◆「自衛隊ができない20のこと 20」

 北朝鮮からのミサイル防衛も中国による領海侵犯(潜没潜水艦対処)も、海上自衛隊と航空自衛隊が中心です。国境の海と空を守る航空機も艦艇も定期的にメンテナンスが必要です。部品や消耗品の交換機器類の調整を行わなければまともに運用できません。海水に浸された鉄ってボロボロになるでしょう? サビたりフジツボがついたりもしますから、定期的にドックに入って精密で機敏な動きができるようにメンテナンスするのです。

 潜水艦や護衛艦などの艦艇は定期的にローテーションを組んでJMU、川重、三菱重工などの造船所に入ります。特に船は海水に浮いたままだと船底がどうなっているのか見えませんから、ドックに入って水を抜き船底部分も見える状態にしてチェックするのです。

 修理中の艦艇はソナーやプロペラなどの対潜水艦戦能力が推測できる重要な装備が露出しています。それは軍事関係の技術者ならその形状を見ればどんな能力があるのか推定できてしまう危険があります。自衛隊の規則や特定秘密情報保護法の対象は、知られると国防上の危機を即座に招くようなものしか秘密扱いにできないのです。だからこんな形で外から見られる状態でも合法なのです。物理的に見えてしまうものを秘密にできないことは、とてもつらいのですが仕方ないのです。しかし合法ですから造船会社の対応も間違っていると非難できないのです。だから造船会社を叩くのも間違いです。「ぐぬぬぬ」って声が聞こえます。

 これまでわが国は秘密保持の問題にさほど気を使ってきませんでした。特定秘密情報保護法が成立するまで、自衛官以外の公務員が秘密を漏らしても罪に問えない状態だったのですから、それでも一歩前進はしました。しかし、まだまだなのです。携帯電話やスマホの普及でどこでもカメラをもった人がいるようになった社会の変化にも対応できていないのです。対処するには、製造や修理する工場などに衝立やカバーをつけるための補助金を国が支給すべきですが、我が国は政府支出を減らすことが正しいと考えています。それは安全保障についても変わりません。だから放置されているわけです。

 11月15日付の産経新聞で「防衛装備品の価格算出方式見直し 部品・組立メーカーに原価低減促すことを政府が提言した」とありました。記事はC2輸送機に関しての価格を低減させるというものでしたが、一事が万事です。修理費や部品、装備品の価格をできるだけ安くしろと政府は常に圧力をかけます。

 おかげで防衛産業はどこも青色吐息です。海上自衛隊でもペンキ塗りや部品の交換など隊員でもできることはメーカーではなく隊員がやるようになりました。本来は精密なものですからメンテナンスの機会にメーカーがやるべきなのですが、コストが合わないなら人件費を削るしかないのです。そこでまた自衛隊員たちがドック中だけはお休みがもらえたところを休み返上で修理にいそしむわけですから、不満も膨らみ、自衛隊員が減る原因にもなっています。海上保安庁の船も港にいる間は不慣れな隊員たちが毎年どれだけ修理に必要な経費を削れるのか競い合っています。

 コストをできるだけ低減させると何がおこるかというと、余裕があればできたことがおろそかになるということです。

 この写真を見てください。

 ドックに入っている練習艦かしまを一般道のわきの公園から撮影したものです。船底のソナーも映っています。ソナーは外観を知ることで、敵に海上自衛隊の能力を察知される可能性のある重要な設備です。ドックもギリギリの予算でやっているわけです。人目をさけるための大きな衝立をつくる余裕は造船業界にはありません。防衛産業の予算を削れば削るほどこういった問題が出てきます。一般人が簡単に写真の撮れる場所で海上自衛隊の艦艇が修理されているってことは、そこから撃てば確実に艦艇を破壊できるということです。しかも目視で目標を確認できます。こんな場所がいくらでもあります。

 インターネット上には潜水艦のドック内の鮮明な画像も投稿されているのです。

 修理中の潜水艦を完全に丸裸にしている画像です。防衛省にはこの写真を削除する権限がないのでしょう。警察と違いツイッターに削除を求めることもできないかと思います。特定秘密情報保護法は公務員を縛る法律なので公務員やその関連職種でない一般人の投稿に対して削除を要請する法的根拠がないのだと思います。

 これまでわが国は秘密保持の問題にさほど気を使ってきませんでした。特定秘密情報保護法が成立するまで、公務員が秘密を漏らしても罪に問えない状態だったのですから、それでも一歩前進はしました。しかし、まだまだなのです。

 防衛産業にきちんと利益があれば、その利益をつかって事業所を簡単に人目に付かない場所に移し替えることもできるでしょう。しかし我が国は安全保障についてもコスト削減を掲げ、企業は利益が減る一方です。安全保障に関しての秘密をまもるために、国内軍事産業に協力を求めるなら十分な資金の提供を行う必要があります。ただでさえ企業努力でなんとか抑えている装備品のコストを低減しようとするなど正気の沙汰ではありません。

 防衛産業だって営利企業ですから、儲けにならないことはしませんし、株主も許してくれないでしょう。造船業も新造船は撤退する会社が多いのです。これまでの付き合いで仕方なく無理を聞いているとしても更なるコスト削減の波が来れば廃業を決めてしまう可能性だってあるのです。

 軍事産業は余力があれば研究開発して新しい技術をつくりあげます。新しい技術革新はもう日本ではほとんど起こりません。研究開発に予算が出せない企業や国には技術者は残りません。技術者も研究者も海外にその技術をもって出て行ってしまいます。

 軍事産業であるGoogleなどの企業がきちんと利益を得て大きくなっていくように、トヨタや富士重工、川重、JMU、三菱、ニコンなどがあたらしい技術を革新し日本へ富をもたらすべきだと考えて防衛装備庁ができたのです。航空機や潜水艦、防衛装備品を輸出することで儲けようと考えているならその技術の秘密保持体制がこれではお話しになりません。

 安全保障に必要な経費はケチらず余剰があるくらいにするべきです。

小笠原理恵

国防鬼女ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180106-01434661-sspa-soci