アメリカが輸入する鉄鋼とアルミに高い関税をかけると決めたトランプ米大統領。対象には同盟国の日本も入っている。
日本は報復すべきだ
2018年3月1日、アメリカのトランプ大統領は通商拡大法232条に基づき、鉄鋼に対して25%、アルミに対して10%の輸入関税を課すと発表した。
根拠となる法律は1962年に制定されたもので、輸入が国家の安全保障に悪影響を及ぼすと判断される場合に輸入の数量を制限したり、関税を課することを認めている。

要するに貿易相手国に対して「おたくから鉄やアルミを輸入していると我が国は危険にさらされますので制限させてもらいます」と一方的に通告するわけで、非友好的なことこの上ない。

だから、さすがのアメリカもこれまでめったなことではこの232条を用いてこなかった。
前回この232条に基づく調査が行われたのは2001年で、その時は二人の下院議員が鉄鉱石と鉄鋼半製品に対する輸入制限を求めたが、商務省は輸入を制限する必要はないと結論した。

232条に基づく輸入制限が実際に施行されたのは、1986年にレーガン政権のもとで工作機械の輸入に対して行われたのが最後である(Chad P. Bown, Washington Post, March 1, 2018)。この時は日本、台湾、西ドイツ、スイスなどからの工作機械輸入が多すぎて、兵器生産に不可欠な工作機械産業が衰退しつつあることが問題視された。

トランプ政権が鉄鋼業の不振に苦しむラストベルト(さびついた工業地帯)の人々の歓心を買うために鉄鋼・アルミの輸入制限を行ったことは明らかだが、ふつうこういう場合は一時的に輸入を制限するセーフガードという手段を用いる。もしダンピング輸出が問題なのであればアンチ・ダンピング課税という手段もある。

この二つの保護措置はともにWTOのルールで認められており、措置の対象となった国は報復したりしてはいけない。
不満があればWTOに申し出て紛争解決のためのパネルを設置してもらい、そこで議論する。

■WTOのルール違反

ところがアメリカの今回の輸入制限はWTOのルールには則らず、国内法に基づくものなので、制限された相手国もWTOのルールを無視して報復してもかまわないということになる。報復課税はルール違反だとアメリカがWTOに訴えたとして、そもそも先にルールを破ったのはアメリカなのだから、WTOに取り合ってもらえない可能性が高い。

実際、中国が4月1日にアメリカ産の豚肉やワインなど128品目に対して15%または25%の上乗せ課税をするという報復措置を始めた。
これに対してアメリカが対抗措置をとろうとしたらWTOに訴えても無駄なので、次なる報復で応戦せざるをえない。
こうして米中間は際限のない貿易戦争になる。
アメリカは貿易戦争に向かう危険な扉を開けようとしているのであり、早くこの戦いをやめてWTOのルールに則った保護措置に切り替えるべきである。

標的にされた国
さて、日本政府は、日米は同盟関係にある以上、日本からの鉄鋼・アルミ輸入はアメリカの安全保障に影響を及ぼさないはずだから、輸入制限から除外してほしいとアメリカに要望した。ところが3月23日にいざ輸入制限が実施されてみたら日本は除外されていなかった。

表ではアメリカの2017年の鉄鋼の輸入先の上位13カ国を示しているが、黄色くハイライトしたのが輸入制限から除外された国々である。

カナダとメキシコが除外されることは十分に予想できた。アメリカとカナダ、メキシコは長い国境線を接しているし、
鉄鋼は輸送コストがかさむので、例えばシアトル(アメリカ)で生産した鋼材は近くのバンクーバー(カナダ)に運び、オタワ(カナダ)で生産した鋼材はボストン(アメリカ)に持っていくといったことがありうる。実際、アメリカのカナダからの鉄鋼輸入と、アメリカのカナダに対する鉄鋼輸出とはほぼ拮抗している。

またアメリカからメキシコへの鉄鋼輸出はメキシコからの鉄鋼輸入の2倍以上ある。
カナダとメキシコからの鉄鋼輸入を制限し、カナダとメキシコに報復されたらかえってアメリカの鉄鋼業を苦しめることになる。

他方で、輸入制限の対象からアメリカの同盟国を除外していったらロシア、中国、ベトナムぐらいしか課税する相手がいなくなってしまう。
これでは輸入制限の目的を達せられない。

輸入制限発動の根拠となったアメリカ商務省のレポート「鉄鋼輸入が国家の安全保障に与える影響」によれば、
輸入の打撃によって国内の鉄鋼業が衰退したら、兵器の材料となる鋼材の供給もできなくなるので、鉄鋼業の設備稼働率を80%以上に引き上げるべきだという。

■韓国は除外されたのに、日本は除外されなかった

2017年に72.3%に落ちた設備稼働率を80%に引き上げるために、商務省のレポートは以下の3つのオプションを示している。
1)輸入を37%カットするように輸入の数量制限を実施する、
2)すべての鉄鋼輸入に24%の関税を課する、
3)ブラジル、韓国、ロシア、トルコ、インド、ベトナム、中国、タイ、南アフリカ、エジプト、マレーシア、コスタリカからの鉄鋼輸入には53%の関税、他の国は2017年並みの輸入にとどめる。

鉄鋼輸入の総量を37%減らすというこのレポートの示す目標を実現するのはかなり大変だ。
もしカナダとメキシコを除外したら、残りの国にはかなり高率の関税、または厳しい輸入数量制限を課さないとならないだろう。
だから、私は日本はまず除外されないだろうと思った。

ただ、安全保障を根拠とする輸入制限なので、安全保障の面ではアメリカと等距離にあると思われる日本と韓国が異なった扱いをされるとは思わなかった。
なので、韓国が除外され、日本は除外されないという今回の決定はやはり意外だった。

アメリカがいかなる考えでカナダ、メキシコ、ブラジル、韓国、EU、アルゼンチン、オーストラリアの7カ国・地域を除外し、
そのほかは除外しなかったのか理解するのは難しい。
表では、米軍が駐留している国、アメリカとFTAを結んでいる国を示したが、この2要素では除外・適用の理由を説明できない。

日本とFTAを結びたいから意地悪をするのか?

