<日本は政治亡命をほとんど認めないのが通説だが、このたび中国で迫害されている知人の子供と義母の難民申請を手伝った。無事に認められたのだが、その過程で中国人の暗部も見えてしまった>
こんにちは、新宿案内人の李小牧です。

日本に移住して30年、初めてのアルバイトから初めてのレストラン経営、初めての国籍取得、初めての選挙などさまざまな「初体験」を経てきたが、先日思ってもみない「初体験」があった。ある日のこと、私が電話を取ると、向こうはいきなりこう切り出してきた。

日本の「高度人材は不要。単純労働者だけ歓迎」は正気の沙汰じゃない

「李さん、ネットで炎上されてますよね? よろしければ、我々のほうで対策いたしますが。当方は**社と申しまして、風評被害対策で豊富な経験を持っております……」

――といった内容だ。

私、李小牧は言論人として活動するなかで、いわゆるネット炎上を何度も体験してきたが、対策会社から売り込みがあったのは初めてだ。ネット炎上を見つけてはめざとく営業をかけてくる会社もあるわけだ。商魂たくましいと感心させられた。

ネット炎上でパニックになっていれば、高額の料金がかかっても頼んでしまう人が多いのだろう。もっとも、ネット炎上には慣れっこの私には不必要なサービス。正々堂々と真実を明らかにすれば、批判の声もやがて勢いを失うのはよく分かっている。売り込みは丁重にお断りした。

日本は政治亡命を受け入れない、だが申請する権利はある
なぜ今回、私はネット炎上したのか。発端は6歳の子供だ。

6月末、路徳から電話があった。路は米国に亡命している中国人。中国共産党の闇を告発するユーチューブ番組「路徳訪談」の司会者として知られる。私も番組準レギュラーの1人だ。路は「私の友人2人が日本を訪問するので、会ってほしい」と言った。

そして7月2日、その「友人」2人がまもなく日本に到着するタイミングになって、路は再び私に電話をかけてきた。「実は友人というのは、私の子供と付き添いの義母の2人だ。よろしく頼む」

路徳には3人の子供がいる。ほとんどは米国で暮らしているが、年長の6歳の子供だけは中国に残っていた。「売国奴の子」と罵られ、辛い日々を送っているという。将来的には米国で父と一緒に暮らす計画だったが、なかなか滞在許可が下りない。ずっと地元にいるのも辛いので、海外旅行に出かけたのだという。

子供は地元政府からさまざまな嫌がらせを受けているが、幸いにも戸籍は別の地方にあったためパスポートは無事発給された。最近では「IT先進国・中国」とのニュースをよく目にするが、「嫌がらせ対象リスト」はネットで共有されていないようだ(笑)。

路徳の子供と義母は、まずは韓国に行き、そして日本にやって来た。15日間の観光ビザでの入国だ。期間が過ぎれば中国に戻り、子供は再び「売国奴の子」として暮らさなければならない。

そんな状況ならば政治亡命を申請してはどうか。私がそう勧めると、路徳は「そんな方法があるのか!?」と驚いていた。無理もない。日本は難民申請のハードルがきわめて高い国として知られる。中国人の政治亡命が認められたのは天安門事件直後の数人と宗教団体「法輪功」関連の数人だけで、その他は誰一人認められていないという。

日本は政治亡命を受け入れない――これが通説だ。だが、難民申請という制度があり、実際に迫害されている事実がある以上、少なくとも申請する権利はある。

異例のスピードで、難民申請の審査が通った
こうして路徳の子供は難民申請にチャレンジすることになった。日本語も英語もできない、6歳の子供とおばあちゃんでは大変だろうと、私も東京入国管理局に付き添った。

品川駅からバスで10分ほどの臨海部にあるが、いつも人でごった返している。東京の国際化が進み外国人人口が増えたにもかかわらず、入国管理局の施設は拡張されていないので、パンク状態なのだ。外国人対応に予算を割いても選挙で票は増えないため、政治の動きは鈍い。

各国が世界の高度人材を獲得しようと競争をくり広げているなかで、日本だけは対応できていない。本当に日本のことを考え国力を高めようと願っている政治家ならば、優秀な外国人の引き抜きに力を注ぐはずなのだが、目の前の一票ばかりが気になる小人物ばかりのようだ。

さて、入国管理局で難民認定を申し込んだ。

窓口の職員は面倒臭そうな態度で話を聞くと、「あなたは弁護士? 行政書士?」と尋ねてきて、「申請を受けても認可されないので」などと適当な理由をつけて追い返そうとしてくる。ともかく申請をさせてほしいと言っても相手にしない。しばらく押し問答を続けた後、私はそっと名刺を差し出し、自らの名前を名乗った。

すると、突然相手の態度が変わった。少し待ってほしいと一度オフィスに戻った。なにやら相談する声が聞こえる。戻ってくると、打って変わったように親切な態度に変わり、今まで見ようともしなかった資料に目を通し始める。私がこれまでにメディアに書いた記事のコピーを見ると、目の色が変わったのが分かった。

