<日本は遅いが、中国は早い。中国北部の冬の名物といえば「PM2.5」だったが、先日訪れた北京には青空が広がっていた。暖房を石炭から天然ガスへという政府の政策が早くも成果につながったようだったが……>

最近、月に1度は中国を訪問している私だが、冬の中国北部はどうも気が進まない。日本でもすっかり定着した言葉だが、「PM2.5」が辛いからだ。
国では長江以北には「暖気」と呼ばれる集団暖房システムが導入されている。一種のセントラルヒーティングで、街区ごとにボイラーがあり、個々の住宅にお湯を流すことによって暖房にするというシステムだ。

そのボイラーは石炭を燃料としている。日本のような最新式の火力発電所ならば石炭を燃やしても大気汚染は少ないが、街の津々浦々にある旧式ボイラーに汚染防止策など望みようもない。かくして冬に中国北部を訪れると、凄まじい大気汚染に苦しむことになる。
まあ、これもビジネスだ、仕方がない。そう覚悟しつつ、マスクをポケットに詰め込んで飛行機に乗ったのだが、北京に着いて驚いた。なんと青空が広がっているではないか! 習近平政権は汚染対策を重要課題の1つとし、莫大な資金を注ぎ込んでいる。そのかいあってついに冬の北京に青空が戻ってきたのだ……。

――という話だったならばステキなのだが、そんな単純な話ではない。

この1年、中国で猛烈な勢いで進行したのが「煤改気」、すなわち「石炭から天然ガスへの転換」。旧式ボイラーを破壊し、天然ガスを使うボイラーに転換するという政策だ。中国政府は各自治体に数値目標を課し、天然ガスへの転換を推進するよう指示した。

これが失敗の始まりだった。というのも数値目標ができた瞬間、「目標値を大きく上回る成果を上げてやろう」という地方官僚の功名心に火が付くからだ。かくして各地で天然ガスへの転換ブームが起きたのだが、その結果として天然ガス・ボイラーはあるが燃料となる天然ガスが不足している、旧式ボイラーを壊したはいいが新型の設置が間に合わなかったなどなどの馬鹿げた状況が生まれてしまった。

北京の空がきれいになったのは素晴らしいことだが、その空の下には石炭ボイラーを失ったのに天然ガスが手に入らずに凍えている住民が多数いたというわけだ。

「スラム再開発」「看板取り壊し」も批判を浴びた

中国では1958年から始まった大躍進政策が、史上空前の大失政として知られている。欧米を追い抜けとばかりに鉄鋼生産量や穀物生産量で過大な数値目標を課したところ、無謀な取り組みや虚偽の報告が横行し、経済が麻痺してしまった。大躍進政策が行われた3年間で、餓死者数は4000万人に達するとの推計もあるほどだ。

大変な悲劇だが、中国ではその後もさまざまな「プチ大躍進」が繰り返されている。今回の天然ガス大躍進もその1つだ。

中国では1958年から始まった大躍進政策が、史上空前の大失政として知られている。欧米を追い抜けとばかりに鉄鋼生産量や穀物生産量で過大な数値目標を課したところ、無謀な取り組みや虚偽の報告が横行し、経済が麻痺してしまった。大躍進政策が行われた3年間で、餓死者数は4000万人に達するとの推計もあるほどだ。

大変な悲劇だが、中国ではその後もさまざまな「プチ大躍進」が繰り返されている。今回の天然ガス大躍進もその1つだ。

日中のちょうど中間あたりに理想があるはず

民主主義の日本はとかく決定が遅い。その間に中国は先へ先へと進んで行ってしまう。日本の遅さにはうんざりするが、その一方で軽やかに前進する中国はどうしようもない失敗を犯してしまうという問題があるのも事実だ。

日中のちょうど中間あたりに理想があるはずと思うのだが、その塩梅を見極めるのが難しい。今こそ私、李小牧のように日中両国を熟知している人間が必要とされるだろう。

さて、政府による頭ごなしの改革には他にも弊害がある。私は北京で1泊した後、故郷である湖南省に飛んでそのことを痛感した。

 9月3日、中国の環境保護省は、地球温暖化の影響で今年の秋と冬の気候が例年よりも温暖で多湿となることから、スモッグの発生リスクが高まる可能性があるとの見通しを示した。写真は2月に北京で発生したスモッグの中走る自動車の様子(2017年 ロイター/Jason Lee)

湖南省は長江以南、すなわち冬でも「暖気」がない地域だ。冬のPM2.5とは無縁の世界だったはずなのだが、なんとどんよりと曇っているではないか!

中国北部、北京の空気をきれいにするという大号令が掛けられれば、ボイラーの改造だけでなく、汚染企業には操業停止や移転が命じられる。彼らは空気がきれいな中国南部へと移転したのだろう。

実は昨冬も中国南部で深刻な大気汚染が観測され、話題となっていた。香港や広東省などの最南部でも灰色の空が出現したのだ。中国政府が汚染対策の成果を誇らしげに発表する中で、南部に異例の汚染が観測された。両者の関係を疑う人は多い。きれいに掃除したように見せかけて、実は自宅前のゴミを隣家の前に移動するだけだったのではないか、と。

北京の青空の犠牲となって、わが故郷はどんよりとした灰色の空に覆われることになってしまった。自分の家のゴミを全部、隣の家の庭に投げ込むような汚染対策である。

北京では使わずに済んだマスクだが、私は捨てずに取っておいた。それが無駄にならなかったようだ。こうして私は湖南省で初めてマスクをつけることになったのだった。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171225-00010000-newsweek-int&p=1