理解に苦しむ「軽い」扱い


新聞報道に疑問を抱くことが少なくない。10月29日夜、首相官邸で行われた日印首脳会談に関する報道がそれだ。

 安倍晋三首相は同28日夜、来日したインドのモディ首相を山梨県鳴沢村の自身の別荘に招き、通訳のみを交えた夕食会を開いた。両首脳は夕食会に先立ち、県内の忍野村にある工作機械大手のファナックの工場を視察した。

 翌日の日印首脳会談について、「日本経済新聞」(30日付朝刊)は当然のことだが、1面トップで「日印、AIを共同開発―首脳会談、デジタル協力合意」と大きく報道した。同紙はモディ首相来日前の25日夕刊1面で「日印デジタル協定ーー首相来日時発表、AI共同研究」と報じ、29日朝刊では2面に「インド太平洋で連携確認ーー首相、モディ氏を別荘で歓待」と事前報道を重ねていた。

 「読売新聞」(30日付朝刊)は1面左下に「日印2プラス2新設へーー首脳合意、AI技術を共同研究」と見出しを掲げ、さらに「中国をにらみ 日印連携ーー安保協力強化へモディ氏を説得」とした上で3面(総合欄)全頁を割いた解説記事を掲載した。

 「毎日新聞」(同)も2面に「日印、安保協力確認ーー首脳会談、第三国の開発支援も」、そして4面(総合・経済欄)では「中国意識、異例の厚遇―軍拡・海洋進出へ警戒共有」とした記事を掲載している。

 不思議というか疑問を覚えたのは「朝日新聞」(同)報道である。同紙は11面(国際欄)に「日印2+2発足ーー首脳会談で一致、インド『対中包囲』は慎重」との見出しで僅か3段66行の扱いだった。筆者は信じられなかった。

 「安倍外交」を大きく扱えと言いたいのではない。26日に中国の首都北京で行われた安倍首相と習近平国家主席の日中首脳会談直後の日印首脳会談の持つ意味を考えれば、「中国にらみ 日印連携」(読売)と「中国意識、異例の厚遇」(毎日)の見出しを待ち出すまでもなく、今後の日本の外交・安保政策にとって極めて重要なトップ会談であったことが分かるはずだ。

米国務長官が「日本をパクった」とポロリ

安倍首相が繰り返し言明してきた「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、2016年8月にケニアの首都ナイロビで開催された第6回「アフリカ開発会議」(TICAD)で初めて言及されたものだった。

 一言でいえば、日米豪印を中心として太平洋からインド洋にかけての海洋安全保障やアフリカの発展を謳った外交戦略である。外交当局は公式的に否定するが、明らかに中国の習主席が打ち出した「一帯一路構想」と「海洋国家戦略」に対抗する狙いがあるのは疑いの余地がない。

 「自由で開かれたインド太平洋を介してアジアとアフリカの『連結性』を向上させ、地域全体の安定と繁栄を促進する」(外務省文書)構想については、ドナルド・トランプ米大統領が昨年11月にベトナムのダナンで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で「(この構想を)インド太平洋の夢(The Indo-Pacific dream)と名付けたい」と述べ、米国は同構想に追随したのである。

 それは、米国は5月にハワイにある米太平洋軍司令部(CINCPAC)の名称を米インド太平洋軍司令部(USINDOPAC)に変更したことからも理解できる。

 ちなみに、ティラーソン国務長官(当時)は昨年11月に来日、河野太郎外相と夕食を共にした際にこのインド太平洋戦略は日本からのパクリだったと吐露したというのである。

 この7月に刊行された『アメリカ太平洋軍の研究ーーインド・太平洋の安全保障』(千倉書房)という名著がある。土屋大洋慶應義塾大学教授が編纂したものだが、9人の編著者の中に「朝日新聞」の梶原みずほ記者がいる。筆者は、『アメリカ太平洋軍』(講談社)の著者であり、安全保障問題専門家である同記者を高く評価している。

 なぜ、「朝日新聞」は日印首脳会談を”過小評価”したのか、理解に苦しむ。日本が独自外交を展開するためには、この日米豪印による「自由で開かれたインド太平洋戦略」を一方の翼にして、そしてアジア太平洋パートナーシップ協定(TPP)を離脱した米国を除く日本、オーストラリア、シンガポール、メキシコなど11ヵ国によるTPPイレブンに英国まで巻き込むドラスティックな戦略を他方の翼とする双翼外交戦略を構築する必要がある。

 安倍首相は11~12日、オーストラリアのダーウィンでモリソン豪首相と会談。その後、次なる目的地シンガポールに向かう。同地で開かれる東アジア首脳会議に出席するためだ。14日に同地でロシアのプーチン大統領とも会談する。

 だが、帰国後の安倍首相を待ち受けるのは難題山積の内政である。臨時国会衆参両院の各党代表質問に対してそのほとんどが準備書面の棒読みだった安倍首相だが、10月30日の唯一事前通告にない野田佳彦前首相(無所属の会)の質問には色をなして反論した。内政には不安を覚える。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181103-00058291-gendaibiz-int&p=1