機関投資家などの多くは、やむをえず収益をもたらしてくれる海外の外国債券や株式市場に資産の一部をシフトさせることで、債券市場での収益減少分をカバーしてきた。いまのところ、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が好成績を収めていることでも、それは理解できる。

 しかし、もし株式市場や為替市場で大きな変動が起こったとき、収益確保の道がなくなってしまう可能性がある。これまで株価が下落したり、急激な円高に振れたりしたときは、日本の国債市場などで安定した利益を確保してきた。

 国債の金利がゼロに近いことも深刻だが、先物市場なども含めてそのボラティリティがゼロに近く、市場参加者がいなくなってきていること事態が大きな問題と言える。実際に、1日数回の取引で終了し、あとはひたすら動かないマーケットを見続けている債券ディーラーなどからすれば、電気代の無駄であり、時間の無駄という声も聞こえる。転職の時期だと考えている債券の専門家も少なくない。

■「QEからQTへ」で、世界で154兆円の流動性が失われる? 

 現在のアベノミクスを支持している有権者の多くは株式市場が上昇しているから、 あるいは前政権よりも株価が大きく上昇したから、という人が多いはずだ。しかし、現在の株式市場を支えているのは、債券市場からの巨額のマネーであることを忘れてはならないだろう。

 そもそも株式市場は、周知のように10年に一度程度は暴落を繰り返しており、次のパニックもいずれまたやってくる。実際に、2000年以降だけでも「ITバブル崩壊」「リーマンショック」と続いてきた。

 そうした株式市場の暴落局面において、一定の収益を確保してくれるのが債券市場の役割。にもかかわらず、その債券市場を消滅させようとしているのか。

 意図的に10年物国債の金利をゼロ%に長期間にわたって据え置く現在の日本の金融政策は、さまざまな面で不都合な未来を演出してしまうかもしれない。債券市場には債券市場の役割があるからだ。

 現在の国債市場は、日本銀行が新たに販売される国債のほとんどを買い上げてしまい、本来なら短期国債、中期国債、長期国債の金利は短いものほど低く、長いものほど高くなるように設定されている。こうした短期金利から長期金利をグラフで示した「イールドカーブ」は、左から右へとなだらかな上昇曲線となるのが普通だが、日本銀行はこのイールドカーブをフラット化することで10年物国債の金利低下を防いでいる。

最近では、20年債、30年債、40年債の超長期国債の売買によって、かろうじて債券市場は維持されている状況が続いているものの、イールドカーブ操作自体極めて異例であり、こうした金融政策を取った国はこれまでひとつもない。問題はその副作用だが、次の6つのことが考えられる。

(1)債券市場に投資する投資家がいなくなる
(2)特定の市場参加者に限定されることで市場の価格形成が歪む
(3)金融市場の変化を事前に察知することが難しくなる

(4)マーケットが一方向に動いたときに、ヘッジの役割をする金融商品が不在になる
(5)実質的な「財政ファイナンス」となり、国家財政の規律が失われる
(6)世界全体の債券市場が縮小したときに対応できなくなる
 これらの中でも特に注目したいのは、(6)の「債券市場縮小時の対応」だ。周知のように、米国が今年すでに2回の金利引き上げを実施し、さらに年内にもう2回利上げする方針を示している。EU(欧州連合)の中央銀行に当たる「欧州中央銀行(ECB)」も、この12月までに量的緩和を終了させて、金利引き上げに向かう方向性を示した。

 こうした世界の中央銀行がこれまで続けてきた量的緩和政策、あるいはゼロ金利政策は金融引き締めの方向へと動き始めている。世界規模で考えると、今後の「QE(量的緩和)」から「QT(量的引き締め)」への流れによって、ざっと1兆4000億ドル(154兆円)の流動性が失われるだろうとブルームバーグは伝えている。

■世界経済は再び景気後退局面に戻る可能性がある

 世界の金融市場の流動性が失われるということは、これまで高く推移してきた新興市場の債券市場や株式市場などから資金が逃避することを意味し、世界経済は再び景気後退局面に戻る可能性もある。

 日本国債の場合、日本銀行が特定の投資家としてその大半を買い入れることで、金利を低く保ち、債券価格としては異例の高値を維持してきた。このような状況がずっと続いている現状では、日本銀行が出口戦略に向かったときに、債券市場がどんな動きを示すのかの予想は非常に困難となる。

 場合によっては、債券価格が大暴落し、金利が急騰するケースも考えられる。通常の状態では、世界一の債権国である日本の国債が暴落するはずはないのだが、国債も金融マーケットで売買されている以上、債券価格が下落し金利が急騰することも十分ありうる。

 とりわけ、すでに動き始めている「QEからQTへ」の動きによって154兆円の流動性がなくなるとき、どんな事態になるのか。日本銀行、とりわけ黒田総裁にとってははじめての事態を経験することになる。これまでの経験値が役に立たない可能性もある。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180715-00228734-toyo-bus_all&p=4