北朝鮮の金正恩党委員長は、昨年12月に行われた朝鮮労働党第5回党細胞委員長大会での演説に続き、
今年1月1日に発表した「新年の辞」でも、同国で「腐った文化」と呼ばれるブルジョア反動文化や、非社会主義を「根絶やしにせよ」との指示を発した。

これを受けて当局は、「非社会主義的現象」の取り締まりキャンペーンを行ってきたのだが、最近になって急に事実上の中止に追い込まれたもようだ。

ちなみに非社会主義的現象とは、文字通り北朝鮮が標榜する社会主義の気風を乱すあらゆる行為を指す。
たとえば賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴、ヤミ金融、宗教を含む迷信などなどだ。
もちろん、その他の刑事事犯も含まれる。

しかし実際のところ、北朝鮮には社会主義の気風などほとんど残っていない。
1990年代に計画経済と配給システムが崩壊したために、その後はなし崩し的に市場経済化が進行。
その過程で、売買春や薬物の乱用が、資本主義国も真っ青な勢いで蔓延した。

金正恩氏はこれを根絶すべく、改めて一大キャンペーンを開始したわけだ。

ところが両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、これと言った布告がないまま、取り締まりキャンペーンが収束した状態となっている。
これについて現地の保安員(警察官)は次のように語っているという。

「非社会主義の検閲(取り締まり)で、住民から強い抗議を受けるようになった。
取り締まった住民の一部から『保安員も市場でコメや塩を買っているではないか』『市場でカネを払ってモノを買うことそのものが非社会主義だ』
などと激しく抗議され、冷や汗をかいた同僚も多い」

ある密輸業者の女性は、保安員にこう言い放ったそうだ。

「あなたも非社会主義をして暮らしているのに、よくも私たちを取り締まれるな。取り締まりを行う側の労働党、司法、行政機関の幹部が率先して非社会主義をやめろ」

かつて北朝鮮は、世界でも類を見ない極端な配給依存型の社会だった。
日々の食べ物から住宅に至るまでほとんどのものが国から配給されていたが、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころにシステムが崩壊してしまった。
人々は生き抜くために私有財産を否定する社会主義と決別し、市場での商売を行うようになった。
市場経済化が進む今の北朝鮮では、生きることそのものが非社会主義なのだ。

幹部の中には「(住民は)正しいことを言っている」として、取り締まりへの同調を事実上拒否する、つまりサボタージュする者すら現れた。

情報筋によると、住民が取締官に抗議する事態が全国的に発生するようになった。
末端の司法、行政機関は、住民の不満を反映させた提案書を中央に提出した。
それが功を奏したのか、非社会主義現象根絶を名目にした取り締まりが6月ごろからほとんど行われなくなったという。一般住民は歓迎している。

「元帥様が板門店での(南北首脳)会談を行ってから、非社会主義(取り締まり)の布告文と関連した検閲事業に対する中間総和(総括)が行われた。全国で『すべてを配給に頼って暮らしている人以外は、全員が非社会主義をしていると見なしてもいいだろう。検閲する保安員も非社会主義をしている』という住民の声が集められ、取り締まりがウヤムヤになった」(情報筋)

その場では金正恩氏の「人民を敵に回すな。大衆を党から引き離す行為は絶対に許さない。違反した幹部は出党(労働党からの除名)、撤職(更迭)も覚悟せよ」との言葉が、地方の司法機関の関係者に伝えられた。

金正恩氏は、自らが示した「非社会主義の取り締まり」を、国民からの激しい抗議を受け、撤回せざるを得ない状況に追い込まれた形だ。

南北首脳会談の直前に、両江道で幹部を集めて行われた政治講演会では、取り締まりをさらに強化することが強調されていた。

講演会では、非社会主義と反社会主義の行為を事細かく分類し、網タイツ、花柄のストッキング、アルファベットの書かれたTシャツの着用などといった「社会主義気風を乱す退廃的な服装」から、「色情的な踊り」(K-POP風のダンス)に至るまで、違反した者は重罰に処する方針が示されていた。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)

取り締まりの対象が広範囲に及び、商売に重大な支障が出るなど悪影響が広がったため、国民の間から強い不満が続出していた。

金正日総書記は、当局のあまりにも理不尽なやり方に抗議の声を挙げた労働者を、戦車で轢殺した。「普通の国」となることで、国際社会への合流を目指しているように見える金正恩氏は、一般国民に対し、父ほどの強硬策は取れないということだろうか。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20180707-00088399/