慈善活動家・ジョセフが巻き起こした波紋疾走
 もっとも、オンタリオ州における「南京大虐殺記念日」実現の影の立役者は別にいる。その名はジョセフ・ウォン(Joseph Y.K. Wong、王裕佳)氏。香港出身で1968年にカナダに移民したジョセフ氏は、本業はホームドクターだ。

 トロント市内で老人向け医療施設の立ち上げに奔走し、過去には前出の『トロント・スター』紙や現地大手月刊誌の『トロント・ライフ』などでしばしば表彰されるなど、地域の名士と言っていい慈善活動家である。

 1996 年、当時の華人社会で盛り上がっていた尖閣諸島(釣魚島)の防衛運動(保釣運動)に刺激を受けたジョセフ氏はトロントに保釣行動委員会を設立。在加華人を満載した観光バス4台をチャーターしてオタワの日本大使館に抗議に向かった。どうやらこれが、ジョセフ氏の社会運動がオーバードライブしていくきっかけになったらしい。

 翌1997年、ホロコーストの恐怖を語り伝えるユダヤ人たちの姿に感心したというジョセフ氏は、アジア太平洋戦争における各国の被害について世間の関心が薄いことを懸念し、歴史問題啓発団体「トロント・アジア第二次世界大戦史実擁護会(略称ALPHA)」を設立する。

 この年、王氏はさっそく『ザ・レイプ・オブ・南京』を刊行したばかりの華人系米国人作家、アイリス・チャン氏をカナダに招聘。

 初版が2000部しか刷られていなかったマイナー書籍をカナダ社会で大いに宣伝し、同書が世界的なベストセラーとなる契機を作った(なお、アイリス氏の死後の2007年、ジョセフ氏はドキュメンタリー映画『アイリス・チャン ザ・レイプ・オブ・南京』の制作にも主要な協力者として名を連ねている)。

 さらにジョセフ氏はALPHAを通じてオンタリオ州教育庁に働きかけ、2005年には同会が主張する内容に沿った「アジアの第二次大戦の歴史」を州内の高校の必修カリキュラムに組み込むことに成功。

 その際に出した「人道主義の立場から、慰安婦・南京大虐殺・強制労働などの人道に違反した精神(の負の面)を強調しなくてはならない」という建議書も、同州教育庁による批准を受けた。

 翌年にALPHAは『ザ・レイプ・オブ・南京』を含めた日本軍の反人動的行為を記す資料を州内の高校900校の図書館に無料寄贈する活動もおこなっている。上記の79号法案を提出したスー議員もこのALPHAの熱心な支持者で、ネットを検索するとジョセフ氏とともにさまざまな活動に出席していることがわかる。

 ちなみにジョセフ氏は、自身が民族主義者ではなく平和主義者であると強調する。
事実、ALPHAには著名な日系カナダ人の女性作家ジョイ・コガワ氏をはじめ少なからぬ日系カナダ人が支持を表明しており、日本民族それ自体に対するヘイトを目的とした「反日」組織ではないというスタンスだ。

さらに慰安婦映画で中国・韓国・台湾と協調
 ところで近年、中華圏の各国では慰安婦ドキュメンタリー映画がブームである。
すなわち、今年夏に中国で公開されて興行収入1億7000万元(約29億円)以上を叩き出した『二十二』(監督:郭柯、2017年中国)、一昨年夏に台湾で公開されてスマッシュヒットを記録した『蘆葦之歌』(監督:呉秀菁、2015年台湾)などだ。

 実はこちらの分野でも、カナダ華人は存在感を発揮している。
中国人・朝鮮人・フィリピン人の元慰安婦に取材した『THE APOLOGY』というドキュメンタリー映画(2016年カナダ)が制作されているのだ。

 『THE APOLOGY』の監督は、トロント市内で活動するティファニー・ション(Tiffany Hsiung、熊邦琳)氏という台湾系の華人女性。
映画製作はやはりALPHAが全面的にバックアップしている。

 カナダ華人のニュースサイト『365netTV』によれば、そもそも映画が作られた契機からして、2009年にジョセフ・ウォン氏がティファニー監督を引率する形で中国と韓国を訪問して「歴史の真実」を教えてあげたことにあるらしい。

 今年8月、台北で開かれた「慰安婦国際人権映画祭」では、上記の『二十二』『蘆葦之歌』『THE APOLOGY』という中国・台湾・カナダの3大慰安婦映画が上映され、さらに各作品の監督の座談会も開催されている。

 従来はもっぱら「韓国」のイメージが強かった慰安婦問題だが、近年は中華圏においても南京大虐殺に続く新たなホットトピックとして注目を集めるようになっている。

 香港出身の大物慈善活動家・ジョセフ氏とその愛弟子たちが生み出した、対日歴史問題強硬派のビッグウェーブ。今年になってオンタリオ州で南京大虐殺記念日が制定されたのは、なにも突如として起きた話ではなく、彼らの20年以上にわたる地道な宣伝活動とロビー活動の賜物であったわけなのだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171118-00053524-gendaibiz-int&p=2


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