日本ではありえないトラブル
 東海道新幹線の構想が公にされたのは1957年。しかし当時は、鉄道は過去の交通機関で、これからは飛行機と自動車の時代という風潮が強く、「できないもの、無用のもの」という揶揄を込めて、「夢」の超特急と呼ばれていたという。

 ところが、それが着工3年余りで完成し、1964年、東京オリンピックの直前に、東京と新大阪間が3時間10分(開業当初は4時間)で結ばれるようになると、「ひかり」は夢ではなく、現実として、あっという間に日本の誇りとなった。

 以来、50余年、新幹線には「脱線」も「衝突」もなし。鉄道側に責任のある死亡事故ゼロの記録も破られていない。地震を感知すると、揺れが始まる数秒前に、ピタリと止まる。新幹線は今なお、日本人の誇りだ。

 新幹線に乗ると、その快適さにいつも満足する。悪天候以外で遅れはほとんどないし、車内は清潔だし、静かだし、ドアやトイレが故障していることもない。ときに「こだま」しか停まらないような駅のホームに佇み、「ひかり」や「のぞみ」が数分おきに目の前を矢のように通り過ぎていく様を見ると、感動さえ覚える。日本はすごい国だ。

 ところ変わってドイツ。

 ドイツの鉄道ほど評判の悪いものはない。これは私だけが言っている話ではなく、ドイツ人ほぼ全員の意見でもある。歓談の席で偶然にもドイツ鉄道が話題にのぼると、皆が一斉に、しかも生真面目に、自分がドイツ鉄道のせいでいかに酷い目にあったかという話を始めて、たいてい止まらなくなる。

 ドイツ鉄道は2017年、8割の遠距離列車を定刻で走らせるという目標を立てた。ドイツ鉄道のいう定刻とは遅れが6分以内の場合である。しかし、10月の時点で、6分以内の遅延で目的地に到着した遠距離列車は74.3%にすぎないことがわかり、目標達成は断念した。

 私はしばしば列車を利用するわけではないが、それでも乗るたびにトラブルに見舞われる。遅れる、汚い、サービスがないのはもとより、それ以外にも、さまざまな故障、列車が途中で止まっても、あるいは、全然違う駅に到着しても、何のアフターケアもないこと。

 また、列車がホーム入る直前に列車番号が前後逆さまに付いているという放送があったり(そのあとでホームの端から端まで荷物を持って移動することはほとんど不可能)、また、予約をしているのに、その列車自体が付いていなかったり(日本ではありえない! )、とにかく、トラブルのバリエーションは限りなく多い。遅延で乗り継ぎの列車に乗れなかった時などは、本当に困り果てる。

ドイツ統一の交通プロジェクト
 さて、そのドイツ鉄道が、1992年以来、一大プロジェクトに取り組んでいた。ベルリンとミュンヘンを結ぶ超高速列車の建設だ。いわゆるドイツ版新幹線である。

 計画が決まったのは、東西ドイツ統一のすぐ後だから、「ドイツ統一の交通プロジェクト」と呼ばれていた。以来、工期は26年で、工費が100億ユーロ。26のトンネルと37の橋が作られ、623kmを約4時間で結ぶ。それまでは6時間以上だった所要時間が3分の2になると、ドイツ鉄道は寿いだ。

 さて、その超特急が、去る12月8日、いよいよめでたくお披露目となった。メディアも舞い上がり、「画期的」どころか「革命」とまで書いた。

 12月8日の午後、200人ほどの賓客とマスコミ関係者を乗せた最初の記念特別列車が、ベルリン駅に到着した。ホームに並んだ花火が噴水のように吹き上がり、お祭り気分は最高潮。

 最後の区間だけ試乗したメルケル首相がホームに降り立ち、「人々のため、貨物輸送のため、新しいテクノロジーのため、環境のため」と喜ばしい記念スピーチを披露。

 ドイツ鉄道の総裁も、「どんな自動車も、もうこの超高速には太刀打ちできない」と自信満々の体だった。そして、午後7時と8時の国営テレビニュースで、その様子が華々しく報道された。

 ところが、すでにそのころ、やはり200人もの賓客とマスコミ関係者を積んでミュンヘンに戻ろうとしていたその超特急は、技術的問題により途中で立ち往生したままだった。結局、2時間以上の遅延で、深夜0時30分にようやくミュンヘン駅に到着したという。

 ただ、翌日のニュースでそれが報道されたときには、誰もがちょっとしたミスだろうと、さして気にも止めなかった。それよりも、10日から1日3往復で始まるという商業運転のほうに、皆の期待は集中していたのである。

 さて、いよいよ10日。普通の乗客を乗せた超特急は、まずは予定通りの運行。ところが、12時5分のベルリン発ミュンヘン行きは何度も止まり、大遅延。また、ミュンヘンからベルリンへ向かっていた列車も、すぐに止まってしまい、結局、古い線路に誘導され、乗客は普通の特急に乗り継ぎ、ようやく3時間近い遅れでベルリンに到着したという。

 1日3往復しか走らない電車でこのトラブルだ。しかも、自由席で片道150ユーロという高運賃なのである。
ハイテク国の「技術上の問題」
 翌11日月曜日も、状況は改善されなかった。7時38分ベルリン発の始発列車はあっけなく運休。その翌日の12日も、やはりこの早朝の便は運休。これでは、ビジネスで使おうと思っていた人は窮地に陥る。

 12日になってようやく公表された遅延の理由は、「技術上の問題」。新しく導入されたEUの安全システムETCS(European Train Control System)が悪さをしているのだとか。ただ、報道によると、このシステムは他のEUの国々では、すでに何年もちゃんと機能しているというから、理解に苦しむ。

 公共交通の乗客の利益を代表する団体「プロ・バーン」のスポークスマンによると、「トラブルは、システムにあまりにも多くのハイテクが詰まり過ぎていて、日常的ではないから」だそうだ。21世紀のコメントとは思えない。

 それにしても、ハイテク国ドイツが、なぜ、1日にたった3往復の超特急をまともに走らせることができないのか。このままでは、本当に「夢」の超特急になってしまう。

 そういえば、この超特急の開通の3日前の5日夜、ケルンからクレフェルトに向かっていた普通列車が、信号待ちで停車していた貨物列車に衝突し、脱線するという事故もあった。

 https://rtlnext.rtl.de/cms/meerbusch-zugunglueck-mit-vielen-verletzten-fahrdienstleiter-gab-wohl-trotz-rot-signal-anweisung-zur-weiterfahrt-4135499.html

 155人の乗客のうち、50人が負傷。しかも、高圧の架線が垂れ下がって救助隊が近づけず、電気が止められるまで2時間、乗客の救助ができなかった。これも、ドイツ鉄道の事故対策の不備として、非難の対象となった。

 翌日、「ここは普通列車が走ってはならない区間だった」と、意味不明の発表があったが、それにもかかわらず、なぜ、ここを列車が走っていたかは、まだわからないそうだ。

 そういえば、首都ベルリンに作っているヴィリー・ブラント新空港は、2007年に開港予定で計画が始まったものの、「技術上の問題」で延び延びになり、外観は完成したが、開港には未だにこぎつけられない。開港予定は2010年、2011年、2012年と延び続け、今では、2019年か、あるいは、このまま空港の遺跡になるとも言われている。

 読者は私を信じないかもしれないが、これらはすべて本当の話。ドイツは不思議の国である。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171215-00053829-gendaibiz-int&p=3


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