自民党の安全保障調査会は今月20日、政府が年末に向けて見直しを進めている防衛大綱に盛り込むことを念頭に、空母と米国製F-35Bステルス戦闘機の導入を提言した。
空母は現有の「いずも」型護衛艦の改修による新規保有を検討。
F-35Bは「いずも」の甲板や離島の短い滑走路でも離着陸可能なSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)タイプで、米国からの購入を見据えている。

自民党安全保障調査会の中谷元会長(元防衛相)は、現在の日本の安全保障環境を「戦後最大の危機的情勢」と語った。米メディアを中心に反響は大きく、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの主要メディアも調査会の提言や中谷氏の発言を伝えた。さらに複数の米メディアが日本と中国の軍拡競争の分析記事を掲載している。

◆加速度的に増す中国の脅威
 ロイターは、日本が現在直面する軍事的脅威は直接的には北朝鮮のミサイルかもしれないが、中長期的な視点に立てば、急速に軍事力を強化している中国こそが最大の仮想敵国だとしている。中国は既にサンゴ礁の軍事基地化などにより南シナ海を手中にしており、「次は東シナ海だ」というのが、日米の防衛筋の共通した見方だ。そのため、「日本の軍事専門家たちは今、中国の軍事的プレゼンスにより、日本列島から太平洋へのアクセスが危機に陥りつつあると懸念している」とロイターは書く。

近年の中国の軍事費増強は目を見張るものがあり、今年は日本の3倍、アメリカの3分の1に当たる1750億ドルの軍事費を計上している。長期的な計画で空母やステルス戦闘機の増強など装備の近代化を推し進め、「2050年までにワールドクラスの戦闘部隊を築き上げようとしている」(ロイター)という。それらの兵器の最重要ターゲットの一つが尖閣諸島などの沖縄周辺海域で、日本と競合するシーレーンを押さえることは「グローバル・スーパーパワーになるための重要なピースの一つだ」とロイターは指摘する。

 対する日本の防衛予算は過去5年間、約1%ずつの増加にとどまる。ロイターの取材に答えたある日本政府高官によれば、次の5ヶ年も同程度の水準となる見込みだという。少子高齢化に伴う健康福祉予算が最優先で、防衛予算に回す余裕が少ないというのが現状だ。米軍もアジア太平洋地域で縮小傾向にあり、相対的にも絶対的にも、中国のパワーが加速度的に増している。中谷元防衛相の言う「戦後最大の危機的情勢」は、まさにこの中国の脅威を指している。

◆差が開き続ける潜水艦戦力
 米ビジネスニュースサイト『ビジネス・インサイダー』は、特に中国の潜水艦戦力を日本の脅威に挙げている。米国防総省の調査によれば、中国は2002年以降、10隻の原子力潜水艦を建造。通常型潜水艦は54隻を保有し、このうち48隻が稼働中と見られている。日本は、先日就役したばかりの「そうりゅう」型9番艦「せいりゅう」を加え、通常型のみの20隻(うち練習艦2隻)で対抗する。

米シンクタンク、国際戦略研究所の分析では、中国は2020年までに70隻まで潜水艦を増やすとみられる。原子力潜水艦は現状維持で、より安価な通常型潜水艦を20隻ほど追加する戦略のようだ。日本は、2021年までに2隻の追加にとどまる予定で、日中潜水艦戦力の差はますます開くことになるだろう。アメリカは50隻の原子力潜水艦を保有するが、多くは老朽化している。ハリー・ハリス米太平洋軍司令官は、「平時の要求を満たすのに必要な半数しかない」と嘆いている(ビジネス・インサイダー)。

 中国の潜水艦は、数だけでなく、活動範囲も広げている。2016年には、原子力潜水艦がパキスタンのカラチ港に寄港。南アジアの港に中国の原子力潜水艦が姿を現したのはこれが初めてで、その後、現在も続くインド洋での定期パトロール活動につながった。その翌年には、マレーシアと領有権を争う港に通常型潜水艦が寄港。日本にとっては、今年1月に尖閣諸島の接続水域で中国原潜がキャッチされた件が、防衛関係者に大きな衝撃を与えた。

◆じっと耐えて中国の自滅を待てとは言うが……
 潜水艦だけでなく、着々と進む中国空母戦力の増強も日本にプレッシャーを与えている。日本の海軍力増強計画に詳しい情報筋は、空母などの新戦力に加え、より長距離から目標を叩くことのできる武器弾薬の装備が急務だとロイターに語る。水陸両用装備やドローン偵察機の導入も検討されているという。

 また、指揮系統の再整備、合理化により、より効果的な防衛体制を敷くことも計画されている。
先の自民党安全保障調査会の提言には、有事の際に陸・海・空部隊を一括して運用する「統合司令部」と、それを指揮する常設の「統合司令官」の設置が盛り込まれている。

 日本政府もこうした対策を練ってはいるものの、急拡大する中国の軍事力に追従して真正面から軍拡競争をするのは無謀だ。米軍と連携しつつ、地道に対応していくしかないだろう。ある防衛アドバイザーは匿名を条件にロイターにこう語る。「財政は我々の弱点だ。しかし、日本社会の強みは回復力だ」。地道な対策をしながらじっと耐えれば、いずれは内部対立や経済の低調により中国の脅威も弱まるだろうという考えだ。
確かに「忍耐」は日本人の美徳とされる。とはいえ、そういった精神論では現実の脅威に対抗しきれないのは先の敗戦でも明らかだ。中谷元防衛相も「予想外の急成長」と語る中国の軍事力に、日本はどこまで耐えられるのだろうか。

いずも空母化、F-35B導入検討 「戦後最大の危機」に備える日本