ノルディックスキー・ジャンプ女子の高梨沙羅への風当たりが何かと厳しい。平昌冬季五輪代表に選出されているが、本番を前にした最後の実戦のワールドカップ(W杯)第10戦(1月28日、スロベニアのリュブノ)で4位どまり。今季初優勝とジャンプの男女を通じて歴代単独最多の通算54勝目は持ち越しとなっただけでなく、これで昨年2月の平昌五輪プレ大会(昨季W杯第18戦)に勝ってから11戦も優勝から遠ざかるワースト記録を更新したまま五輪に臨まなければならなくなった。

批判の矛先はメイクやベンツだけでなく……

 それでも彼女にかかる期待は大きい。昨季W杯では個人総合1位。1月14日に札幌で行われたW杯第6戦では今季自己最高の2位に入って4戦連続で表彰台に立った。これまでの実績を考えれば、2歳年上の伊藤有希とともに日本スキージャンプ女子代表として平昌五輪でのメダル奪取は是が非でも成し遂げてもらいたいところだ。

 いや、高梨に関して言えば当時金メダル候補と目されながら4位に沈んだ2014年のソチ冬季五輪の雪辱を果たす意味でも、やはり「金」しか眼中にないはず。実際に高梨本人もメディアへの取材にここまでの4年間について「金メダルを獲るために練習してきた」と言い切っている。

 しかしながら、そんな高梨に世間の多くの人がなぜか逆風を浴びせている。バッシングの材料となっているのが「メイク」と「ベンツ」、そして「悪態」だ。

●メイクとベンツに批判

 まずは「メイク」。弱冠15歳で日本女子として初となるW杯優勝を遂げてから高梨は素朴なすっぴん姿が好感を呼んで人気を集めていたが、16年を境に目元もバッチリと決めたメイクが施されるようになった。同年の8月から大手化粧品会社、資生堂の日焼け止め商品「アネッサ」とスポンサー契約を結んだことで必然的に日焼けがNGとなり、加えて同社のアドバイスによってメイクに対する興味も深まっていき自身の美意識が高まるようになったことがきっかけとささやかれている。

 美しい大人の女性へと変貌した高梨に世間は過敏な反応を見せた。これまで純朴な姿勢で競技に打ち込んでいたはずの北海道出身の少女が化粧にうつつを抜かすなんて何事か――。多少の差異はあれども、彼女のメイクにイチャモンをつける人は大方このような不満を持っているのであろう。

 続いては「ベンツ」だ。彼女の愛車は「メルセデス AMG G63」。約2000万円の高級車のオーナーとなっていることはメルセデス・ベンツ所有者向けの会員誌「メルセデス・ベンツ・マガジン」の2017年冬号で特集記事として掲載され、周知の事実となっている。ただこの時期がちょうどW杯優勝から遠ざかり、スランプと目されているタイミングであったことから「高級車を乗り回している場合か」などといった批判が殺到した。

 そして1月24日の平昌五輪日本選手団の結団式・壮行会において、金メダルに輝いた暁には「日本に住んでいるのに日本のことを知らないと思った。(日本一周旅行を)クルマで1人でできたら」と口にしたため、約2000万円のベンツが再びクローズアップされるハメになり、ネット上でも大炎上する騒ぎになった。高梨叩きの急先鋒ともいえる一部週刊誌の取材に対し、彼女の祖父も「(ベンツ所有は)まだ早い」と苦言を呈したことも拍車をかけた。

●悪態にも批判

 そして「悪態」――。一部メディアが報じたところによれば、高梨の取材対応は非協力的で所属事務所の意向もあって肖像権を気にするがあまり、報道カメラマンの写真撮影にも常に神経を尖らせているという。確かに取材現場では「鼻に付く対応も時折見られるから、できることならば高梨とはあまり接したくない」と露骨な拒否反応を示す声もチラホラと聞こえてくる。

 14年には高梨の実父が各メディアに北海道上川郡上川町の実家に集まるように呼びかけ、大ひんしゅくを買ったこともあった。誰もが高梨に関する重大発表があると思っていたのに、その場で明らかになったのは「実家が焼肉屋をオープンする」という信じられないような“オチ”。しかも集まったメディア各社に5000円を請求したことで、報道陣が怒りを爆発させた。

 こうした背景をあらためて並べてみると、彼女が注目を浴び始めた当初のイメージである「純朴なヒロイン」から昨今の「ヒール」に成り変わる要素は多分にあったと考えられる。ただし気の毒なのは、高梨が自ら望んで今の「嫌われ者」になっているわけではないという点だ。

 そもそも高梨に逆風が吹き始めた発端は、やはり前出の「焼肉屋オープン騒動」だったと思われる。一般人なのであまり責めたくはないが、実家のメディアに対する一時の“判断ミス”が実娘の沙羅へと波及してしまい「この親にしてこの子あり」といった印象が徐々に構築されていった。メディアを一旦敵に回すと勝手な悪口を書かれ、取り返しの付かない事態へと発展していくことは昔からよくあるケースだ。

 個人的には高梨のメイクも何ら悪いことはないと考えている。年頃の女性が美意識に目覚めることは至極当然。「アイラインが濃過ぎる」とか「すっぴんのほうがいい」などと注文を付けるのは人それぞれの好みの問題であって、本人にとってはまったくの余計なお世話だ。

 それからベンツについても祖父から「NO」を突きつけられているにせよ「別にいいんじゃないの」というのが率直な感想である。もし高梨がこれまで何の結果も功績も残していないのであれば「はあ?」と疑問符が投げかけられても仕方がないだろう。だが、彼女はジャンプの男女を通じて歴代単独最多の通算54勝にリーチをかけているほどの存在なのだ。

 どれだけがんばっても年間で賞金1000万円に満たない“薄給”のノルディックスキー・ジャンプ女子の世界で少女時代から奮闘し続けてきた。そして、こうした数々の実績が評価されているからこそ彼女はCM出演やスポンサー契約で収入を増やし、1社につき数千万単位と言われる相応の対価を得ている。だから本人が望むならばベンツを乗り回そうが、構いやしない。それこそ気分転換が図れ、競技へのモチベーションアップにつながると解釈したら彼女にとっては逆にプラス材料となるはずだ。

●今は「ヒール」でも

 最後に「悪態」にも触れておく。筆者は何度か高梨を取材する機会に恵まれているが、そこまで彼女に対する悪い印象はない。ただしここ最近、メディアとの「距離感」を覚えるのは事実だ。何人かのメディア関係者が不快な思いを抱いたという話は確かに聞く。

 とはいえ、高梨の側に立ってみると彼女にも言い分があるように思えてならない。一部メディアからバッシングを受けメイクやベンツで揚げ足を取られていけば、マスコミ不信に陥っていったとしても何ら不思議はないだろう。しかも彼女は人並み外れた強い精神力の持ち主だけに、逆に開き直って「ツン」とするかのように今のような我が道を行く姿勢をあえて前面に打ち出しているのではないだろうか。そういう気がする。

 高梨の名誉のために強調しておくが、彼女は平昌五輪に向けて陰ながらここまですさまじい猛練習を重ねてきた。今は「ヒール」でも金メダルを手中に収め、必ずや「ヒーロー」になってみせる。大人の女性になった21歳のジャンパーが、そう心に誓いながら4年越しの雪辱戦に臨む。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180202-00000032-zdn_mkt-bus_all