いま、田舎暮らしに憧れる人が、退職後にIターン、Uターンするシニアだけでなく、都会の若者にも増えています。
しかし、都会暮らしの長い人にとって、田舎暮らしはいいことだらけではありません。

旧態依然のムラの掟、想像以上にかかるおカネ、病気やケガをしても病院がない……。
実際、「移住すれども定住せず」が現実です。
都会の人は、田舎暮らしをあきらめたほうがいいのでしょうか? 
 最近、『誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書』を出版した移住歴20年のベテラン・イジュラーに、
田舎暮らしの現実と、都会の人が田舎暮らしを満喫する方法を、実例をもとに語ってもらいました。

盛り上がる「地方創生転職」ブームにご用心

■天国だと思っていた憬れの地が…

 子どもが産まれたら、人も土地も開放的なところで育てたい──。

 東京生まれの東京育ちだった石沢友美さん(仮名)は、子どもを身籠もったと同時に、東京・吉祥寺から山梨県峡北地域のある集落に移住を決めた。
3年前、32歳のことだった。

 マンション育ちだった友美さん夫婦は、「空き家バンク」で見つけた築60年の古民家に移り住むことになった。
友美さん自身が幼少期から憧れていた待望の「田舎暮らし」だった。

 「自分が小学生の頃、八ヶ岳の林間学校に来たことがあったんです。
その頃から、いつかは白樺を眺めながら鳥の声を聴いて暮してみたいって、ずっと思っていました。
子どもができたときに主人に相談したら、やっぱり東京の真ん中、中央区で育った主人も大賛成してくれたんです」

 古民家とはいえ、直前まで家人が住んでいたために、手入れは行き届き、生活に不便はまったくなかった。

 「夏場になると、カメムシとかカマドウマとか、都会じゃほとんど見たことのない虫がとにかくどこから湧いてくるのか、いっぱい出てくるんです。
だけど、それも高気密じゃない古民家ならではのよさと考えて我慢できました」

 なによりも、眺望がすばらしかった。

 背には標高2900メートルの赤岳を擁する八ヶ岳連峰が一望でき、右手に南アルプスの山並み、左手には富士山が見える場所だ。

 日本のワンツースリーの眺望に囲まれ、移住人気ナンバーワンとも言われる場所であることが実感できた。

 「子どもが産まれてからまもなくは、授乳に疲れてもその眺望を観れば、すぐに気分転換もできて最高だったんです」

 夫は月に何度か新宿の本社に顔を出せばいい。新宿まではわずか150キロほど。
中央線の特急でも、高速道路でも楽にアプローチできる距離だった。

「気持ち的には東京の郊外に住んでいるのとまるで変わらない距離で、日本で最高の眺望と開放的な空気が手に入るなんて。
こんな天国みたいなところが日本にあったなんて、と思ったんです」

 古民家の家賃も、吉祥寺の賃貸マンションに較べれば3分の1。
それで、古民家とはいえ戸建てが借りられ、間取りの何倍も広い庭までついているのだ。

■有料のゴミ袋を購入したのに…

 だが住み始めてほどなく、最初の“事件”に直面する。ゴミが出せないのだ。

 移住に当たっては役所の窓口にも何度か足を運び、生活の仕方などをいろいろと聞いたつもりだった。
だが、ゴミが出せない、というのはまさかの展開だった。

 「高さは人の背丈ほどもあって、幅はそれこそプレハブ小屋並みの長さの立派なゴミ集積所があるのは知っていたんです。
市の有料のゴミ袋を買ってそこに出せばいいものと、頭から考えてしまっていて……」

 移住して間もなく、ゴミ出しに出向いたとき、目の合った人から「あんた、名前は?」と訊かれ、丁重にあいさつを返した。

 するとほどなく、自宅に地元集落の役員だという初老の男性が現れたのだ。

 「あれ(ゴミ集積所)は組(集落)のもんだから、組に入っておらんもんはあそこには出せん」

 友美さんはこう応じた。

 「では、ちゃんと会費をお支払いして組に参加させていただけませんか」

 だが、組長(町内会長)と相談してきたという男性が再び自宅を訪れ、こう告げた。

 「悪いけんど、組長がうちの組にはよそから来たもんは入れんっちゅうとるから」

 「じゃあ、ゴミを出せないの?  そんなバカなことって……」

 呆然とした友美さんが役所に駆け込むと、それまで移住の相談に乗っていた担当者もそっけなくこう繰り返すだけだった。

 「ああ、あそこの組長さんはもう……何を言ってもダメですから……」

 〈えっ、なに?  じゃあ、うちはあそこに住んでいる限り、もう地元でゴミを出せないってこと? 〉

 聞けば、役所ではこうしたゴミ出しを拒否された移住者のために、役所の駐車場に特設のゴミ集積所を作っているという。

地域に住んでいる者が、有料のゴミ袋を購入しながら、ゴミ収集のサービスを受けられない。
この状況に異議を唱えた友美さんに、役所の言い分はこうだった。

 「集落のゴミ集積所は集落の私有地にある私有財産で、公共財ではないのでどうしようもできません。
もし、移住の方が何世帯か集まって新たにゴミ集積所を作ってもらえれば、そこに回収には行きます。
新たにゴミ集積所を作るに当たっては補助金も出しています」

 「移住者こいこい、と謳う一方で地元でゴミひとつ出せない状況を変えられないのは役所の怠慢、不作為ではないのか。
この時代に『あそこの組長は頑固だから……』で行政指導ひとつできない場所が、日本の移住人気ナンバーワンだなんてふざけたことを謳わないで欲しい」

 友美さんはそう繰り返したが、担当者は「でも、あの組長はどうしようもない」と繰り返すばかりだったという。

 後から知れば、その役所の担当者も、その頑固な組長を擁する集落の「若い衆」であったのだ。
役所の人間である以前に、地元の若い衆であることが先に立つ。
そうした土地では、まともな行政指導、行政サービスひとつ、地元の旧態依然とした因習の前には成立しないのだ。

 そんな田舎特有の「暮しにくさ」や「ムラの因習」を、移住相談会や、役所の移住担当者らは、転入前には教えてくれなかった。
地獄を見たのは、移住後、ということになる。

つづく

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180707-00228325-toyo-soci&p=1