◇「調査部門残っている」

 北朝鮮の駐英公使を務め、2016年8月に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏(55)が毎日新聞の単独インタビューに応じ、日本人拉致問題について金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「拉致問題の解決と引き換えに、日本から巨額の資金援助を受けられることを望んでいる」と明らかにした。また、北朝鮮が「解体する」と表明していた拉致被害者らの調査のための「特別調査委員会」について「裏では(担当する)部署はそのまま残っている」とも証言した。

 太氏は17年12月中旬、ソウル市内でインタビューに応じた。

 拉致問題を調査する部署に関連し、太氏は「正確な名前は分からないが、国家保衛省(旧・国家安全保衛部=秘密警察)の中に、拉致被害者問題を担当する専門の部門が別途ある」と強調した。拉致被害者の安否情報を「(北朝鮮側は)当然すべて把握している」と述べたものの、具体的な情報には言及しなかった。

 太氏は拉致問題をめぐり「資金の入った袋を日本が明確に見せない限り、金正恩(委員長)は拉致問題を解決しようとしないだろう」と述べ、日本側と食い違っている点を強調した。

 太氏は「(北朝鮮側から)『資金援助で帰す』と持ちかけるわけにはいかない」との見方を示す。日本側の世論がより硬化する恐れがあると判断しているためだ。また「(金委員長は)拉致問題で日本から資金を得て、北朝鮮経済に輸血しようとしている」と例えた上、「資金を出すならば、日本に有利に解決するはずだ」との見解も示した。

 太氏は北朝鮮の高級外交官で、韓国統一省は「1997年に米国に亡命した張承吉(チャン・スンギル)駐エジプト大使(当時)に並ぶ、外交官で最高レベルの脱北者」と位置づけている。韓国の情報機関・国家情報院の関係者は「妻やその家族が中枢に連なる人物であり、本人も出身成分(身分)は高い。拉致担当ではないが、省内や親族を通じ核心情報に接している可能性はある」と判断している。【北朝鮮情勢取材班】

 ◇太永浩(テ・ヨンホ)氏

 1962年7月、北朝鮮生まれ。中・高校在学中に中国に留学し、北京外大付属中で英語と中国語を学んだ。当時の学友には、北朝鮮の外相や副首相を務めた許錟(ホダム)氏の子息らがいた。平壌国際関係大卒業後、外務省入り。デンマークやスウェーデンなどで勤務した。駐英公使だった2016年8月17日、韓国に亡命。北朝鮮の体制に対する嫌悪感や「子どもや将来の問題」が動機と説明している。

 ◇「コメントする立場にはない」家族会代表

 太氏の発言について、拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表は取材に対し、「コメントする立場にはない」と話している。

 ◇勝手な解釈許されぬ

 北朝鮮による日本人拉致は国家犯罪行為である。無条件で被害者帰国・真相究明・実行犯の引き渡しに応じなければならない--これが日本側の一貫した立場だ。

 太氏は拉致問題の進展に「巨額の対価」が必要だと主張する。同氏によると、資金援助の規模は100億円以上とみられる。北朝鮮はこの巨額資金によって経済難からの脱却を図ろうとしているのだろう。

 もちろん、この北朝鮮側の身勝手な論理を受け入れることは到底できない。日本国内の世論も許さないだろう。

 ただ、日朝首脳会談(2002年9月)により一部の被害者が帰国して以後、15年以上もこの問題が進展していない。何度か交渉の機会は訪れたものの生かすことはできなかった。被害者の帰国を待つ家族らの高齢化が進み、昨年暮れには親族の死去も相次いだ。

 北朝鮮が今年、挑発行為を中断し国際社会との関係改善に乗り出すのか、予断を許さない。ただ、北朝鮮が国際社会の圧力に耐え切れず何らかのシグナルを発信した時、それを敏感に受け止め、核・ミサイル開発の断念と拉致問題解決に向かうよう北朝鮮を導いていく準備が必要だろう。

 そのためにも、北朝鮮がどういう指揮命令系統の中で、いかなる発想・価値観・ルールに基づいて、拉致問題をめぐる駆け引きを進めようとしているのかを探る必要がある。今回のインタビューで明らかになったのは、その一端に過ぎない。北朝鮮側と粘り強く意思疎通を図り、事態を動かす時期に来ているのではないか。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180101-00000012-mai-int