韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(64)が就任後、初めて中国を訪問した。中国の習近平政権から「国賓」として迎えられた文氏であったが、北京で待っていたのは礼遇どころか、徹底的な“冷遇”。中韓首脳会談は中国側の思った通りの結果に終わり、韓国の対中国外交の限界が露呈した。落ち込んでばかりいられない文在寅政権の韓国は、次の日韓首脳会談に向けて、また韓国らしい動きを見せ始めている。(ソウル 名村隆寛)

 文氏が訪中した13日は、「南京大虐殺」からちょうど80年。中国江蘇省南京市の「南京大虐殺記念館」でこの日に開かれた追悼式典には、習近平国家主席(64)が3年ぶりに出席した。文氏は北京到着後、在中韓国人らとの会合で「韓中両国は帝国主義による苦難も共に経験し、共に抗日闘争を繰り広げ、厳しい時期を一緒に乗り切ってきた」と訴えた。15日に北京大学で講演した文氏は「私は習近平主席に中国の度量の大きい夢を見た」と大リップサービス。最終日の16日には、“抗日の拠点”であった重慶の「大韓民国臨時政府」庁舎跡も訪れた。

 中韓関係は、北朝鮮の弾道ミサイルに対処する米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備に中国が反発し、韓国に経済的な“制裁”を加えるなど、険悪な状態が続いている。文氏の訪中が迫ってもTHAAD問題などで双方の立場は変わらず。文氏と習氏による首脳会談後の共同声明採択や共同記者会見は見送られることがほぼ確実となっていた。(現に実現しなかった)

 何とかこの苦境をしのぎ、訪中を成功させたかった文氏にとって、訪問初日が「南京大虐殺」から80年の日に設定されたことは、歴史問題での中国との「対日共闘」という歴史カードを使うのにも絶好の機会だった。文氏としては、歴史問題での中韓共闘を張り切ってアピールし、中国の歓心を買い、距離を縮めるつもりだったのだろう。だが、懸命に共闘パフォーマンスをする文氏への中国側の態度は実に冷めたものだった。

 中国が文氏に対して今回行ったことは、“放置”の一言に尽きる。14日の首脳会談を除き、中国は文氏を放置し、好きなように勝手にやらせた。そして、文氏はやはり期待通りに応じてくれた。11月に訪韓したトランプ米大統領との首脳会談では、晩餐(ばんさん)会に元慰安婦の女性を招待し、トランプ氏と抱擁させた文氏。晩餐会では竹島(島根県隠岐の島町)の韓国名である独島(トクト)を冠した「独島エビ」を使った料理も出した。いずれも、なりふり構わず米国に韓国の思いを伝えたいという気持ちがにじみでていた。

 この時は、米国の度量で形の上ではうまくいったが、相手が中国になるとそうはさせてくれない。中国に韓国の思いを伝えようと文氏は懸命に振る舞ったが、中国はそんな文氏や韓国の思いは十分承知した上で、放置と冷遇という形で対応しただけだ。訪中を前に韓国ではまたも、滞在日数が少ないやら、初日に習氏が会わないやらと、メディアからは不満が出ていた。しかし、文氏を待っていたのは、当初の不安や想像を超えた冷遇だった。

 空港に出迎えたのは、はるかに格が下の中国外務次官補。約10回の食事で共産党指導部との会食は習氏と陳敏爾・重慶市党委員会書記の2回だけ。王毅外相に至っては、文氏と握手した際、あたかも対等の関係のように軽々しく文氏の腕をたたく始末。これに、中国人警備員による韓国メディアのカメラマンへの暴行という想定外のオマケがついた。「国賓」とは名ばかりだった。

 中国の扱いに韓国世論、特にメディアは激怒した。「冷遇を超えた無礼」「無礼を超えた侮辱」「傲慢」「高圧的」「意図的かつ悪意ある態度」「暴力的な本性」「見せしめか」「飼い慣らし」。韓国各紙は連日、このような表現で、中国を非難し続けた。それどころか、韓国側は当初の狙いであったTHAAD問題の棚上げや、中国からの“制裁”の解除、習氏の平昌五輪出席の確約などを、中国側から全く取り付けられなかった。

