「人生100年時代」、老後をいかに豊かに過ごすかは重要なテーマだ。政府は高齢者の雇用環境整備を急ぐ考えを示しているが、若いときと同じように働いて収入を得るのは簡単なことではない。「老後破産」などの事例も相次いでいる。最近の金融庁などの報告によると、収入面の不安から、慣れない投資に手を出して失敗したり、制度の理解不足から手にできるはずのお金を取り逃したりしているお年寄りも多いようだ。知識不足が原因で老後資産を失わないために、「損しないマネー術」をファイナンシャルプランナーの花輪陽子さんに解説してもらう。

◆必ず押さえたい三つのポイント
 「住宅保有率が高く、金融資産残高も多い」。しかし、「労働所得が少なく将来的に不安が大きい」。だから、「毎月の食費や光熱費、医療費などを負担に感じ、節約志向が高まっている可能性がある」――。

 2017年度の「年次経済財政報告」で、内閣府が分析した日本の高齢者の経済状況だ。一定の資産を持つものの、現役時代に比べれば少なくなった収入に不安を感じ、財布を固く閉じているお年寄りたちの姿が浮かび上がる。とはいえ、心配ばかりしていては心の「豊かさ」まで失いかねない。大切なのは「要領」。必ず押さえておきたいのは、次の三つのポイントだ。

 1.投資でカモにされない
 2.生活支出を放置しない
 3.「取れるお金」を取り逃さない

◆投資信託、半数近くが「損失」
1.投資でカモにされない

 高齢者の経済状態を考える時、まず、注意が必要なのは「資産が多い」という点だ。

 高齢者の投資に関する危険性はこれまでも指摘されてきたが、国民生活センターに寄せられる最近の相談事例をみても、「証券会社に勧誘され、老後資金を増やすつもりで海外の不動産投資信託などに投資したところ損失が出た」「一人暮らしの母が十分に理解しないまま投資信託契約をさせられた」「父が高額な投資信託を契約したが、値下がりのリスクや手数料などをわかっていない」といったものが依然として多い。

 低金利が続き、銀行は貸し出しの「利ざや」を得にくくなり、投資信託(投信)による手数料収入に力を入れるようになった。しかし、金融庁が6月末にまとめた報告書によると、投信を保有していた顧客の46%が損失を抱えている。いかにリスクが高いかわかるだろう。退職金などで資産の多い高齢者は、特に勧誘されやすいという事情もある。

 金融庁の別のリポートをみると、手数料の高い投信の中には、高齢者の資産運用には向かないものが多いことが指摘されている。高齢者に「向かない」投信とは、次のようなものだ。
◆初心者に向かない投信が多い

金融庁のワーキング・グループがまとめた報告書(2017年3月30日)によると、現在、販売の主流になっている投信は、その時々の経済状況を分析し、売買するタイミングを自分で見極めることが重要な商品が多い。投資初心者には向かないとも指摘されている。

 毎月、分配金がある商品も「年金の足しになる」などと勧められることが多いが、実は元本を切り崩して、配当にまわしているものも含まれる。これでは「運用で得た収益を再び投資にまわすことで、さらに利益を得る」という投資本来の効果を十分に得ることが難しい。これも報告書の中で触れられている。

 そして、いずれの投信についても指摘されるのは、手数料が高いことだ。

 現役時代の給与や退職金で作った預金が年を追うごとに減っていくのは心細く、「少しでも投資で増やしたい」という気持ちになる人は多い。だが、投資による損失は資産減少をさらに加速させる可能性もあるので、慎重になるべきだ。

◆「リスク診断」を参考に

「それでも」という人は、少額投資非課税制度「つみたてNISA(ニーサ)」の対象となっている金融商品を選択肢に入れる方法がある。金融庁が長期的な資産形成に必要とする条件をクリアした商品しか購入できないため、比較的リスクが少ないといえる。日本には投資信託が約6000本あるが、つみたてNISAの対象は約150本にとどまる。対象は金融庁のホームページで確認できる。
ただし、この場合も必ず利益を出せるとは限らない。どれくらいのリスクをとることができるか。全国銀行協会のホームページに「あなたのリスク許容度診断テスト」があるので、試してみるのが良いだろう。

