり方を国民的議論に高めていく必要がある。

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※敵基地攻撃:弾道ミサイルの発射基地など敵の基地を攻撃すること。1956年、鳩山一郎内閣は「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御する手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」として合憲との見解を示した。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170909-00052826-gendaibiz-int&p=4