海抜ゼロメートル地帯が広がる東京都東部。常に水害の危険にさらされている地域だが、ひと口に水害といっても、河川の氾濫による「外水氾濫」、市街地に降った雨が処理能力を超えて溢れる「内水氾濫」などがある。


「この地域を襲う水害でもっとも危険なのは高潮です」

 こう語るのは、リバーフロント研究所の土屋信行氏だ。土屋氏は元東京都職員で、長年治水対策に取り組んできた。2018年3月、都は高潮による浸水被害の想定を発表している。

 それによれば、浸水は最大で17区におよび、23区の3分の1にあたる約212平方キロメートルが浸水。最大深さは10メートル以上で、1週間以上浸水が続く地域が大部分を占める。

「台風の低気圧による海面上昇と高波、これに満潮が重なって高潮は発生します。特に東京湾のような遠浅の湾の奥は、影響が大きくなります。かつて高潮は『海嘯』と呼ばれ、津波と同一視されていました。津波と同様の被害をもたらすのです」

 東京では1917年の「大海嘯」で563人の犠牲者が出ている。5000人超が犠牲になった伊勢湾台風(1959年)の被害が拡大した最大の原因は、高潮だった。

「東京が台風による大きな被害を受けたのは1947年の『カスリーン台風』が最後です。そのときは、大雨により利根川と荒川が破堤し、東京の下町が大洪水となって、1000人超の犠牲者が出ました。以来今日まで71年間、東京では台風による大きな被害は出ていませんが、逆に危険度は増しているのが現状なのです」

 長期間、東京で台風による大きな被害が出ていないのは、偶然にすぎない。東京が水害が多い土地であることを忘れがちになり、安全になったという間違った思い込みが浸透することがなにより危ないと、土屋氏は警告する。

「戦後、東京東部に人口が増え、多くの工場が建って大量の水をくみ上げたことで、大規模な地盤沈下が発生しました。広大なゼロメートル地帯が形成されたことで『カスリーン台風』時より危険度ははるかに高くなっています。

 地盤沈下したことで、コンクリートで高さを上げた、厚さが30センチ程度しかなく非常に脆い『カミソリ堤防』が荒川や隅田川にも多く造られましたが、現在は劣化が激しい状態です。

 これで高潮が起きたり、上流から大量の水が押し寄せれば、ひとたまりもありません。イメージとしては、風呂の水に洗面器を浮かべて押し込んでいるようなもの。一気に水が洗面器に入るのです」

 高潮のみならず、外水・内水氾濫によっても大きな被害が生じることは間違いない。

 近年、「記録的豪雨」は増加しつつある。気象庁によれば、1時間80ミリ以上の降水の発生回数は、1976~1985年と2008~2017年の比較で約1.6倍に増加している。もはや「記録的」ではなく、普通に豪雨が降る時代なのだ。

 国土交通省は『荒川氾濫』と題した動画を公開している。荒川上流で、3日間で500ミリを超える雨が降ったと想定し、東京・北区で荒川の堤防が決壊して、銀座や東京駅までもが浸水する、という内容だ。

「3日間で500ミリという想定ですが、3年前の鬼怒川の氾濫では、24時間で551ミリという地点もありました。今年7月の西日本豪雨では72時間雨量が1300ミリを超えたところもあります。

 動画では多くの地下鉄が水没しますが、中央防災会議のシミュレーションによれば、北区の荒川の堤防の決壊によって、17路線97駅、全長約147キロが水没してしまいます」

 水害のリスクがあるのは東京東部だけではない。西部の武蔵野台地が広がる地域でも、豪雨時に河川がたびたび氾濫している。特に近年はゲリラ豪雨が増えているだけに、注意が必要だ。

「神田川はよく氾濫していましたが、環状七号線の地下に調節池が造られ、効果を上げています。ただし、東京の雨水排除能力は1時間に50ミリが限度。それを超えれば危険です。暗渠化された川も多く、これらは豪雨によって再び地上に顔を出すことになります」

 これらの災害のリスクは、大阪も名古屋もさほど違いはない。大きな河川があり、その沖積平野に大都市が広がり、遠浅の湾の奥に位置するという条件は同じだ。

「ミュンヘンの保険会社による世界の大都市の自然災害リスクというデータがあります。危険発生の可能性、脆弱性、経済価値を指数で示しており、東京・横浜は1位。指数は710で、2位のサンフランシスコの167を大きく引き離しています。大阪・神戸・京都は指数92で、4位です」

 世界でもっとも危険な街に、我々は暮らしているのだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180916-00010003-flash-ent&p=2