「最後まで付き合ってやる」

 先週7月20日、トランプ大統領が米経済専門チャンネルCNBCの名物キャスター、ジェフ・コックス氏のインタビューに答えて、また吠えた。

 「われわれは不公平を正すのだ。巨大な赤字を、われわれが主導権を取って正していくのだ。中国には、単年で5700億ドルもの赤字があるのだ。

 私は習近平主席を恐れない。習主席のことは大好きだが、これはアンフェアだ。だからこの先、(中国からの輸入品)5000億ドルまで、追加関税をかけていく。

 われわれは長年、やられっ放しだったのだ。それでも黙っていたのだ。自動車、ビーフ、農産物……。これまでオバマも、ブッシュも、不平を言わなかった……」

 https://www.cnbc.com/2018/07/20/us-dollar-falls-as-trump-accuses-china-european-union-and-others-of.html

 衝撃のインタビュー映像である。昨年の中国からアメリカへの輸出額が5050億ドルなので、5000億ドルということは、ほぼすべての中国製品に追加関税をかけることを意味する。

 アメリカは、第1弾として、7月6日に340億ドル相当分に、25%の追加関税を実施した。続いて、160億ドル相当分の追加関税の賦課を行うとしている。さらに7月10日には、6031品目、2000億ドル相当に、10%の追加関税をかける用意があると発表した。それが今度はついに、ほぼすべての中国製品に追加関税をかけるというのである! 

 3月22日に、トランプ政権が初めて具体的に対中貿易戦争の「宣戦布告」をした時、中国側は「奉陪到底」(フェンペイタオディ=最後まで付き合ってやる)を合言葉に、激しく応じた。これは、2011年に中国で公開された任侠映画のタイトルだ。だが、いまにして思えば、「奉陪到底」とは、トランプ大統領の言うセリフだったようだ。

国家統計局の速報データを見ると…

これに対して中国は、表面上は平静を装っている。

 7月16日には、国家統計局が、今年上半期(1月~6月)の速報の主要経済データを発表した。

 GDPは41兆8961億元に上り、伸び率は6.8%。全国規模以上工業増加値の伸びは6.7%、うち先端技術産業分は11.6%。サービス業生産指数は8.0%増。国有企業の売り上げは10.6%増で、利益は22.6%増。貨物の貿易総額は7.9%増、税収は8兆1607億元に上り15.3%増。国民平均消費支出は名目で8.8%増、実質で6.7%増。国民の平均所得は名目で8.7%増、実質で6.6%増……。

 一見すると、どれも悪くない数値で、中国経済は順調に推移しているように思える。だが見方によっては、中国経済は坂道を下っているとも言える。

 例えば、中国経済を牽引するのは、消費、輸出、投資の「3輪馬車」である。そのうち小売売上高(消費)は、1月~3月までは前年同期比で9.8%増だったのが、1月~6月では9.4%増に鈍化した。輸出は、14.1%増だったのが、12.8%増に鈍化した。固定資産投資は、7.5%増から6.0%増に鈍化した。

 つまり「3輪馬車」のいずれもが鈍化しているのだ(それでもずいぶん高い数値だが)。

 これに対しても評価が分かれる。すなわち、「3輪馬車」がすべて鈍化していることをもって、中国経済が悪化していると見るという考え方が一つ。もう一つは、中国当局は金融リスク回避のために操作的に引き締めに走っているのだから、これは正しい流れなのだと見る考え方である。

 ただ、中国にもこのところ、過疎化と少子高齢化の大波が押し寄せていて、地方経済が疲弊しているのは、紛れもない事実だ。

 私の手元に、興味深い資料がある。2017年上半期(1月~6月)の各地方の財政状況を記したものだ。それによると、全国31地域のうち、すでに25地域までが財政赤字に陥っている。具体的には以下の通りだ。

 遼寧省(大連を含まず)-560億元、吉林省-738億元、黒竜江省-1277億元、山東省(青島を含まず)-387億元、天津市-258億元、河北省-1260億元、寧夏回族自治区-324億元、青海省-561億元、山西省-419億元、甘粛省-1066億元、陝西省-962億元、内蒙古自治区-1156億元、新疆ウイグル自治区-1333億元、重慶市-788億元、チベット自治区-749億元、雲南省-1572億元、貴州省-1289億元、広西チワン族自治区-1294億元、四川省-1348億元、海南省-212億元、安徽省-1290億元、江西省-1107億元、湖北省-1049億元、湖南省-1762億元、河南省-2588億元。

