フラッシュバックする衝撃的シーン
「積弊清算」が着々と進められる現在の韓国社会の空気は、まるで時が遡ったかのようだ。かつて軍事政権で大統領を務めていた全斗煥・盧泰愚両氏が、手を取り合って民主化後の法廷に立っていた奇妙で衝撃的なシーンがフラッシュバックする。

 巷では、文大統領を支持する人からも「もう、こんな昔のような雰囲気はうんざり。文大統領が李元大統領逮捕を悲願としている理由は分からないでもないが、決定的な罪状がなければ強引な検察の捜査や逮捕は止まるべきだ」(40代会社員)といった厭世的な声も増えつつある。

 そんな雰囲気での金元国防相の釈放は、「検察の無理筋な捜査が明るみとなった格好で、これからの捜査に若干ですが勢いをそがれた感じです。ただ、検察はメンツにかけて本丸まで走るでしょう」(前出・韓国全国紙記者)。

 韓国では一連の逮捕は「積弊清算」ではく、「積弊」の同じ発音からもじって「敵廃清算」(政敵を廃する)とも揶揄され始めた。

文大統領と李元大統領の因縁は底深い。

 別の韓国全国紙記者が解説する。

「文政権が李元大統領の逮捕を目指すのは、盧武鉉元大統領の“弔い”のためでしょう。

 盧元大統領は収賄容疑で2009年4月、検察に出頭しましたが、その時の様子は帰郷していた韓国南部の金海市の家を出た瞬間からソウル中央検察に到着するまで実況中継され、カメラの砲列に晒されました。その後、取り調べが続く中、ひと月も経たない5月23日、盧元大統領は自ら命を絶った。

 盧・李両氏の対立関係は、国会議員の席を争った1996年から始まりました(李氏が当選したが、秘書の公選法違法に関連して辞職。この後、盧氏が政界で頭角を現すようになった)。盧政権時代、ソウル市長だった李氏は政権とことごとく対立し、大統領に就任すると前任者である盧元大統領に近い企業や人物の調査を始めました。

 ただ、盧元大統領への捜査は無理筋だったともいわれ、当時、盧元大統領の周辺からは『やりすぎだ』と李氏への“恨(ハン)”の声が噴き出していました。弁護士時代をともにし、盧政権時代には秘書室長として支えた、親友の文大統領の思いはさらに深いでしょう。それに今の青瓦台には盧元大統領寄りの人物もいる。李元大統領は必ず逮捕されると囁かれています」

 李元大統領に向けられた疑惑は、国情院の大統領選挙時の世論操作への関与、政権寄りの団体への支援のためのホワイトリストや、反政府的人物への支援を排除するためのブラックリストの作成、李元大統領が実質的に所有している自動車シート会社「ダス」による120億ウォン(約12億円)の裏金作り、といったものだ。

 金元国防相の逮捕後、李元大統領は、「政治報復が疑われる」と不快感とも焦燥感ともつかない表情で語っている。

日韓の「慰安婦合意」も清算の対象に
 実は日本も無縁ではない。

 この「積弊清算」の中には、2015年末に日韓で合意した「慰安婦合意」も含まれているからだ。

 韓国政府は、去る7月末に、この「慰安婦合意」を調査する「韓日日本軍慰安婦被害者問題合意検討タクスフォース」チームを発足させた。委員長には研究者ではなく、今年の大統領選挙で文在寅陣営に参加していた、進歩・革新系の『ハンギョレ新聞』記者出身の呉泰奎氏が抜擢された。呉氏は東京特派員も務めた人物だ。

 来月にも調査結果がでる予定とされるが、冒頭の全国紙記者はこう見る。

「委員長の人選を見て、結果はいわずもがなとみる人が多い。いくつかの指摘点が挙げられ、慰安婦問題については振り出しに戻ることになるのではないでしょうか。

 ただ、今は文大統領の支持率が73%(11月17日韓国ギャラップ)と高いものの、“敵廃清算”の度が過ぎれば砂上の楼閣になるかもしれない。そうなると、また風向きが変わるでしょう」

 いずれにしても、日韓関係はまた大きなヤマ場を迎えることになりそうだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171124-00005058-bunshun-int&p=2