日本側が拠出した10億円の扱いに関する、韓国側の主張も意味不明である。それ以上に、「再交渉は求めない」と言いつつ、実際には合意事項全てを事実上、反故にしているのが新方針である。安倍首相の「全く受け入れることができない」というのは当然であり、日本側としてこれに対応する必要は全くない。

 ただ、日本側が対応しないとなると、また挺対協を中心に米国で日本批判をするであろう。「日本に圧力をかけるために米国を味方にする」というのがこれまでの韓国である。

 となると日本としては、挺対協が慰安婦支援団体でなく、過激思想に取り込まれ、北朝鮮寄りの活動をする政治団体(幹部の夫や妹で北朝鮮と繋がりのある人もいる)であることを、米国でもっと発信していくこと必要があるだろう。米国の少女像撤去を求めても、米国では支持は得にくいであろうが、挺対協がいかに日韓関係をむしばんできたかと発信すれば理解を得やすいであろう。

 日本はもっとうまく立ち回っていく必要がある。

● 韓国の各メディアも 文政権に疑問を呈する

 韓国の保守系の主要紙『中央日報』は、今回の新方針に対する日本の反発は、「これまでとは次元の異なるものである」との趣旨で、一連の記事を掲載している。

 まず、筆者が注目した記事は、「日韓議員連盟、東京の真ん中で『慰安婦合意衝突』」と題する記事である。

 在日本大韓民国民団の新年行事において、挨拶に立った額賀志郎日韓議員連盟会長は、「駐日韓国大使(李洙勲大使)から事前に説明を聞いたときは、韓国が合意を認めて履行するものと理解したが、今出ている報道を見ると理解できない。歴史問題が両国関係の障害になってはならない」「外交は単独でするものではなく相互間でするものであり、お互いの国益を共に考慮しなければいけない」と、新方針に対し危惧の念を表明した。

 こうした発言に対し中央日報は、過去には韓日両国間に葛藤が生じたとしても、韓日議員連盟所属議員の間で公式的な発言を控えたり、迂回的な表現を使うのが常であったが、今回の「額賀議員の発言内容は普段の額賀スタイルとは違ってとげがあった」と解説している。

 確かに、昨年12月11日に開かれた日韓・韓日議員連盟の総会の共同声明では、慰安婦合意について明確には触れられておらず、「両国の歴代政府の趣旨にそって、両国政府はともに努力することを確認」したという表現に留まっていた。筆者は、慰安婦合意が日韓間の大きな懸案になっている折でもあるし、韓国国民にもっとしっかりと日本側の考えを伝えてほしいと思ったものである。

 新年行事に出席し、額賀氏の挨拶を聞いた宋永吉韓日議員連盟副会長は、「慰安婦合意は調整が避けられない」と述べながら、文大統領の立場を代弁した。同議員は日本との関係を重視しているが、思想的には左翼系であり文大統領とも近い。額賀会長の発言を文大統領にどう伝えたであろうか。

● 朝日の元ソウル支局長の批判を 韓国保守系メディアが紹介

 また、同紙は、「『知韓派』日本言論人が見る最近の日韓関係」と題する記事で、朝日新聞の箱田哲也論説委員のインタービューを掲載している。

 箱田氏はこの中で、「文在寅政権には責任ある姿勢でこの問題に終止符を打とうとする考えがあるのか疑わしい(中略)2015年の日韓慰安婦合意には日本側の責任とおわび、反省が明確に込められている(中略)歴史問題に強い執着を見せる安倍政権が事実上、国家としての責任を認めたのは『歴史的な事件』だった」「合意に含まれていた『不可逆的な解決』という表現は韓国側が先に提案した。責任と謝罪に対する立場を覆すような言動をしてはならないという意味だった」と述べたのを紹介している。

 韓国のメディアはこれまで、自己中心的な論理で固められ、常に自分たちが正しいと主張し、日本側がどのように考えているかについて“無頓着”を決め込んできた。それが、朝日新聞の元ソウル支局長の批判を紹介したのは画期的である。そもそも韓国の保守系メディアは、文政権の親北姿勢を警戒しており、率直に批判するようになっていたが、それが日韓関係にも波及してきたのは驚きである。

『朝鮮日報』も、「引っかきまわした揚げ句、矛盾した対策しか打ち出せず」と題する記事で、文政権は、「韓国政府が別個に同じ額の「政府充当金」を用意し、国民感情からくる拒否感を静めようとする代案を打ち出したのだ。だが、合意履行事項の一つである拠出金10億円に関して日本と再び協議するのは、事実上の再交渉という指摘もある」と主張している。また、決して保守系とは言えない『聯合通信』までも、「今回の韓国政府の方針により、日本の拠出金を韓国政府が負担することとなれば、アジア女性基金のときと変わりがなくなる」と述べている。

 最後に、『中央日報』が、読売新聞が実施した世論調査の結果を報道しているのを紹介しよう。それによれば、韓日慰安婦合意について、韓国政府の追加要求に応じないとした安倍政権の方針を「支持する」と答えた日本人が83%に上ったということである。韓国の人々がこれを、「日本人は相変わらず反省がなくけしからん」と受け止めたのか、それとも「韓国がいつまでもゴールポストを動かすのはまずい」と考えたのか。恐らく、今は前者であろう。ただ、反省の気運が出始めたことには注目している。

● 韓国が客観的に見なければ 日本人の気持ちは一層離れていく

 日韓関係が改善するとすれば、それは韓国が自己の論理に固執せず、日本側の考えにも耳を傾け、より客観的に判断できるようになったときである。恐らく今の文政権ではこれは難しいであろう。

 ちなみに、筆者の書いた「韓国人に生まれなくてよかった」という本は、韓国の保守層から翻訳出版したいという申し入れを5~6件受けている。筆者が優柔不断でまだ発刊されていないが、文政権の本質を扱い、日本人の文政権に対する危惧を率直に扱ったものとして、再び注目が集まったのだろう。筆者も、韓国人に日本人の考えを知ってもらうためには、翻訳出版することが第一歩だと考えており、近々決断しなければならない。

 (元在韓国特命全権大使 武藤正敏)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180122-00156556-diamond-int&p=4