富裕層の移住は、2015年7月以降に国外転出をする際、有価証券のみなし益に課税する「国外転出時課税制度」の導入後は落ち着きを見せており、2017年4月の相続税の改正でいわゆる5年ルールが10年に延長された際には、一部の富裕層は日本へ帰国することを選択した。

 リーマンショック後のシンガポール進出ブームは2016年に終焉を迎え、現在は撤退が増えている状況である。進出企業数が増加した2013年から2015年に進出してきた企業が、過去数年間の実績で成果がだせなかったこととアベノミクスやオリンピック効果による日本の好景気により日本へ回帰したことが撤退の大きな要因である。

●人気の飲食店経営は超レッドオーシャン

 シンガポールへの進出を希望するサービス業の中で人気業種に飲食店がある。

 シンガポールは外資規制がなく市場参入への参入障壁が低いこと、外食文化が発達しておりニーズがあることなどから飲食店の出店希望者は後を絶たないが、現実はそんなに甘くはない。

 シンガポールには2万6600店(2016年1月現在、 JETRO調べ)の飲食店があり、うち1400店前後が日本料理店である。2014年外食サービス業調査によるとシンガポールの外食サービスの平均営業利益率は6.3%、FL比率(食材費と人件費が売り上げに占める割合)の平均は、食材費32.6%、人件費28.3%の合計60.9%であり、採算の基準値となる55%を超えている。普通にやっていてはうまくいかないのである。黒字化できている日系飲食店は1割程度という印象である。

 クールジャパン機構が7億円を出資し、2016年7月にオーチャードにオープンしたJapan Food Townは2017年3月期において約2百万シンガポールドル(約1億7千5百万円)の純損失を計上している。

 「シンガポールに本物の日本食を」と志高くシンガポールに渡ってきたところで、現地の人たちに受け入れてもらえなければ未来はない。シンガポールドリームを果たせなかった飲食業者たちは、資金ショートか不動産契約更新のタイミングで撤退を選択する。

地元民が好むサーモンを避けた寿司屋は1年で閉店 
 飲食業をはじめ、サービス業が海外で成功するためにはローカライズ、現地の人に受け入れてもらえることがポイントとなる。

 「本物の寿司を食べさせたい」とシンガポール人が大好きなサーモンを置かなかった寿司屋は1年で閉店した。

 Japan Food Townの隣には、ローカルのフードコートがある。ローカルフードコートの価格帯は5ドルから10ドル未満に対し、Japan Food Town の価格帯はサービス料や税金を含めると安くて20ドルからなので、現地の人にとって普段使いのレストランとはならない。

 また、現地人の嗜好も大切である。日本食が好き、というシンガポール人は多いが、日本食なら何でもよいという訳ではない。ラーメンはシンガポール人にも人気であるが、最も人気があるのはとんこつ味である。シンガポールのローカルフードは味が濃く、脂っこいものが多いので、とんこつのようなこってりした味が好みのようだ。

 そばやふぐなどの淡白な味の日本食はあまり人気がなく苦戦しているようだ。

 最近人気がある日本食は天丼とうなぎである。どちらも甘いたれがシンガポール人の舌に合うようである。以前から天丼もうなぎもシンガポールで食することはできたが、これらを流行らせたのは、長年現地で飲食業を営んでいるローカル人気の高いラーメン店と日本食店だ。高級店でしか食べることのできなかった天丼(天ぷら)とうなぎを価格を下げて大衆化したことで大成功している。ローカルの嗜好や消費マインドを知り尽しているからできたことであり、ローカライズがいかに重要かを示している。
活躍できる駐在員の特徴
 海外進出形態が製造業からサービス業へと変化すれば、日本から派遣される駐在員の資質も変わってくる。海外で活躍できる人材となるため必要な資質を、これまでの経験を通じて2点ご紹介したい。

①個人としてコミットメントできる

 5年後の黒字化を目指して新興国に進出したある企業のサラリーマン経営者は、その国の平均所得は低いので利益が出るようになるには10年はかかるといい、自社の事業内容を変更することはなかった。10年間赤字を垂れ流しても余りある利益が出るのであればよいが、そうでないならば、その国の金利は8%なので預金だけ残して事業は引き揚げた方が合理的である。

 新たな市場での新規ビジネスは想定外のことだらけである。前任者の仕事を引き継ぐ、日本本社に指示されたことをやる、というスタンスではなくて、成功するために何をしなければいけないのか、前例のないことについても日本本社に提案し、巻き込んでいくくらいの責任感のある人の方がうまくいく。

②ローカル社員を信頼して仕事を任せることができる

 せっかく海外進出しても日本人だけで日本人相手に商売をしていては事業に広がりがない。海外進出して成功している日本人経営者は、ローカル社員を雇用し、信頼して仕事を任せている。失敗したら自分が責任を取る覚悟を持ち、ローカル社員に任せても、肝となるところは自ら徹底的に確認をする。権限委譲のバランスをうまくとると、ローカル社員も自信を持ち積極的に仕事に励むようになる。

 日本のやり方をそのまま現地に持ち込んでしまうと、現地の商慣習と合わず、機能的な事業運営ができず、ローカルスタッフのモチベーションも下がり、優秀な人材を維持することができない。

 また、ローカルスタッフに全てを任せてしまうのもうまくいかないケースである。ローカルスタッフから言われたことを検証もせずそのまま日本本社に伝え「海外だから仕方がない」と根拠なく納得してしまっては何も先に進まない。責任者としての義務を果たしていない。

 以上のように、海外で活躍できるのは、組織よりも個人として動ける人材である。組織や協調性を大切とする日本企業の中では、型破りな存在かもしれないが、そういった人材を受け入れられる土壌を作ることで、企業としての多様性が増し、成長へと繋がる。

●駐在員のメンタルヘルス管理は必須

 最後に一つ、日本企業にお願いがある。

 海外駐在員たちの間で隠語として使われている言葉に「OKY」がある。これは「O(おまえが)K(ここにきて)Y(やってみろ)」の略で、現地の事情を知らずに、日本から無理な指示や要求ばかり送ってくる上司の無理解や、現地側と本社側との意識のギャップを示している。

 慣れない海外で悪戦苦闘しているところに、それを知らない日本側から無茶ぶりをされたり、心ない対応をされてしまうと駐在員がモチベーションを失ってしまう。実際、駐在中に躁鬱状態となってしまったり、帰任後短期で退職するケースが増えている。第三者のコーチングなどを活用して駐在員のメンタルヘルスを維持することも検討していただきたい。

 日本企業も派遣される駐在員も成功を目指して海外進出している。異文化の地では、想定外のことが多々起こるが、日本本社には駐在員や現地法人をモニタリングしながら事業がうまくいくようにサポートしていただきたい

参考文献https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/1cdcbbf76d759bcf/20180011.pdf

ここに引用文が入ります。


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