2月17日東京都千代田区「有楽町マリオン」で行われた第11回朝日杯将棋オープン戦(朝日新聞社主催)準決勝、羽生善治竜王(47)-藤井聡太五段(15)は119手で藤井五段が勝ち、決勝でも広瀬章人八段(31)を117手で破って全棋士参加棋戦最年少記録(15歳6カ月)で優勝した。藤井五段は規定により同日付で六段に昇段、こちらも最年少記録更新となった。

中学生の羽生少年が持っていた異質なテクニック
 「国民栄誉賞受賞」の羽生竜王と「規格外の中学生棋士」藤井五段が公式戦で初対局する朝日杯準決勝は観戦チケットが発売当日に完売するほどの大人気となった。筆者は中学生時代の羽生竜王と奨励会で対戦したことがあり、世代を超えた「天才対決」をインターネット中継で興味深く観戦した。

 いまから約33年前、6級で奨励会に入会してから2年足らずで二段に昇段していた羽生少年は当時14歳、21歳の筆者は三段で平香交じり(平手と香落ちを交互に指す手合い)の平手番で対局した記憶が残っている。

 通称「(昭和)57年組」と呼ばれる筆者の奨励会入会同期には羽生竜王の他にも、のちにトップ棋士となる森内俊之九段(十八世永世名人資格者)や佐藤康光九段(永世棋聖資格者)といった、まぶしいほどの才能を持つ少年が多くいた。森内九段は骨太の力感あふれる指しまわしと勝負強さ、佐藤九段は圧倒的な研究量の序盤と深い読みに支えられた鋭い踏み込み。凡人の筆者は彼らの才能にほんろうされてばかりだったが、羽生少年の強さは少し異質だった。

 それは難解な局面、特に終盤で相手に手を渡して問いかけるような指しまわしができること。初対局は相矢倉から終盤までまずまずうまく指せたと思っていたが、一見パスにも思える玄妙な技に筆者は次に指す手がわからなくなり、なすすべもなく敗れた。いつも落ち着いていて、決してはしゃぐことのない14歳の少年は相手を間違えさせるテクニックに秀でていた。棋士になったのち「羽生マジック」と呼ばれた終盤術の原点はこのころすでにあったように感じる。

手渡しの上手い藤井五段
 昨年春以降、藤井四段(当時)のデビューからの連勝記録が伸びるにつれ筆者のもとには新聞、テレビからの問い合わせが数多く寄せられた。その中の一つに「棋譜をコンピュータで分析し特徴を解説してほしい」という依頼があり、すべての棋譜を複数のソフトにかけ解析を行い、また筆者の目で見た指し手の印象をお話しした。

 近年の急速な定跡の進化により序盤の精度は30数年前とは比較にならないが、藤井五段と羽生竜王の将棋に共通するのは難しい局面での手渡しや辛抱のテクニックが優れていることである。デビューから29連勝の新記録を作るまでに苦戦の将棋は何局もあった。だがそのことごとくを相手に間違えさせ勝ち続けた。これは羽生竜王が22年前、前人未到の七冠完全制覇を成し遂げた時の勝ちっぷりにも似ている。

羽生竜王も間違えさせた「聡太マジック」
 インターネットで中継(朝日新聞デジタルサイトで棋譜鑑賞可)された朝日杯準決勝の棋譜をあらためて手元のコンピュータソフト「Apery」(平岡拓也氏ら開発)で解析し(*筆者注・ソフトの示す手が必ずしも最善とは限らない)、リアルタイムの観戦時の印象と比較してみた。

 序盤の駒組みは相居飛車から先手の藤井五段が攻勢、羽生竜王は角道を早めに止めて守勢。最近の流行形でもあり互角と思われたが、ソフトの評価値もほぼそのとおり(先手の初期評価値プラス50点前後で推移)だった。

 仕掛けたのは藤井五段、羽生竜王が1筋に歩をあやまったのがやや消極的で強気に応じていれば後手十分だった。ペースを握り指しやすくなった藤井五段にも小ミスが出て形勢は再び互角、だが勝負所で放った「焦点の歩」▲4三歩(79手目)が「聡太マジック」とでも呼ぶべき応手に迷う王手。 羽生竜王はソフト解析が示す正着、ただし人間には指しづらい一手を選べず直後の悪手もともなって形勢は断然先手優勢となった。

 ところが寄せの場面で藤井五段にも勝ち急ぎの一着が出てその差は急接近、人間同士の勝負ならではの白熱の終盤となった。本局に限っていえば最後まで相手を迷わすことに成功したのは藤井五段、終局間際の数手の間に羽生に判断ミスが出て、急転直下決着がついた。33年前のように盤の前に座って体感したわけではないが、藤井五段の指しまわしには昔の羽生少年と同じような「異次元の技術」を感じた。

 少なくとも今後10年の間にこのカードでいくつかのタイトル戦が戦われるだろうし、そこで生まれるであろう名棋譜を筆者は一将棋ファンとして心待ちにしている。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kosakunoboru/20180219-00081795/