朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍官(将校)と言えば、誰もが羨む北朝鮮社会のエリートだった。社会的地位が高いことはもちろんのこと、国から手厚い配給を受け取り、家族ともども何不自由なく暮らしていた。

それも今は昔の話だ。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、軍官やその家族の暮らしが苦しくなる一方だと伝えてきた。

この情報筋は、軍のある作戦参謀から「家を買わないか」という話を持ちかけられた。階級は明らかにされていないが、それなりの地位にある軍人だろう。訪ねてみると家は「情けない」ほどの状態だったという。つまり、かなりのボロ家だったということだ。それだけではない。次から次へと貧乏話を聞かされたようだ。

「家を売ったカネは当面の生活費に回す。(党創建70周年を迎えた)10月10日は、食べるコメがなくて朝食抜きだった。私は部隊の食堂で食事にありつけるが、夫人と3人の子どもはまともな食事を取れなかった。燃料は自力で調達するしかないが、石炭を買うカネがないため、山に入って落ち葉を拾っている」

かつては羽振りがよかったという軍官の困窮ぶりに、情報筋はショックを受けたという。軍官の家族が生活苦に喘いでいるのは「収入源」がないからだ。

「政治部の軍官は(朝鮮労働党への)入党や昇進と引き換えにワイロを受け取り、生活を維持している。後方部隊の軍官は軍糧米を盗んでいる。そうした『利権』のない参謀部の軍官の生活がひどい有様だ」(情報筋)

北朝鮮の一般的な国営工場、企業所、国の機関が払う給料は、コメ1キロ分に満たないほどの額だ。それは軍官も同じだ。それでは暮らしていけないため、権限や許認可権を振りかざし、ワイロを受け取ることで生活を成り立たせている。

中には、部下の女性兵士に「マダラス」や「書類整理」などと呼ばれる性上納行為を迫る横暴な上官もいる。

しかし、戦闘指揮官たる参謀部の軍官はワイロをせびるネタを持たないため、軍からの配給に頼らざるを得ず、生活が苦しくなるのだ。

官僚のような権限を持たない民間人は、市場での商売から得る収入で生活を成り立たせている。軍官の家族も同じように努力してはいるが、軍人の勤め先は人里離れた山奥にある場合が多い。村の市場に行って商売したところで人口が少ないため、大した収入にはならないのだ。

住宅が割り当てられないため、部隊から離れた民家を借りて暮らさざるを得ず、非常招集がかかっても出動しなかったり遅刻したりという有様だ。

末端の兵士の暮らしはさらに劣悪だ。軍隊において重罪の一つである「脱走」に対して、軍当局は以前ほど強く取り締まらないようになっている。

例えば、脱走の理由が何か大きな問題を起こしたからというものではなく、栄養失調やそこから派生する皮膚病の治療などとわかれば、生活除隊、つまり軍隊生活に問題があったという理由での除隊を認めるケースもあるという。健康状態に問題が生じれば上官が責任を問われかねないので、事なかれ主義から除隊を認めるというのだ。

参謀部の軍官は、いざ戦争となれば軍事活動の中心となる人材であり、本当なら「花形」として待遇されても良いはずだ。そんな彼らが困窮へと追いやられているところに、北朝鮮の本当の姿が現れていると言えるかもしれない。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20181113-00103996/