日本の排他的経済水域(EEZ)にある日本海の好漁場「大和堆(やまとたい)」周辺での北朝鮮漁船による違法操業問題で、平成30年のスルメイカ漁期に海上保安庁の巡視船が29年より前倒しで投入される見通しとなった。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領海警備など多方面を警戒する海保が、大和堆で日本漁船の保護という新たな重要任務を担えば、その負担は増し、巡視船運用は薄氷の調整が続くことになる。

■北朝鮮籍?の船舶から向けられた銃口

 日本漁船は29年6月上旬、大和堆付近に出漁したが、北朝鮮船に操業を妨害されるなどし、同7月上旬の海保到着前に北方に移動した。対応していた水産庁の手が回らず、多数の北朝鮮船に違法操業を許してしまったためだ。政府は29年漁期の実態を踏まえ、巡視船の前倒し投入で先手を打つ必要があると判断したもようだ。

 海保は29年、大和堆周辺で北朝鮮船の多さに応じて取り締まる巡視船数を調整。「具体的な手の内は明かせない」としているが、産経新聞は同7月、取り締まり拠点の第9管区海上保安本部(新潟)がある新潟港で各地の巡視船5隻を確認した。現場海域では5隻程度が対応したとみられる。

 日本漁船は29年、大和堆周辺でほとんど操業せず、北海道沖で漁を継続。30年漁期に日本漁船が大和堆で操業を再開した場合の懸念は、北朝鮮船とのトラブルだ。

 大和堆の周辺海域では、巡視船派遣直前の29年7月上旬、水産庁の取締船が北朝鮮籍とみられる船舶から銃口を向けられた。日本の漁業者からも不安の声が上がっており、海保には「不測の事態は避けなければならない」との思いが強い。

 ■「船テレ」を派遣船に配備

 このため、海保には北朝鮮船の排他的経済水域(EEZ)外への排除以上に入念な警戒態勢が求められるが、大和堆に配置する巡視船数の増強は簡単ではない。「全国の巡視船と乗組員は既にぎりぎりで運用」(海保幹部)しており、海難事故や救助に備えて各地に巡視船を残しておく必要もあるからだ。

 政府は29年12月18日、海上保安体制の強化を協議する関係閣僚会議を前年に続き開催。大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備方針を再確認した。

 方針に伴い、海保は海保本庁(東京都千代田区)や官邸(同)で巡視船側が撮影した映像を即時視聴できる映像伝送装置「船テレ」を大和堆派遣船に配備することを決定。30年度予算の概算要求に盛り込んでいた巡視船2隻の新造も29年度補正予算案に前倒しで計上した。だが、巡視船の完成は早くとも32年度で、体制確立は道半ばだ。

 ■「一瞬も気を抜けない状態続く」

 大和堆での対応を含め、海保の任務は多方面に及ぶ。日本海沿岸には29年秋以降、違法操業をしていたとみられる木造船が多数漂着。北海道の無人島では、漂着した北朝鮮船の乗員による窃盗事件も発生した。老朽化した北朝鮮船が大和堆に集まる限り、漂着は相次ぐ恐れがあり、海保は巡視船艇や航空機による沿岸警備の強化を打ち出した。

 また、中国公船が領海侵入を繰り返す尖閣諸島での警備は24時間体制で、専従船12隻以外にも各地から応援を投入している。中国は29年、尖閣以外でも領海侵入を繰り返し、尖閣周辺では無許可海洋調査を1カ月以上断続的に実施。巡視船が監視に当たった。

 いずれの事案も今後、同時発生し、突発的にエスカレートする危険性が十分にある。北朝鮮の国策を受けた大和堆での違法操業を現状で沈静化させる有効な手段はなく、30年漁期の対応も長期間に及ぶとみられる。

 海保幹部は「30年に創設70年を迎えた海保の歴史で、外交や政治に絡む事態がこれほど頻発したことはないだろう。一瞬も気を抜けない状態が続く」としている。

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 ■大和堆と違法操業=大和堆は秋田県の男鹿半島から西に約400キロの水深が急激に浅くなる海底地形で、日本のEEZ内にある。海流の影響を受けてプランクトンが豊富で、スルメイカなどが取れる。国連海洋法条約はEEZ内の水産資源の管理権限を沿岸国に認めている。日本は北朝鮮と漁業協定を結んでおらず、日本のEEZ内で操業する北朝鮮の漁船はEEZ漁業法違反になる。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171229-00000085-jij-m_est