フィギュアスケートでは、何が起きるかわからない。

 この文章を、これまで何度使ってきたか覚えていないほどである。だがそれ以外にどう形容して良いのかわからない、ミラノ世界選手権女子だった。

 平昌オリンピックのトップスケーターの多くが欠場したこの世界選手権で、確かなことが2つだけあった。

 アイスダンスは、パパダキス&シゼロンが3度目の世界タイトルを取るであろうこと。

 そして、女子は平昌オリンピックで金メダルをとったアリーナ・ザギトワが優勝するであろうことだった。

 ところがパパダキスたちは予定通り優勝したものの、アリーナ・ザギトワはフリーで3回転倒して、5位に終わった。

いったいザギトワに何が起きたのか?
 シーズン前半には、SPでジャンプを失敗してフリーで盛り返す、ということを何度か繰り返していたザギトワ。だから決して、元々エフゲニア・メドベデワのようにミスが驚くほど少ない、という選手ではなかった。

 だがGPファイナルあたりから徐々に調子を上げていき、平昌オリンピックでは、団体戦、個人戦を通して一度もジャンプの転倒はなかった。個人戦のフリー『ドン・キホーテ』では、最初の3ルッツの着氷でちょっともたついてソロジャンプになったものの、二度目の3ルッツに3ループをつけてみごとにリカバリーした。

 筆者自身も含め、あの江陵アイスアリーナでのザギトワの演技を生々しく記憶している人々にとって、ザギトワはまるでサイボーグのように正確なジャンパーだという印象ができあがっていた。

 だから女子は優勝はザギトワで、2位、3位に誰が入るかという勝負になるだろうと予想していた。

ロシア人が絶叫した……フリーの失敗。
 ミラノのSPでは、コンビネーションジャンプの最後でバランスを崩しかけて早目にフリーレッグをつき、カロリーナ・コストナーに次いで2位スタートになった。だがそれでも決して、大きな失敗ではなかった。

 だがフリー「ドン・キホーテ」では最初の3ルッツ、2アクセル+3トウループ、そして後半につけた3ルッツ+3ループのコンビネーションジャンプで転倒。最初の転倒時には、見守っていたロシアのメディア関係者が絶叫していたが、最後はもう声も出ない、というほどショックを受けていた。

 演技終了後、泣きじゃくっていた本人はもちろん、エテリ・トゥトベリーゼコーチもメディアの対応はせず、アシスタントコーチで振付師でもあるダニイル・グレイヘンガウスから次のようなコメントが出た。

 「応援してくれたアリーナのファンにはお詫びしたい。彼女はまだ15歳で世界選手権は今回が初めて。残念ながら緊張感にうち勝つことはできなかった。

 これほどひどい演技をしたアリーナを見たことはなく、我々にも何が起きたのかよくわからない。分析して、練習を続けていきます」

思春期になり、身体に劇的な変化が?
 ザギトワの身長が、平昌オリンピックから3センチ伸びたことを明かしてくれたのは、ロシアのベテラン・スポーツジャーナリストだった。

 ザギトワ自身、ロシアのプレスに答えて、「このところ体が成長して調整に苦労している」と告白している。

 どうやら世界選手権での不調は、単にオリンピック疲れというわけではなさそうだ。

13歳の少女が4回転を跳べたのにはわけがある。
 彼女は2002年5月18日生まれで、今年の春で16歳になる。ISUのルールによると、オリンピック出場のためには前年の7月1日までに15歳になっていなくてはならないが、その条件を1カ月半の差でクリアしていた。

 3月初頭の世界ジュニア選手権で、13歳のアレクサンドラ・トゥルソワが4回転を2度成功させたが、女子の場合は体が軽く少女体型であることが、ジャンプに有利であるとされている。

 もうすぐ16歳になるザギトワに、身体の変化が訪れてそれがジャンプに影響を与えているのだろうか。

「お祝いにアイスクリームを食べた。でも1つだけ」
 ザギトワは平昌オリンピックの女子のフリーの翌日、メインプレスセンターで行われたメダリスト会見で、お祝いはしたかと聞かれてこう答えた。

 「これからも、自分に課した高いレベルを保っていくことは大事。でもお祝いにアイスクリームを食べました。でも1つだけです」

 アイスクリームをたった1つ食べることが、オリンピック金メダルのお祝い――何か泣けてくるような話だが、彼女たちの食生活の厳しい節制は、冗談ごとではない。

 このところ次から次と登場しては消えていく、ロシアの才能ある女子たちは、みんな思春期を迎えて身体の変化に対応できずに、トップ争いから消えていったのだ。

 中でもユリア・リプニツカヤは、競技引退時に摂食障害に悩まされたことを告白している。

ザギトワの今の最大のチャレンジは……。
 だがそんな中でも、エフゲニア・メドベデワは15歳でシニアデビューし、18歳の現在までアスリートとしての体型をきれいに保ってきている。

 彼女の並々ならぬ意志の強さのたまものに違いないが、ザギトワもこの同門の先輩のように調整していくことができるだろうか。

 本来育ち盛りのティーネイジャーに、こうした厳しい節制が要求されるのは残酷なようではある。でもこれはフィギュアスケートに限らず、多くの女子競技スポーツの現実だ。

 ザギトワの勝負は、このオフシーズンをどのように過ごすかということになるだろう。

 試合がない夏の間に、油断をして体重が増加してしまう選手は少なくない。やはり摂食障害を告白して競技から休みをとっているアメリカのグレイシー・ゴールドも、調整を崩したのは夏のオフシーズンだった。

 来季、フィットして調子を取り戻したザギトワを再び見ることができるかどうか。

 そして何より、健康でこのスポーツを楽しみ続けてくれるだろうか。

 コーチチームの手腕にも、期待したいところだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180401-00830347-number-spo&p=1