ところが、Aは前管理人が病気で退職した後、区分所有者から委任状を取り付けて「管理者」となり、月額12万円を「管理者」報酬として要求した。管理者であるから管理人としての仕事はせず、日常の清掃は区分所有者2人を勝手に管理者補助に指名して行わせていた。

 しかも徴収した月額約32万円の管理費のうち、共用部の電気代約4万円を除いてはほぼすべてAが着服していたようで、大規模修繕はおろか、消防設備点検や受水槽の清掃、エレベーターの日常定期点検なども一度も行われていなかった。管理組合の総会も分譲会社倒産後に1回だけ開かれたようだが、その後は一度も開かれていない。

 30年余間、まったく手の入っていないマンションがどうなったか、想像できるだろうか。エレベーターは止まり、一部の外壁ではコンクリート内部の鉄筋がむき出しで、各部屋のドアは錆びだらけ。受水槽や汚水桝は悪臭を放っていたという。

 さすがにおかしいと疑問を抱いた一部の区分所有者がマンション管理士の木村幹雄氏に相談。その時点では管理組合の口座残高は10万円を切る状態で、しばらくは共用部廊下の電気代にも事欠くほど。その後、木村氏が区分所有法に基づいて管理者に選任され、この2年間、マンション再生に奔走した。300万円以上の未納管理費を回収したほか、汚水桝の修繕や鉄部塗装などが行われたことで、状態は改善。賃貸に出された部屋には数人が入居した。

■エレベーターはいまだに止まったまま

 だが、それでも全50戸のうち、20戸以上は空室。エレベーターはいまだ止まったままである。中にはゴミ屋敷のままで放置されている住戸もあり、それが何戸あるかは木村氏にも正確に把握できていない。管理組合側の提訴に対し、Aも管理者報酬、コンピュータ使用料の支払いを求めて訴訟を提起しており、解決、再生までの道はまだまだ遠い。

 「Aが悪いのはもちろんですが、管理に無関心のまま、Aにすべてを丸投げしてきた区分所有者にも責任があります」と木村氏。「私が管理者になってからも、相変わらず管理人と区別がつかないのか、『自分たちが外部から管理者を雇っているんだから、区分所有者である自分たちの言うとおりにしろ』と考える人もいるほどです」。

 管理費などの収納・支払いに関して木村氏が一部管理委託を打診した管理会社5社のうち、4社から断られており、委託できた1社も木村氏が手を引くなら辞めるという。そんな状態に陥ってもまともに管理と向き合おうとしない区分所有者。無関心の怖さである。

 さらにもう1つ、マンションを内部から崩壊させるものがある。それが建物の老朽化で、特に問題は給排水だ。定期的に大規模修繕を行っていても築30年前後になると専有部からの漏水が始まり、次第に拡大し、収拾がつかなくなることがあるのだ。

 なぜか。簡単である。大規模修繕は外壁や防水、塗装など建物を中心に行われ、その対象は共用部分である。専有部の漏水は大規模修繕の対象外だ。だが、放置しておくと階下に影響が出て人間関係がこじれる。外装はきれいでも漏水する物件では資産価値も下がってしまう。

 そこで管理組合が全体の資産価値維持のためとして工事をするのだが、管理組合には専有部のみの工事はできない。結果、共用部のバルブを15万円で交換するのにあわせて専有部の給排水を1億円で工事するといったいびつな形を取ることになってしまう。それも、できればまだマシだ。築30年前後といえば、2度目の大規模修繕を終えた頃。修繕が終わった途端に漏水が始まっても、修繕費用が底をついている、ということもある。

 1980年に建てられた大田区の全100世帯のあるマンションでは、毎月2世帯が新たに漏水するような状況だが、工事費用がない。そこで仕方なく組合が入っている保険を援用し、補填していたが、あまりに頻繁だったため、適正な利用でないことが発覚。保険金が出なくなってしまったという。

■リフォームはしても給排水は変えていない

 築20年以上の場合、給排水管がコンクリートスラブ内に敷設されていることが多く、床を一度壊して工事をする。完了後は床を復旧する必要があり、その分費用が嵩む。「100戸のマンションで共用部のみなら戸あたり40万円の工事が、専有部が入るとプラス30万~40万円かかる。内装の仕上げによっては戸あたり100万円に跳ね上がることもあり、当初予算の倍になることも少なくありません」と菅氏は話す。

 そのうえ、修繕前に室内をリフォームしていた住民がいると反対も出る。大金をかけたリフォームが無駄になるからだ。2017年11月の大規模修繕時に住戸内の給排水管交換を行った世田谷区のマンションでは122戸のうち、6戸が管理組合の説得に応じず、工事ができなかった。今後、漏水が起きたらどうするか。理事たちは今から頭が痛いという。

 菅氏は築35年、1000世帯を越すマンションで大規模修繕を前に住民アンケートを実施したことがある。リフォームの有無に加え、給排水管交換について尋ねたところ、交換したという世帯はゼロ。リフォーム時に給排水管の交換をするように義務付けておけば多少なりとも延命できるものの、リフォーム業者の多くは、給排水管は面倒といじりたがらない。所有者も交換の重要性を知らないから頼まない。それが続いてある日、どかん。時限爆弾のようである。

 築40年以上の建物では排水管は下階の天井に配されていることがあるため、上階の所有者が修繕するためには他人の部屋を工事することになる。「最高裁の判例ではこのケースに限っては専用の排水管を共用部とし、管理組合が負担とすべしとしましたが、その判決を知らないことで、現場ではいまだに混乱するケースがある」と、不動産管理に詳しいmachimoriの三好明氏は話す。

 早急に管理規約、あるいは運用を変える必要があるが、そうこうしているうちにもあちこちのマンションが危険な状態に陥りつつある。大丈夫なのか、日本のマンション、である。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180423-00217671-toyo-bus_all&p=3