そこからはトントン拍子で話が進んだ。おそらくは異例のスピードで審査がなされ、7月18日には東京入国管理局の「難民調査部門」から待望の葉書が発送された。難民申請を受理するという内容だった(ただし、私の家に送ってもらうはずだったが、手違いで子供と義母の滞在先に送られたため時間がかかってしまい、入管を再訪して2人分の8000円を払い、正式に難民認定されたのは8月に入ってから。これには冷や冷やさせられた!)。

中国の民主化を望む者であれ、あるいは民主化よりも政治の安定を優先する者であれ、およそ良心があるかぎり、6歳の子供が「売国奴の子」として迫害されれば胸を痛めるだろう。私も子供を持つ親として、1人の子供が辛い境遇から抜け出せたことを喜ばしく思う。

私がやったことといえば、入管に付き添い、通訳をし、代わりに交渉をしたぐらい。難民申請を認めたのは日本政府の判断だ。民主主義国として正しい判断を下した我が日本を誇りに思う。

デマで煽り、火のないところに火をつける輩がいる

ここまで読んでくださった読者の方は不思議に思われるだろう。「あれ? 炎上事件はどこにいった?」と。6歳のかわいそうな子供が日本国の保護を受けた、ただそれだけの話のどこに炎上要素があるのか、理解できないのではないか。私だって理解しがたい。

火のないところに無理矢理火を付けたのは、日本在住の中国人漫画家・孫向文だ。私がツイッターに子供の難民申請を手伝っていると書いたところ、彼は以下のようにつぶやいている。

(「李小牧の偽装難民ビジネスが始まり、沢山の中国人が問い合わせ殺到「生活保護をどれくらい貰える?」という質問も多いです」)

知人の子供の申請に付き添ったことを「難民偽装ビジネス」呼ばわりしているのだ。孫のデマに多くの日本人が釣られて憤っているようだ。

実際には私は一銭ももらっていない。手助けだけとはいえ、申請書の記入やら資料をそろえるやらで結構時間がかかっているのだが、ひどい話だ。

孫は「生活保護をどれくらい貰える?」という質問が多く寄せられたと書いているが、彼がツイッターでアップした画像には「難民には生活補助金が支給されますか?」という問い合わせが1つあるだけ。大半の日本人は中国語が読めないことをいいことに、適当なデマで煽っているのだ。

海外民主派と呼ばれる人々がいる。世界各国に住み、中国政府を批判する人々だ。だが彼らには何の力もなく、ただあれこれ偉そうなことを言うだけの存在だ。そんな彼らに中国を変えることはできない。ならば別の成果を出そうと始めたのが、内ゲバだ。

「あいつは中国のスパイだ」などとでっちあげては誹謗中傷を重ね、次々と人を陥れていく。その姿は無実の人々を吊し上げては殺していった文化大革命の紅衛兵とかぶる。海外に住み、中国政府を批判しながらも、その心性は中国人の暗部をそのまま残している。

中国について認めるべきところは認め、批判するべきところは批判する私のような人間は、彼らにとって目障りなのだろう。中国についてひたすら悪口を言い続け、意に沿わぬ人間を吊し上げる彼らのゲームに参加しない者は、全て敵と認定されるのだ。

そんなくだらないお遊びに関わるのは時間の無駄にしか思えない。そして、彼らのデマに釣られて、時間を無駄にする日本人がいることも残念に思う。より生産的なことに取り組むべきではないか。6歳の子供が「売国奴の子」と罵られる生活から抜け出す手助けのようなことを、だ。

海外で中国政府を批判する「だけ」の時代は終わる

孫向文のことはもういい。冒頭で書いたように、正々堂々としていれば、炎上はやがて収まるものだ。それより私が気になっているのは、海外に暮らし、中国政府を批判する「だけ」の人間の時代が終わりに近づいているということだ。

今回、路徳の子供と義母の難民申請を手伝うことになったわけだが、路徳の番組「路徳訪談」には米在住の大富豪「改革者」である郭文貴も定期的に出演し、暴露を続けている。

詳しくは私の過去のコラム(中国大手32社が「不審死&経営難」海南航空と同じ運命をたどる!?   「中華文春砲」郭文貴と、29年成果なしの民主化運動家の違い)をご覧いただきたいが、郭文貴ら新しい世代の「改革者」たちには、実際に中国を変える力があると信じている。

今、「郭文貴現象」から「郭文貴時代」へと変わってきている――私はそう信じているのだ。日本では「郭文貴現象」ですらあまり注目されてこなかったが、この新しい動きに遅れず、ついて来てもらいたいと思う。

とはいえ、今回の件では迅速に対応してもらった。8月14日、ツイッターで無事に難民申請が認められたことを報告したところ、1800件以上の「いいね!」が付いた。路徳の子供は、9月から地元の小学校に入学できる見込みだ。

ここに改めて、日本政府と入国管理局、地元自治体への感謝を記したい。

李小牧(新宿案内人)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180820-00010005-newsweek-int&p=1