「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の中国古代史から題材を得た長編漫画である。連載開始は2006年だから12年、単行本は現在51巻、週刊誌の連載なので3ヵ月に1冊のペースで単行本が出版されている。

時代は春秋戦国時代(BC770年~BC221年)の終盤、中国を統一した秦の始皇帝誕生前の物語だ。周王朝の滅亡後、550年以上も戦乱が続いているが、200を数えた国々は500年を経て7国(斉、秦、楚、魏、韓、趙、燕)に集約され、合従連衡を繰り返して「敵の敵は味方」の複雑な武力衝突と外交戦争が続いていた。

● 秦の大将軍となる「信」を 主人公にした珍しい漫画

主人公はのちの始皇帝になる秦の王子政(せい)と大将軍になる信(しん)。中国古代史をテーマにした小説や漫画は非常に多いが、政はともかく、信を主人公にした作品は初めてであろう。
 
 作者の原泰久は、実在した将軍だがほとんど史料のない信を中心にして、とても面白い周囲の登場人物をつくっている。

 信は最下層の貧しい少年だったが、将来の将軍を夢見て剣技を鍛えていたという設定だ。偶然、少年の政に出会い、中国統一を目指して戦乱の中に飛び込んでいく。貧しい少年の出世物語でもあり、日本でいえば太閤記のような趣もある。少年の信が少年の政と出会った時期、秦の王子である政の状況はどうだったのか、ここをおさえておかないと大長編がわかりにくい。少し解説しておこう。

 政は、父親の子楚(しそ)が趙の人質として秦から送り込まれていたので趙で生まれている。子楚は秦の王族の中ではその他大勢の一人であり、立場は悪かった。ところが韓の大商人だった呂不韋(りょふい)が子楚に接近し、政商として密着する。

 秦が趙を軍事攻撃すると子楚は脱出するが妻子を置き去りにする。政は殺されそうになるがなんとか危機を回避、やがて秦の王が没すると子楚が皇太子となったため、趙は外交上の約束として政を秦へ送り返した。政が10歳のときである。『キングダム』の物語はこのあたりから始まっている。

 新しい秦王は早く没したため、政の父、子楚が王位に就く。これが荘襄王である。うまいこと大商人として子楚のスポンサーとなっていた呂不韋は丞相に取り立てられ、大きな権力を握る。天下を狙う政と実権を握る呂不韋の暗闘が『キングダム』中盤の山場となる。

● 信の軍師や幹部軍人は女性 かわいらしさや美しさも大きな魅力

 一方、少年信の出世物語は小気味よく進み、痛快だ。しかも、信の軍師や幹部軍人が面白い。

 信の軍師は河了貂(かりょうてん)、『キングダム』の設定では山岳民族の少女である。鳥の頭をデザインした上着を常にまとっている。モーツァルトの「魔笛」に登場する鳥刺し、パパゲーノのようだ。なんともかわいらしい軍師で目を奪われる

 もっとすごいのが信の軍隊(飛信隊という)の将官である羌カイ(きょうかい)だ。羌カイは暗殺者集団の一族に生まれ、苛烈な武術訓練を経て凄腕の殺人マシンに成長していた。友人を訓練中に殺され、一族への復讐を誓って出奔していた。あるとき信に出会い、飛信隊の一員となって出世していくのだが、なんと羌カイも美少女なのである。

 巻を重ねていくと政も信も成長し、青年となって戦場へ向かうが、河了貂はひたすらかわいく成長し、軍略も試行錯誤の末に磨かれていく。羌カイはどんどん美しくなり、男性読者をどぎまぎさせるようになっている。まあ、ほとんど現代の少女の風情で、2200年前の人物とは思えないが、それが漫画の威力でもあり、魅力なのだ。

ほかにも史料では名前だけしかわからない将軍や軍師に女性を配し、「うそだ」と思わせつつも読者をのめりこませていく。例えば秦の将軍だった楊端和(ようたんわ)は少数民族を率いる妖艶な美女として描かれていて驚く。

 中国古代史の軍人や軍師は筋骨隆々の男だと思い込んでいるので、少女たちの登場には驚くが、たしかに少女じゃなかったという証明もできないので、これは作者のアイデアが優れていたといえよう。

● 最新刊では趙への攻略が続く 実写映画化にも期待

 秦の政はやがて6ヵ国を破り、中国を統一して始皇帝を名乗ることになる。結末はわかっている。作者は登場人物の造形には想像力を発揮しているが、事実関係は歴史どおりで、歴史の改変は行なっていないから物語の行方はわかる。それでも、想像の部分、つまり作戦、戦闘、人物造形、武器、景観など、漫画の利点を生かした進行が刺激を与えてくれる。実写映画化の制作も発表されているから、女性将軍らの配役が楽しみだ。

 最新刊の第51巻では趙への攻略が続く。いったいどこまで巻を重ねるのかわからないが、あと2、3年で終わるとも思えない。中国統一後もさまざまな物語が待っているだろう。

 1970年代に「週刊少年ジャンプ」で連載されていた『アストロ球団』を思い出させる大長編だと考えていた。『アストロ球団』では1イニングに1年間かかったような記憶がある。本当にいつまで続くのだろうと思いつつ、喜んで毎週読んでいたものだ。調べてみると、『アストロ球団』の連載期間は4年間、単行本は20巻しかなかった。『キングダム』はすでに『アストロ球団』の2倍半を超えていた。

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