なぜ日本が除外されなかったのかに関して、日本の新聞やテレビは一様に、
「アメリカはこの課税をテコとして日本と自由貿易協定(FTA)を結びたいのだ」という解釈を示した。
ただ、そうすると日本と同じくアメリカとFTAを結んでいないEU、ブラジル、アルゼンチンが除外されていることに対する説明がつかない。

どうもこの解釈は、本当は恋人が心変わりしてしまったのに、「彼が私にこんな意地悪をするのは、
きっと私を愛しているからなのね」と思い込もうとしている可哀想な女性みたいである。
要するにアメリカ(トランプ大統領)の日本に対する感情が冷めていることを直視しない、おめでたい解釈なのではないだろうか。

実際にトランプ大統領自身が鉄鋼・アルミに対する課税についてどう説明したかというと、
「日本の安倍首相はいい奴で、友達なんだけど、彼はニヤニヤしながら、こんなに長いことアメリカから得させてもらったなんて信じられないと思っているのさ。
でもそんな日々も今日で終わりだ」

つまり、彼の頭の中には、安倍首相がいかに親しくしてくれても、日本はアメリカに貿易赤字をもたらす悪い奴、
という固定観念が牢固として居座っており、今回の鉄鋼・アルミ課税で日本を除外しないのは当然のことだと考えていることがわかる。

■安全保障は表向きの口実

このトランプ大統領の発言からみると、要するに安全保障のためというのは口実にすぎず、彼はとにかくアメリカに貿易赤字をもたらす国を何とかして叩きたいだけのようである。

そういう観点から再び先ほどの表をみると、二国間貿易でアメリカ側が赤字である相手国は、
特殊な事情(EUは手ごわい、韓国はFTA見直しに応じた、カナダとメキシコは隣国)がなければ課税していることがわかる。

この先日本を待っているものは、FTAを結んでウィン・ウィンの関係を目指しましょう、
なんていう暖かい交渉ではなく、アメリカの対日貿易赤字を減らすために日本はアメリカ車を10万台輸入しろ、といったたぐいのあからさまな要求だと思えてならない。

いくらなんでもそんな無茶な要求がありうるだろうか、と思う人も多いだろう。
だが、日米通商摩擦が燃え上がっていた1994年2月、アメリカの携帯電話メーカー、モトローラ社はKDDIの前身であるIDOに対して、
アメリカ政府の対日圧力を背景に「22万5000台の携帯電話機を買え」と要求したことがある。
IDOがそれを拒否したところ、3日後にアメリカ政府は日本が不公正貿易を行っているとして制裁を発表した。

トランプ大統領のなかでは、あの時代の日本観が今も変わっていない。
だとすれば、あの時代のような無体な要求が飛び出してくる可能性が高いように思う。

日本も中国のように報復を
こうした状況に日本はどう対処したらよいだろうか。

今回の事態に対する日本政府のこれまでの対応は残念なものであった。
日本にとって世界の自由貿易体制の維持は死活問題であり、貿易戦争を引き起こす可能性の高い232条をアメリカが発動することには、
たとえ日本が対象から外れていたとしても断固として反対すべきであった。

ところが日本政府は小声で「遺憾」と言っただけで、あとはひたすら日本を除外してくれとアメリカに懇願しつづけた。
日本は世界の自由貿易体制の擁護よりも対米追従と自己利益を重視する国だという印象を世界に与えてしまった。

アメリカへの懇願も空しく日本が除外されなかったいま、日本は引き続き除外を求めるのではなく、
鉄鋼・アルミの輸入制限の一切を中止するようアメリカに要求するべきである。さらに、日本も中国のようにアメリカに対して報復を行うべきである。

現状ではアメリカが日本に対して一方的にハードルを一段上げた状況にある。
誠意をもってお願いしたらこのハードルをアメリカが下げてくれるというのは甘い考えで、トランプ政権は日本から何かの見返りを獲得しない限りハードルを下げないだろう。

■トランプが仕掛けたゲーム

アメリカ産農産物に対する関税引き下げや数量制限の撤廃、さらにはアメリカ製品の購入といった要求が来ることを覚悟しないとならない。

ただ幸いにもアメリカによるハードル引き上げはWTOの掟破りのものなので、日本も掟破りの報復をすることが可能である。
そうしてハードルを日本の側でも上げておけば、交渉によってお互いにハードルを下げるという落としどころができることになり、アメリカの無体な要求をかわすのに役立つ。

報復の内容としては、ワイン、紙巻たばこ、お菓子など、アメリカ以外の輸出国が多いうえに日本国内でも生産でき、
代替が可能なような嗜好品に対する関税を引き上げるのがよい。
嗜好品だからアメリカ産が好きな人は高くなっても買うだろうし、そうでもない人は他国からの輸入品や国内生産品に切り替える。
小売価格が上がっても国民生活に対する影響は小さいと考えられる。

アメリカをさらなる報復に駆り立てるほど激怒させたら大変だが、鉄鋼・アルミへの課税をあきらめさせるぐらいには深刻な打撃になるようにサジ加減する必要がある。

これはいじめっ子(bully)トランプが仕掛けてきたゲームなのだ。
懇願と笑顔ばかりではトランプもかえって面白くないだろう。日本もトランプのゲームに付き合ってあげようではないか。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180405-00010001-newsweek-int&p=4