日本における弾道ミサイル防衛手段とPAC-3の位置付け

PAC-3は比較的小型のミサイルであり、射程距離も長くない。カバーできる範囲は半径20キロ程度の円内だとされており、これでは広い範囲をまとめて守ることはできない。

実は、弾道ミサイル防衛では「多層防御」という考え方がある。ひとつの迎撃手段だけに頼るのではなく、発射直後(ブースト段階)、その後の飛翔中途(ミッドコース段階)、着弾直前(終末段階)、と複数の段階に分けて、それぞれに最適な迎撃手段を配備する。そして、次々に迎え撃つことで迎撃の確率を高めるという考え方である。

日本における弾道ミサイル防衛の手段というと、海上自衛隊にイージス艦とSM-3ミサイルの組み合わせがある。こちらは飛翔中途の段階で迎撃する、ミッドコース防衛の手段である。ミサイルが落下に転じる前の、まだ高い高度にいるうちに迎え撃つものであり、守れる範囲も広い。日本全土をカバーするのに3~4隻のイージス艦があれば済むとされる。

対してPAC-3は着弾直前、つまり終末防衛の手段である。イージス艦のSM-3で撃ち漏らしが出て、それが重要拠点に着弾する危険性がある、という場合にPAC-3の出番となる。

飛来する弾道ミサイルを終末防衛の段階まで放っておくのは賢明ではない。ミッドコース段階で迎撃して広域を防衛するのは、イージス艦の仕事なのだ。それに対してPAC-3は、いってみれば「最後の保険」である。だから、「PAC-3のカバー範囲は広くない」とクレームをつけるのは筋違いのところがある。もともと広域防衛は企図していないからだ。

過去に、北朝鮮の弾道ミサイル発射に際して日本国内でPAC-3を展開させたのは、「ミサイルに不具合が生じて、ミサイル、あるいはその一部が日本国内に落下する事態」に備えたものだ。

PAC-3用ミサイルの改良計画
そうはいっても、カバーできる範囲が広くなるのであれば、それに越したことはない。そこでPAC-3システムで使用する迎撃ミサイルの改良計画が持ち上がった。それがPAC-3 MSE(Missile Segment Enhancement)である。

PAC-3 MSEではロケット・モーターを大型化するので、迎撃可能な高度や迎撃可能な範囲の拡大を期待できる。また、威力の向上も図ることになっている。このPAC-3 MSEは日本でも導入を決めているので、そう遠くないうちに配備が始まることになると思われる。

なお、パトリオット地対空ミサイル・システムの開発元であるレイセオン社でも別途、PAC-2を発展させる形でミサイルの改良を進めているが、PAC-3とは別系統の別物である。こちらは日本では導入していない。

現行のPAC-3にしろ、改良型のPAC-3 MSEにしろ、前述したように「イージス艦で撃ち漏らしが生じた場合の保険」という意味がある。これがないと、日本国内では多層防御が成り立たなくなってしまう。軍備というのはそもそも「万一の事態に備えた保険」という意味があるが、ミサイル防衛では多層化によって備えを強化しているわけだ。とはいうものの、防衛省に配備されているPAC-3は、都庁など新宿方面の高層ビル群が邪魔になるため発射できないのではないかという指摘もある。

決して安い買い物ではないだけに費用対効果も含め日本の総合的な防衛体制をどう整えるのか、政府は国民への説明責任もあるだろう。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171130-00010006-binsider-int&p=3