もう、逃げようがない
 魔の10時半……。


 このところ、東京証券取引所では、こんな言葉が交わされるようになっている。上海証券取引所が開く日本時間の午前10時半に、隣国の株価暴落を受けて、どんな影響が襲ってくるか知れなくなってきたからだ。

それというのも7月6日、米トランプ政権が、中国に対する貿易戦争を「宣戦布告」したからである。

 アメリカはこの日から、340億ドル分の中国製品に対して、一律25%の追加関税をかけた。中国も直ちに「反撃宣言」し、同日から同様に、340億ドル分のアメリカ製品に対して、一律25%の追加関税をかけた。

 するとアメリカは、新たに2000億ドル分の中国製品に対して、一律10%の追加関税をかけると発表。

 家具、カーペット、自転車、スキー板、トイレットペーパー、ハンドバッグ、ペットフード……。計6031品目にわたる中国製品に、ほとんど見境なく関税をかけるというのだ。

 これに対し、中国は対応に苦慮している。昨年のアメリカからの輸入額は、1539億ドルしかないため、同様の対抗措置は取れない。同月に中国商務部が長文の「抗議声明」を発表したものの、アメリカを攻めあぐんでいる。

 それにしても、2000億ドルと言えば、邦貨にして約22兆円だ。こんなケタ違いの額の関税が、1ヵ国に対して課せられるのは、前代未聞である。

 仮に、中国もすべてのアメリカ製品を追加制裁の対象にした場合、制裁額は両国合わせて、約47兆円! 

 リーマン・ショックから10年を経て、ようやく復調してきた世界経済が、再び嵐に見舞われるリスクが、一気に高まってくる。

 そうなると、もちろん日本も対岸の火事ではいられない。日本企業の海外展開研究を専門とするシグマ・キャピタルの田代秀敏チーフ・エコノミストは、「多くの日本企業が、壊滅的な打撃を被ることになる」と警告する。

 「日本企業が前世紀から、さまざまな風雪に耐えて来られたのは、主要な工程を日本で行い、それ以外の工程は中国などで行うという国際分業体制を敷いていたからです。つまり中国に問題があれば、タイやベトナムなどに移せばよかったわけです。

 ところが現在では、原材料や部品の調達から、製品の製造、在庫管理、販売、配送までのサプライチェーンが、網の目のように日本、中国、台湾、韓国などを覆っています。

 そのため、ひとたびアメリカが中国に貿易戦争を仕掛ければ、それは東アジア全域に対する宣戦布告に等しい。多くの日本企業も逃げようがなく、甚大な被害が出ることを覚悟しなければなりません」

中国で「金融恐慌」が起こる…
 世界ナンバー1とナンバー2の経済大国によるガチンコ対決は、中国のほうが相対的に不利だというのが、世界の金融界の共通認識になりつつある。

 中国は、いくらナンバー2とはいえ、現在の経済規模は、アメリカの3分の2弱に過ぎず、金融システムや株式市場なども、まだまだ脆弱だからだ。

 実際、中国国内でも、金融の専門家たちが、次々に警鐘を鳴らし始めた。

 中国を代表する金融学者の陳志武エール大学終身教授は、米中貿易戦争が勃発した当日に、中国の大手インターネット・メディア『網易』のインタビューに答えて、次のように述べた。

 「今回の貿易戦争による被害は、中国のほうがアメリカよりもはるかに大きい。そしてトランプ政権は、自国の被害よりも中国の被害が大きいと判断する限り、貿易戦争を継続させるだろう。

 つまり貿易戦争は、すぐに解決することはなく、長期的に中国経済を痛めつけると見るべきだ」

 このインタビューは中国当局によって、直ちにネット上から削除された。

 さらに6月25日、中国政府内部で『金融恐慌の出現を警告する』と題した経済論文が回覧された。「いまや中国に、かなり高い確率で金融恐慌が出現するだろう」と断言したものだ。

 論文の筆者は、中国国務院(中央官庁)傘下の中国社会科学院内にあるシンクタンク、国家金融発展実験室の李揚理事長以下、4人の研究グループである。彼らは、いわば習近平政権内部から、いたたまれなくなって声を上げたのだ。

 具体的には、次のように警告している。

 〈中国国内で債務の不履行、ボラティリティ(流動性)の緊張、為替の下降や株価の下落などが止まらない。これに加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ、そして今回のアメリカとの貿易摩擦の長期化が決定的な要因となり、いまや中国に、金融恐慌が起こる確率は極めて高い……〉

 この論文もまた、中国で直ちに削除されたが、何とも恐ろしい予言である。

 思えば、いまから10年前にアメリカでリーマン・ショックが起こった時、その余波は間髪を容れず、日本をも襲った。アメリカ向け輸出は激減し、原油価格の高騰などから物価はハネ上がった。

 結局、金融危機の影響から、翌’09年の日本の経済成長率は、マイナス5.42%と、戦後最低を記録したのだった。

 あれから10年、今度は米中貿易戦争が引き金となって、中国発の金融恐慌が起こると、中国の「金融のプロ」たちが、警告しているのである。

中国で「金融恐慌」が起こる…
 世界ナンバー1とナンバー2の経済大国によるガチンコ対決は、中国のほうが相対的に不利だというのが、世界の金融界の共通認識になりつつある。

 中国は、いくらナンバー2とはいえ、現在の経済規模は、アメリカの3分の2弱に過ぎず、金融システムや株式市場なども、まだまだ脆弱だからだ。

 実際、中国国内でも、金融の専門家たちが、次々に警鐘を鳴らし始めた。

 中国を代表する金融学者の陳志武エール大学終身教授は、米中貿易戦争が勃発した当日に、中国の大手インターネット・メディア『網易』のインタビューに答えて、次のように述べた。

 「今回の貿易戦争による被害は、中国のほうがアメリカよりもはるかに大きい。そしてトランプ政権は、自国の被害よりも中国の被害が大きいと判断する限り、貿易戦争を継続させるだろう。

 つまり貿易戦争は、すぐに解決することはなく、長期的に中国経済を痛めつけると見るべきだ」

 このインタビューは中国当局によって、直ちにネット上から削除された。

 さらに6月25日、中国政府内部で『金融恐慌の出現を警告する』と題した経済論文が回覧された。「いまや中国に、かなり高い確率で金融恐慌が出現するだろう」と断言したものだ。

 論文の筆者は、中国国務院(中央官庁)傘下の中国社会科学院内にあるシンクタンク、国家金融発展実験室の李揚理事長以下、4人の研究グループである。彼らは、いわば習近平政権内部から、いたたまれなくなって声を上げたのだ。

 具体的には、次のように警告している。

 〈中国国内で債務の不履行、ボラティリティ(流動性)の緊張、為替の下降や株価の下落などが止まらない。これに加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ、そして今回のアメリカとの貿易摩擦の長期化が決定的な要因となり、いまや中国に、金融恐慌が起こる確率は極めて高い……〉

 この論文もまた、中国で直ちに削除されたが、何とも恐ろしい予言である。

 思えば、いまから10年前にアメリカでリーマン・ショックが起こった時、その余波は間髪を容れず、日本をも襲った。アメリカ向け輸出は激減し、原油価格の高騰などから物価はハネ上がった。

 結局、金融危機の影響から、翌’09年の日本の経済成長率は、マイナス5.42%と、戦後最低を記録したのだった。

 あれから10年、今度は米中貿易戦争が引き金となって、中国発の金融恐慌が起こると、中国の「金融のプロ」たちが、警告しているのである。

つづく

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