このところ、日本国債市場の低迷が話題になっている。10年物国債先物の利回りが10営業日連続で変化なし、といった具合に史上まれに見る膠着状態が続いている。短期国債を対象とした先物取引も取引がまったくない日が出てくるなど、債券市場はじめての低迷相場が続いていると言っていい。

 こうした債券市場の低迷は、言うまでもなく日本銀行が異次元の金融緩和政策を執り、マイナス金利をベースとしたゼロ金利政策を続けているためだが、市場関係者の間では「このままの状態が続けば債券市場の取引参加者がいなくなってしまうのではないか」という冗談とも本気ともつかぬことさえ、ささやかれている。

 株式市場や債券市場と並んで、金融市場にとって債券市場は不可欠な存在。現在の日本国債市場は異例の事態であり、通常の金融マーケットでは考えられない状況だ。

 その原因を作っている日本銀行は、銀行の管理者であり、金融政策を担う存在だが、債券市場の崩壊を導くような現在の状況をどう判断しているのか。どんな形で正常化を図るつもりなのか――。将来的な影響はあるのか。そうしたリサーチをきちんとしているのかも含めて、数多くの疑問が残る。

 改めて債券市場とはどんな役割を果たし、現在のような状況が続いた場合、どんな事態が想定されるのか。過去の歴史などを参考に検証してみたい。

■変動率「ゼロ」に近づく日本国債の低迷

 かつて、日本国債は証券会社間などで活発に売買されていた金融商品のひとつだ。ところが、2013年に日本銀行が異次元の金融緩和を始めて以来、かつては1%弱あった10年物国債の金利も徐々に下げて、今やほぼゼロ%水準を維持している。

 利息がほとんど付かなくなった国債を売買しても意味がないから、市場参加者はどんどん減少し、さらに新たに発行される日本国債の大半は、日本銀行が買い占めてしまう。

 今年6月には、証券取引等監視委員会が、日本国債の先物取引で相場操縦をしていた疑いがあるとして、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対して2億1837万円の課徴金を課すように勧告したと報道された。取引の成立しない長期国債先物市場で、意図的に大量の注文があったように見せかける「見せ玉」によって不正に価格を操作した、とされている。

こうした日本国債の取引低迷が以前からあったのも事実だが、ここにきてその状況がさらに深刻化したと言われる。その理由は、4月に黒田東彦日銀総裁が再任となり、改めて「物価目標2%を達成するまでは現在の金融緩和策を堅持する」と強調したためだ。当初2年だったはずの異次元緩和が、すでに6年経過した現在も続いており、さらに今後も継続されることがはっきりした。

 実際に、3カ月物の銀行間取引金利を示す「TIBOR(東京銀行間取引金利)」を予想して売買する先物取引では、1989年6月の取引開始以来、初めて「取引ゼロ」の状況に陥った。 そのTIBORの値そのものも2016年9月下旬以降、ほとんど変化していない。

 また、金融商品の変動率(ボラティリティ)を示すものに「VIX指数」というのがあるが、日本国債の変動率を示す「S&P/JPX日本国債VIX指数」も、6月あたりからじりじりと下落しており、現在ではゼロ付近で推移し続けている。ボラティリティの大きさによって価格変動のシグナルとなることから、別名「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数も、日本国債のボラティリティのなさを示している。

■安定的な収益確保ができた債券市場がなくなる? 

 そもそも債券市場は、世界中にある金融マーケットのひとつであり、その市場規模は株式市場よりはるかに大きい。国家が発行する「国債」をはじめとして、公社や公団などの政府の関係機関が発行する「政府関係機関債」、地方自治体が発行する「地方債」もある。これらを総称して「公社債」とも呼ばれる。

 そのほかに、企業などが発行する「社債」、海外の国や公共機関、企業が発行する「外国債」などもあり、それらを全部合わせて債券市場と呼んでいる。こうした債券市場は、全世界で170兆ドル(1京8700兆円、2017年)にも達しており、2012年に100兆ドル程度だったことを考えると、ここ10年で急速な拡大を続けている。

ブルームバーグTVによれば、「500年以上の歴史を持つ債券市場で、市場最大の市場規模になっている」そうで、世界的に見ても現在の債券市場はバブルに陥っていることがわかる。

 中でも、最大の市場規模を誇るのが米国の債券市場だ。現在の米国の債券市場は40兆ドル規模に達しており、米国株式市場の時価総額30兆ドルを10兆ドルも上回っている。

 一方、日本の債券市場も、日本国債だけで1097兆円(2018年3月末)と、1000兆円を優に超えており、日本も債券大国と言っていいだろう。

 世界はいま株高に沸いているが、株式市場に入ってきたマネーの多くは債券市場で調達されたおカネであり、株式市場がバブルだということは、債券市場もバブルであることを物語っている。グリーンスパン元FRB議長も、「現在は株式市場よりも債券市場がバブル」と発言。債券市場のバブルに対して警告を発している。

 こうした債券市場で売買を行っている市場参加者は、 銀行や証券の債券ディーラーや債券トレーダー、債券ブローカーと呼ばれる金融機関のプロをはじめとして、年金や投資信託、銀行や証券会社、生損保といった機関投資家、あるいはヘッジファンドといったプロの運用機関、そして個人投資家などが債券市場に投資している。日本銀行といった中央銀行も債券市場の市場参加者の一員だ。

 こうした債券市場の中核的な存在とは、言うまでもなく「国債市場」だ。

 国が発行する債券は総称して「ソブリン債」などと呼ばれるが、国債の金利はその国の債券市場の中心的な存在であり、国債の金利が下落すれば公共債全体や社債などの債券金利も下落する。場合によっては、株式市場や為替市場も、国債市場の金利動向によって大きく動くケースもある。

 国債の金利がゼロであるということは、債券市場に参加している投資家にとっては値動きがなく利益を上げられない市場ということになる。現在のような状況は、銀行や証券会社といった債券で利益を生み出してきた金融機関、あるいは年金や投資信託といった機関投資家にとっては運用困難な時代と言える。

つづく

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180715-00228734-toyo-bus_all&p=1