なぜか「生産地 青島」と書かれたダンボールが……
 ふと、製品を詰める段ボール箱を見て、あることに気付いた。


 生産地の欄に「山東 青島」と記載されているのだ。青島は石島から200km以上離れている山東省の大都市だ。日本でもおなじみの「青島ビール」でご存じの方も多いだろう。

「このイカはどこで漁獲されたのですか?」

「石島近海ですよ。このあたりではたくさん獲れますから」

「でも、生産地が『青島』となっていますよ。産地偽装では?」

「え? いやあ、なんでかな(笑)」

 イカ社長は問い詰められて、あきらかに狼狽した。

「さっき、日本へ輸出しているとおっしゃっていましたが、本当に“輸出権”を持っている?」

イカ社長が産地偽装を認めた!
 中国では、企業が日本へ商品を輸出する際、政府に対して「対外貿易権」の届出・登録が必要となる。輸出の権利を持たない企業は、海外取引を直接行うことが許されていない。

「え? 持っていますよ、ははは……」

 社長はとぼけながら、応接室へ私と通訳を案内すると、観念したようにため息をついた。

「実は、輸出権を持っているのは青島の大きな企業で、商品をそこへ送って日本と取引してもらっているんです……」

 やはりウソをついていた。こうなると、5000トンの出荷量も眉唾だ。

 産地偽装を認めたイカ社長は不機嫌そうにこう言い訳した。

「10年前は日照市(山東省)で水産加工の工場を営んでいましたが、化学薬品工場がたくさんできたので水質が汚染されて、石島へ移転したんです。我々はまだマシですよ。この近くに100パーセント日本向けの白身魚フライ工場があるけど、そこもひどいもんです」

生臭いニオイが充満する白身魚フライ加工場へ潜入
 その工場に潜入したい――。交渉の結果、近くの白身魚のフライを加工する工場へ入れてもらえることになった。

「あそこの工場は悪いヤツとつながっていて評判が悪い。しかも孫請けなのさ。日本の企業と直接契約しているわけではない。だから、日本人に見られたくない。バレたらどうなるかわからないから、絶対に日本語を話さないでくれ」

 イカ社長から重大な注意事項を言い渡され、私と通訳の林氏に緊張が走る。イカ社長の車で、5分ほど走ったところに問題の加工場はあった。中はイカ社長の加工場同様、薄暗い。

 加工場内はハエが飛び交い、生臭いニオイが充満している。あたりに段ボール箱が散乱しており、整理しきれていなかった。

 段ボールの外側には、「開きメゴチ」や「アジフライ」、「あんこう肝」などと日本語で商品名が書かれていたのである。この加工場は、間違いなく日本向け食品を製造していた。他にも「サーモン大葉フライ」など、日本の大手水産加工会社の企業名が記載された箱も確認した。

 作業員たちはエプロンに作業着、手袋とマスクをしていて、イカ社長の加工場より一見清潔にしていた。ところが、ある作業員がさばいていた魚を数匹地面に落としてしまい、どうするのか見ていたら、拾ってそのまま他の魚と一緒にバットへ入れた。地面は魚をさばいた後に出る生ゴミで汚れていた。日本語で抗議するわけにもいかず、林氏と黙ってため息をつくしかなかった。

「もう、いいだろ。昼の休憩なんだ」


 その加工場の責任者は、無愛想な表情でイカ社長に言った。明らかに見学者の我々を煙たがっているようだ。聞きたいことは山ほどあったが、仕方なく我々は外へ出た。すると、従業員もぞろぞろと出てきた。おもむろにマスクや長靴を脱ぎ、日光で干しているように見えた。

 中国でも衛生的な加工場はもちろん存在する。まともな所だと、長靴や作業着は滅菌室で殺菌され、こうして着用したまま無造作に外へ出ることはない。この加工場では、作業員の消毒に対する意識はほとんどなかった。

 日本に戻った後、段ボールに名前が載っていた企業へ、石島の加工場と取引があるのか確認してみたが、全ての企業が「そのような企業との取引はありません」と回答した。

 では、我々が石島の加工場で見た光景は何だったのか。中国のどこで作られたのか把握できていない食品を我々の食卓へ届けている日本企業も存在する。それは紛れもない事実だ。一消費者として、食品企業の担当者には、もっと自分たちが扱う商品の管理を徹底して欲しい。

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