 はたしてこれは外交なのか。韓国は外交的敗北どころか、最初から中国に「同等の相手」としてはみなされていなかったのだ。習氏は、THAAD問題で中国の言うことを聞かない韓国を、訪中した大統領を冷遇するという方法で、中国13億8000万人の人民を前に“さらし者”にした。「韓国の自尊心はこれ以上ないほどに傷つけられた」(中央日報)のが、韓国の素直な受け止め方だ。

 韓国のメディアや保守系野党は、中国にやられ放題で何もできない文氏の姿に「屈辱外交」「朝貢」「物乞い外交」と批判を浴びせた。韓国の足元を見た上でなめきった態度をとった中国への腹立たしさと、韓国政府のふがいなさに対する歯がゆさが、ソウルでは嫌というほど伝わってきた。2013年に朴槿恵(パク・クネ)前大統領(65)が国賓として訪中した際は、習氏や李克強首相らが食事をともにした。だが今回、中国は李氏との会食を設定さえしなかった。

 文氏は習氏との首脳会談と晩餐会があった14日の朝、北京市内にある庶民の食堂で夫人とともに食事をした。韓国国内で庶民派をアピールし大統領になった文氏らしいパフォーマンスではあるが、場所は中国だ。ここでもサプライズを狙ってか、張り切っちゃった文氏。北京からの情報では、ほとんど感心もされず、むしろ奇異に受け取った冷ややかな見方が多かったという。

 世論の怒りをなだめるかのように、文氏は帰国後、「韓中関係の全面的な正常化と協力の土台を固めた。非常に充実した成果を得た」と自己評価した。しかし、中韓首脳会談で韓国側は実質的に何も得られなかった。「中国の本性が分かった」「中国の本当の姿をはっきり見た」(いずれも韓国紙)といった方が正直なところだろう。中国は今回、まるで属国に対するかのように、露骨に韓国を見下げた。それどころか、文氏が言ったような「関係正常化と協力の土台」など認めてはいない。「関係を完全に修復したければ、言葉でなく行動で示せ」と言いたいばかりだ。

 中国側からすれば、「まだまだ、これからだ」といったところか。「中国の言うことを聞き、従えばメシなんぞいくらでも振る舞ってやる」くらいにしか考えていないのだろう。2015年9月、利用されているとも知らずに朴槿恵前大統領は北京に出向き、中国の「抗日戦勝70年」記念行事に出席し、習政権との連帯をアピールした。今振り返ってみても、お笑いぐさだが、あの時、朴政権はこぞって喜んだ。中国側は「韓国はメシを食わせてやれば喜ぶ」ぐらいにしか思っていない。

 韓国は認めたがらないが、悲しいかな、これが中韓の現実である。中国は特に格下が相手の場合は、今回のように露骨にえげつない態度をとるのだ。文在寅政権の韓国は、国際政治の難しさと、韓国が「日本」を批判し、おとしめる際に口にして止まない「国際社会の現実」を、中国から思い知らされた。その貴重かつ屈辱的な授業料は、頼まれもしないのに韓国が勝手にやってしまった中国への歩み寄りだ。

 文氏が中国の期待に応じ、思ったように振る舞ったことに、中国はさぞ、満足していることだろう。いや、「当然のこと」と思っているとみていい。

 「歴史を忘れた民族に未来はない」。ソウルのど真ん中にある旧ソウル市庁庁舎(現在は図書館として利用され、新庁舎は隣接して建てられている)に昨年、このように書かれた大横断幕が掲げられていた。ソウルの日本大使館前に設置された「慰安婦像」の写真もプリントされ、「歴史を忘れた日本」を批判すると同時に、「日本との歴史を忘れるな」と市民を啓発しようというものだった。中韓首脳会談で、中国から高圧的な態度で見下げられ、“屈辱”を味わわされた韓国。今回、判明し再確認できたのは、中国に何をされても韓国のトップは何も言えないことだ。歴史をさかのぼれば、今に始まったことではなく、少なくとも朝鮮時代(李氏朝鮮王朝時代、1392~1897年)に明や清とは朝貢関係にあった。

 しかし、世論が中国に腹を立てているように、今回のことこそ、韓国はこの屈辱を歴史に残すべきではないか。「誤った歴史」を繰り返さないためにも。「歴史を忘れた民族に未来はない」のだそうだから。ただ、中国に頭が上がらないと同時に、中国から笑顔を見せられれば喜んですり寄るのも韓国。もし、習氏が平昌五輪の開会式に突如現れたなら、どんな反応を見せるだろうか。これまで繰り返してきた“韓国らしさ”が目に浮かぶ。

