拉致解決なくして経済支援なし
 核とミサイルをめぐる米国と北朝鮮の交渉が進む中、日本人拉致問題はどうなるのか。
北朝鮮の国営メディアは相変わらず、日本批判を繰り返している。
だが、私は逆に、北朝鮮が追い込まれつつある、とみる。


北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信は6月25日、日本について「日本は平和と安全に関する野心を正さなければ、日本が無視されるという結末が避けられないということに気付くだろう」と指摘した。

 これに先立って、同じく国営メディアの平壌放送は15日、拉致問題に触れて「日本はすでに解決された拉致問題を引き続き持ち出し、自らの利益を得ようと画策した」と報じた。表向きは「拉致問題は解決済み」というのが、北朝鮮の公式スタンスである。

 だが、はたして本当にそうか。

 6月12日にシンガポールで開かれた米朝首脳会談の後、米国のトランプ大統領は記者会見で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に対して「拉致問題を提起した」と述べた。だが、具体的にどう言ったのかについては、大統領は何も語らなかった。

 私は会見のテレビ中継を見ていたが、「だれかもう一歩、踏み込んで大統領に話の中身を質問する日本人記者はいないのか」と歯がゆい思いがした。

 私の新聞特派員時代の経験を振り返れば、英語で質問する日本人記者は本当に少ない。英語ができないのだ。英語を話せる記者もいるが、英語ができるからといって、大統領の会見に出席して質問できるかと言えば、難しい。担当分野の縛りがあるからだ。

 ホワイトハウス担当記者にとって、大統領会見に出席するのは栄誉であり、社内で自分を売り出す絶好のチャンスである。「ちょっと英語が話せる」からといって、自分の席を譲るような記者はいない。結局、英語ができなくても、担当記者が座ってしまう。

 今回、大統領に追加質問した記者はいなかった。結果として、大統領と正恩氏の応酬は読者、視聴者に分からずじまいで終わってしまった。NHKなどは100人規模の取材班を送り込んだそうだが、そんな大人数を派遣するなら、きちんと質問してほしかった。

 それはともかく、6月14日付の産経新聞が拉致問題をめぐるやりとりについて、核心を突く記事を掲載している(http://www.sankei.com/politics/news/180614/plt1806140003-n1.html)。次のようだ。

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米朝首脳会談で、トランプ氏は「完全な非核化を実現すれば経済制裁は解くが、本格的な経済支援を受けたいならば日本と協議するしかない」との旨を金氏に説明。その上で「安倍首相は拉致問題を解決しない限り、支援には応じない」と述べたとされる。この説明を受け、金氏は、安倍首相との会談に前向きな姿勢を示したという。会談中に北朝鮮側は「拉致問題は解決済み」という従来の見解は一度も示さなかったという。
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 この報道が正しいなら、トランプ氏は「拉致問題の解決なくして日本の経済支援はない」ことを正恩氏に伝えた形になる。
習近平からの「入れ知恵」
 ただ、気がかりな点もある。ここへ来て米朝交渉が停滞している気配が漂っているのだ。シンガポール会談の後、トランプ氏はすぐにも実務者協議が始まるかのように語ったが、協議は2週間以上過ぎても始まらない。その間に、いったい何があったのか。

 それは、先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56221)で触れたように、トランプ政権による2000億ドル規模の対中制裁関税の発表と、それと同じタイミングで開かれた中朝首脳会談である。

 トランプ氏は「もう中国の習近平国家主席を頼らなくても、正恩氏とは直接、話せる」とみて、中国に対する追加制裁関税の検討に踏み切った。ところが、習氏からみれば「まだ正恩氏はオレの手のひらに乗っているんだぞ」と誇示した格好だ。

 習氏は米国をけん制するために、再び正恩氏に「非核化を急ぐ必要はない」とあおった可能性もある。シンガポール会談の直前、北朝鮮がいったん態度を硬化させたパターンの繰り返しだ。強腰路線は結局、トランプ氏の会談中止通告で失敗した。

 トランプ氏はここからが本当の正念場だ。歴史的なシンガポール会談から1ヵ月近くが経っても、非核化に具体的な進展がないなら、大統領の失敗が濃厚になる。それは、取引上手を自認する大統領にとっては到底、受け入れられないだろう。

 金正恩氏と習近平氏、それにトランプ大統領の三つ巴の駆け引きが続く。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180629-00056322-gendaibiz-int&p=1