 簡単な質問に答えることによってリスク許容度などが分かるので、仮に資産が目減りしても生活に影響を与えることなく投資を継続できるのはどういう状況なのかを把握できる。現在の家族構成、家計、資産、ライフステージなどと照らし合わせて考えることが大切だ。

◆老後の生活の変化に応じて支出を見直す

2.生活支出を放置しない

 節約についても考えたい。「旅行や外食の機会を減らす」などといった「我慢ベース」の節約術は続けにくいし、楽しい誘いを受けるたびに悩むのなら、豊かな老後につながるか疑問だ。毎月、定期的に支出されている固定費なら、基本的に一度の見直しで済む。

 「子どもが独立した」「配偶者に先立たれた」などの理由で生活環境が変わっても、支出を以前のままにしている人もいる。現在の生活に合うように見直すことで、無理なく減らせる支出も少なくないのだ。

◆比較サイトで光熱費を削減
 家族構成の変化に応じて、見直すことで減らせる固定費といえば光熱費だ。例えば、電気の基本料金は、電力会社との契約アンペアを60アンペアから40アンペアに変更すれば、毎月約562円が節約できる(東京電力の場合)。

 現在は、電力自由化から2年半、ガス自由化からも1年以上が経過し、小売電気事業者は500社を超えた。電気代やガス代、または携帯電話代なども含めたセット割引プランなどもあり、サービスのどれがおトクで自分に合っているかを調べる比較サイトも充実している。「価格.com」、「エネチェンジ」などがポピュラーな比較サイトだ。家族構成などの必要条件を書き込むだけで、簡単にシミュレーション結果を出してくれる。

 夫に先立たれ、子どもも独立して都内に一人暮らしの70歳代女性のケースで試してみると、年間1万円以上、電気代が安くなった。

◆年金の落とし穴
3.「取れるお金」を取り逃さない

 収入を得る機会が減る老後は、公的給付などの「取れるおカネ」を取り逃さない意識と、税金などの「ムダなおカネを払わない」意識がそれぞれ大切になる。

 日本年金機構は、今年4月現在、2018年分の「扶養親族等申告書」を一度も提出していない人が約73万人と公表した。

 年金は雑所得なので、一定額を超えると所得税の課税対象になる。年金の年額が、65歳未満で108万円、65歳以上で158万円以上の人は、申告書を提出しないと控除対象配偶者などの控除が減って翌年の源泉徴収税額が跳ね上がることもある。最終的に確定申告を行えば、余分に源泉徴収された税金は戻ってくるが、気付かないまま申請しないと“損”をしたままになるのだ。

◆医療費も高額なら戻る
 医療費が高額の場合、「高額療養費制度」を使えば、年齢や収入に応じて設定される自己負担額を超えた際は、窓口での負担額が戻ってくる。知っている人には当然だろうが、これも申請しなければもらえない。家族も含め、あまり病気をしない人は、普段から意識しておいた方がいいだろう。

 69歳以下と70歳以上で制度は分かれており、今年8月からは70歳以上の限度額が引き上げられた。詳しくは厚生労働省のホームページで確認してほしい。

◆まずは節約から
 定期的な収入がある時は、支出の状況を気にしたり、ムダを意識したりせずに生活してしまっている人も多いと思う。毎日の仕事と生活に忙しく、多少のムダが出ても「その分、稼げばいい」などと考えることもできるだろう。しかし、リタイア後は「守りの発想」が大切だ。家族の人数の変化や、加齢に伴う生活様式の変化で、必要がなくなったり、見直しの対象になったりする支出はけっこうある。ムダを見直すことによって、安心で豊かな老後生活を送ることも可能になる。必要なのは情報収集力と行動力。今回、紹介した中では、「節約」が投資に比べるとリスクが少ないので、まずはここから始めてみるとよいだろう。

■花輪 陽子( はなわ・ようこ )
 1978年、三重県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部を卒業。外資系の投資銀行に入社。2009年にリーマンショックの影響で夫婦が同時期に失業。後にファイナンシャルプランナーの資格を経て独立。現在は生活の拠点をシンガポールに移し、東京やシンガポールで講演活動を行っている。CFP認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。著書に『夫婦で年収600万円をめざす! 二人で時代を生き抜くお金管理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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