文在寅委員長?

「米国に譲歩を迫る」文在寅政権はすっかり挙動不審者扱いされているのですね。

鈴置:北朝鮮の経済制裁破りを幇助するなど、韓国のやり口が露骨になっているからです。WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)は9月13日「North Korean Coal Slipped Into South Despite Warning From U.S.」を掲載しました。

 見出しを見れば分かりますが「北朝鮮の制裁破りの石炭輸出を韓国企業が助けていると米政府が韓国政府に警告していたのに、韓国はそれを無視した」という内容です。米政府がこの話をWSJにリークすること自体が韓国に対する警告です。

 そうそう、国務省のナウアート(Heather Nauert)報道官が文在寅大統領を「文委員長」と呼び間違える事件も発生しました。9月20日のブリーフィング(動画付き)の開始11分8秒後からです。

 ナウアート報道官は「疲れているので」と弁解しましたが、「委員長」(chairman)という肩書は社会主義国のトップに使います。「文在寅=金正恩」とのイメージが頭にこびりついているのかもしれません。

 文在寅大統領の訪米以前から、米国では韓国を「北朝鮮側」と見なす空気が広まっていた。そこにのこのこやってきて強弁・詭弁を繰り返したので炎上した構図です。

 保守系紙の朝鮮日報は「そら見たことか」とのノリで文在寅政権を批判しました。社説「外国メディア『文大統領が金正恩の首席報道官になった』」(9月28日、韓国語版)です。ブルームバーグの報道も引用しています。ポイントは以下です。

・文大統領は米朝間で北朝鮮の核廃棄を仲介する役割から、北側の立場を説明する場合もあり得る。(中略)だが、それも過ぎれば信頼を失う。その時は仲介の役割も難しくなる。

●取り消し可能な終戦宣言

微温的ですね。

鈴置:朝鮮日報も「文在寅政権は北の核武装を幇助している」とまで書く覚悟はない。そこで「仲介役だから仕方ない部分もあるが」と筆先が鈍ってしまうのです。

 でも、他の保守系紙が大統領の発言に何の批判もしないのと比べれば、必死の抵抗を続けています。

 朝鮮日報のユ・ヨンウォン軍事専門記者も9月28日に「文大統領は『北が東倉里を閉鎖すれば核ミサイルは撃てない』と言うのだが」(韓国語版)を書き「東倉里や寧辺をいくら閉鎖しても非核化には何の関係もない」と説明しました。

 朝鮮日報は9月27日にも社説で、南北朝鮮が声をそろえて主張する「終戦宣言」についても批判しています。「終戦宣言、やって見てダメならやめればいいと言うが」(韓国語版)です。

 文在寅大統領が米国でFOXのインタビューを受けました。その中で「終戦宣言を出して見て、問題が起こればやめればいい」と語りました。聯合ニュースの「Moon says N. Korean leader will keep denuclearization promise」(9月26日、英語版)から引用します。

・A declaration of end of war can be called off at any time because it is a political declaration.

 文在寅大統領はしきりに「終戦宣言は政治的な宣言に過ぎない。米韓同盟や在韓国連軍の地位には影響しない」と説明します。朝鮮日報はこの社説で「単なる政治宣言でいつでも取り消せるものなら、なぜそんなに早期の実現にこだわるのか」と突っ込んだのです。

筆先が鈍る保守系紙
米国での文在寅大統領の説明は突っ込みどころ満載だったのですね。

鈴置:ただ、朝鮮日報以外のメディアは保守系紙を含め、突っ込んでいません。

なぜでしょうか?

鈴置:理由は2つあると思います。この問題を掘り下げて行くと結局「文在寅政権が北の核武装を幇助している」と指摘せざるを得なくなる。政権との全面戦争になるのは避けられません。

 先ほど見たように、最も厳しい朝鮮日報さえも「仲介役をしている」との政府の主張に乗った上での批判に留めている。

 朝鮮日報のシニアの記者が「北朝鮮の核を民族の核として活用したいと左派は考えている」と書いたことがあります(「北朝鮮の核武装を望む韓国」参照)。

 この際も「万が一にも青瓦台(大統領府)の補佐陣までがこんな夢を見ているとすると危険である」と逃げを打った書き方をしました。

 「現政権が民族の核を望んでいる」とはっきりと指摘すれば、「どこに証拠があるのか」と言論弾圧の材料にされかねないからでしょう。

●「民族の和解」を謳歌

 もう1つの理由は、韓国人の多くが政権の宣伝に乗って「非核化よりも民族の和解が重要だ」と考え始めたからです。

 平壌市民の前での韓国大統領の演説や、南北首脳の白頭山登山――。今回の南北首脳会談では数々の和解ショーが繰り広げられました。それらを素材に韓国のテレビや左派系紙は「新たな和解の歴史が始まった」と盛り上げたのです。

 左派系紙、ハンギョレは南北の政権の意向に極めて忠実でした。社説「15万の平壌市民の前で非核化を説いた文大統領」(9月21日、日本語版)は以下のように書きだしました。

・北朝鮮訪問の最終日、文在寅大統領と金正恩・国務委員長が一緒に白頭山に登った。(中略)南北首脳が民族の精気が宿る白頭山頂に共に登ったのは、南北和解の歴史を画したものというに値する。

 世論調査会社、リアルメーターによると、9月20日の時点で71.6%の韓国人が平壌首脳会談を肯定的にとらえました。半面、否定的に見たのは22.1%に留まりました。

 そもそも韓国には「米国は大陸の一角である韓国に軍を置きたがっている。そのために我が民族を分裂させ、対立させているのだ」との発想が広まっています。

 今、「文在寅大統領は北朝鮮の使い走りだ」などと書けば、読者から「民族の和解を望まないのか」「お前こそ米国の使い走りだ」と反発を食らいかねない。

 朝鮮日報も米国メディアが「首席報道官」と書いたから、ようやくそれを引用する形で「使い走り」を指摘できた感じです。

●トランプは満足するのか

韓国を使って核武装を狙う北朝鮮に対し、米国はどう出るのでしょうか。

鈴置:トランプ政権は11月の中間選挙後に2回目の米朝首脳会談を開く方針のようです。ただ、その結果がどうなるかは予測困難です。

 トランプ大統領がどの程度の「非核化」で満足するか、誰にも分からないからです。金正恩委員長が提示するであろう実のない「非核化」で満足するのか、あるいは逆に怒り出すのか――。それはトランプ大統領自身も決めかねているのかもしれません。

 ただ1つ、はっきりしていることがあります。南北朝鮮が手を組んで「民族の核」を温存しようとしていることです。細かなファクトを観察するに、それがどんどん明確になってきました。

では、それは次回に。

(次回に続く)

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■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。

米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。

「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181003-43767997-business-int&p=3