 年末で日本が忙しいであろうなか、また別の“韓国らしさ”が見え始めている。慰安婦問題などであれほどコケにし続けてきた日本へのすり寄りだ。文氏が中国から帰国した翌17日、韓国大統領府の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席秘書官は、東京での開催を日本が求め続けている日中韓3カ国首脳会談が早期に実現しない場合、文在寅大統領が訪日し、安倍晋三首相との2国間会談を行うことを検討する考えを表明した。日中韓首脳会談は中国の同意が得られず、日程調整が難航している。中国への怒りもさめやらぬなか、文氏の側近の発言をめぐり、韓国の何らかの意図も憶測された。

 以前から進められていたことだが、この日、日韓両政府は19日に東京で日韓外相会談が開かれることを発表。韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は19日に訪日し河野太郎外相と会談した。韓国は平昌五輪への安倍晋三首相の出席を要請したという。韓国政府は、慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓政府間合意の締結に至った過程の検証作業を、7月末に康外相直属の作業部会を設置し、続けてきた。合意から28日でまる2年になるのに合わせ、27日には検証結果が発表される予定だ。

 発表内容では、「合意には問題がある」と指摘される見通しだ。慰安婦問題は日韓合意により「最終的かつ不可逆的に解決された」ものであり、韓国側の一方的な検証結果発表は、日本側として受け入れられない内容とみられる。そんな日本サイドの状況を見越してか、韓国はまた、慰安婦問題を韓国らしい手法で扱おうとしている。

 康氏は東京での韓国メディアとの懇談会で、検証結果を作業部会が出した後の韓国政府の対応に関し「被害者(元慰安婦ら)と関連団体、有識者の意見を幅広く反映させ立場を決める」とし、政府対応が固まるまで「相当の時間がかかると思われる」と語っている。つまり、韓国政府としては、慰安婦問題への対応を当面、先送りするということだ。韓国政府にとって現在、最も差し迫った課題は、2月9日開幕の平昌五輪を成功させることだ。安倍晋三首相の平昌訪問を求めており、日本からの大量の観客を期待している。ここで、慰安婦問題で日本との関係をこじらせたくないというのが、韓国の思いであり、平昌五輪成功には日本の協力が絶対に必要なのだ。

 日韓合意の検証作業部会は康外相の直属なのだが、ここにきて韓国は「民間組織」であるとし、検証結果は韓国政府の政策と一致するわけではないと、理解に苦しむことを言っている。「両国が(歴史問題を)抱え続ける必要はなく、整理する方向に進み、未来への話とは別に論議せねばならない」(韓国大統領府高官)という。ただ、韓国メディアに対し康氏は、「被害者(元慰安婦)が満足しなければならないというのが政府の立場」とし、「韓日関係改善への立場を示すことも急務。問題をうまく解決すれば来年、両国関係が未来へ大きな一歩を踏み出せる機会になる」と述べたそうだ。

 簡単に言えば、日本が日韓合意の履行を韓国側に求めようが、少なくとも平昌五輪の終了までは、慰安婦問題を棚上げし、日本には協力してもらいたいということだ。文在寅大統領の訪日も取り沙汰されるが、五輪が迫る中、時間的には厳しいものがある。五輪に合わせ安倍首相に訪韓してもらい、日韓首脳会談をまず韓国で行う可能性もある。要するに、韓国の都合が第一。韓国の状況次第でどうにでもできるのだ。場当たり的で、調子のよい手法に映る。しかし、これが韓国のやり方だ。困ったときのなりふり構わぬ日本頼み、韓国人が大好きなはずの“自尊心”も何もない。

 だからといって、韓国がすり寄ってきたからといって喜ぶ必要なんてない。また、韓国が手のひらを返すことは十分にあり得る。慰安婦問題をめぐって韓国自身がこれまで、そんな態度をいやというほど示してきたわけだから。中韓首脳会談で中国が韓国に相変わらずの姿勢を見せたように、韓国の対日姿勢も簡単には変わらない。反発とすり寄りの繰り返し。韓国の甘えに、お人よしにも日本は応じ続けたが、歴史カードで問題を蒸し返され、裏切られ続けてきた。今回の韓国の動きは、日本にとって韓国との付き合い方を再び学ぶよい機会でもある。悪しき歴史を繰り返さないためにも。

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