 これら25地域を合わせると、-2兆5349億元に上る。

 一方、黒字なのは、以下の6地域だけだ。福建省(アモイを含まず)241億元、江蘇省2787億元、浙江省3553億元、北京市4776億元、上海市5930億元、広東省5028億元。合わせて1兆7281億元である。

 つまり全31地域を合わせると、半年間で8068億元もの財政赤字を計上しているのだ。中国は日本の国土の26倍もあるだけに、地方の荒廃ぶりも日本の比ではない。

「中国は為替を操作している」
 さて、次に為替を見てみよう。今年年初の中間値は1米ドルあたり6.5342人民元だったが、7月20日時点で、6.7659元まで元安ドル高に推移している。

 これについてもまた、見方が分かれる。中国から資本流出が本格化すると言われている7元ラインに向かっているので、危険信号だと捉える見方が一つ。

 もう一つは、中国人民銀行が毎朝設定している中間値を、このところ故意に元安寄りに設定していることや、7月5日から預金準備率を0.5%引き下げた(16%→15.5%)ことなどから、中国当局が輸出産業に有利な元安誘導を行っているというものだ。

 私の考えは、やはり過ぎたるは及ばざるが如しで、もしも今後、1ドル=7元ラインまで到達したら、危険水域に入ったと見るべきと思う。

 ところで、トランプ大統領は為替に関しても、中国への批判を始めた。7月20日に、ツイッターで次のように呟いたのだ。

 「中国、EU、そしてその他の国々が、為替を操作し、金利を低く抑えている。その間に、アメリカは利上げし、ドルは連日、ますます強くなっていき、われわれの強い競争力のエッジが剥がされてしまう。いつものことだが、プレーしているフィールドは、一定レベルに保たれてはいない……」

 トランプ大統領の念頭にあるのは、2015年8月の「人民元ショック」ではないか。

 中国は、2005年7月以降、管理変動相場制という独特の為替システムを採用している。毎朝、中国人民銀行が、米ドルを始めとする主要11通貨と人民元との「中間値」を発表し、その日の為替は、中間値から上下2%の振動幅で変動相場を許容するというものだ。

 ところが2015年8月11日から13日にかけて、中国人民銀行は、米ドルとの中間値を、4.5%も強引に切り下げてしまったのだ。この時の切り下げの責任者が、いまの易綱人民銀行行長(当時は副行長)である。

 ともあれ、このトランプ発言に対し、7月21日、22日にブエノスアイレスで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、トランプ大統領への批判が相次いだ。

IT大手「小米」上場の波乱
一方、株価に関しては、中国当局の政策がどうあれ、下がるより上がる方がよいに決まっている。

 年初に3307ポイントだった上海総合株価指数は、7月20日現在、2829ポイントと、約15%も下落している。高リスクと言われる3000ラインを、あっさり割り込んでしまったのだ。

 象徴的だったのが、中国のスマホなどIT大手「小米」(シャオミー)が、7月9日に香港市場に上場を果たした一件である。

 中国当局は、中国国内の株式市場を活性化するため、すでに海外市場で上場している中国の有力企業や、ユニコーンと呼ばれる中国の一連の企業群(創業10年以内で時価総額10億ドル以上の未上場企業)を、中国国内で上場させるという方針を定めている。

 その際、CDR(中国預託証券)という制度を利用して、海外市場に上場していても、中国市場でも連動させて上場できるシステムを導入するとした。中国の有力な民営企業(特にIT企業)ほど、中国共産党がコントロールする中国国内での上場を嫌うので、CDRは苦肉の策だったのだ。

 その象徴的事例にしようと画策したのが、小米の上場だった。小米もこれを受け入れ、当初は香港市場と上海市場で同時に上場する計画だった。資金調達予定額は、それぞれ50億ドルで、計100億ドルと言われた。

 ところが小米は、6月19日になって突然、「上海市場での上場を延期する」と発表したのだ。おそらく、今後激化が見込まれる米中貿易戦争のとばっちりを避けようとしたものと思われる。

 結局、7月9日に、創業者の雷軍(レイ・ジュン)CEOの姿は、香港証券取引所にあった。だが、思わぬ「片肺飛行」となったため、一時はIPO(新規株式公開)価格の17香港ドルを2.9%下回る16.50香港ドルまで値を下げる波乱の出帆となった。

 ちなみに、中国国内市場での上半期のIPOは111社にとどまり、これは昨年同期の268社に較べて41%にすぎない。3年前の6月後半から7月初めの3週間で、上海総合株価指数が32%も下落した「悪夢」は、まだ記憶に新しいところで、その時以来の株式下落が懸念される。
つづく

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180724-00056679-gendaibiz-int&p=1


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