“ナッツ姫”ことチョ・ヒョナ氏。“水かけ姫”ことチョ・ヒョンミン氏。
財閥一族のパワハラが問題化している韓国で、また新たな疑惑が浮上している。


 元運転手:
 シートベルトしておとなしく座って…。

 ミニナッツ姫:
 やだ!そのひどい顔、クズみたいな顔、マジ見たくない!
 おい!何笑ってるのお前。今バカにしてんの!?

誰かを罵倒する、甲高い声。さらに声は続く。

 ミニナッツ姫:
 おじさん、クビにするわよ。
 私は1位になる人よ?
 死んだほうがいいよ、おじさんは。

10歳の少女が“ミニナッツ姫”と呼ばれる所以

この声の主は、まだ10歳の少女だ。
そしてその少女は今、韓国でこう呼ばれているという。

“ミニナッツ姫”

わすか10歳の少女が、“ミニナッツ姫”と呼ばれる理由は、彼女の家族が、韓国メディア業界に君臨する一族だからだ。

祖父は『朝鮮日報』の社長。この『朝鮮日報』は、韓国で最も歴史が長い新聞社で、発行部数は韓国最大だ。

そして父親は、2011年に朝鮮日報が設立したTV朝鮮代表だ。このTV朝鮮は、韓国の前大統領朴槿恵被告の親友で、国政介入や財団を巡る不正疑惑と“パワハラ”で話題となったチェ・スンシル被告の事件を、どこよりも早く報道した局でもある。

暴言を放った少女は、韓国メディアに君臨する“パン一家”の孫娘なのだ。

冒頭の発言は、そんな少女が、塾への送り迎えなどをする50代の男性運転手に向けて発したものだ。11月23日、この音声データが公開されると韓国国内で非難の声が続出し、娘の父親が『テレビ朝鮮』の代表を辞任する事態にまで発展した。

『とくダネ!』は、数日間にわたり録音された、合計37分間に及ぶ音声ファイルを入手した。

「おじさん、おじさん、おじさん、おじさん…」
 ミニナッツ姫:
 他の車は早く走っているのに、どうしておじさんはこんなに遅いの。
 おじさん、おじさん。
 なんで返事しないの、おじさん。
 おじさん、おじさん、おじさん、おじさん、おじさん、おじさん、おじさん、おじさん、おじさん!
 おじさん!(何かを蹴るような音)おじさん!おじさん!
 なんで返事しないの?おじさん。

壊れたスピーカーのように「おじさん」と連呼し続け、物にイライラをぶつけ、声のボリュームは段々と上がっていき、最後には金切り声で「おじさん!」と叫ぶミニナッツ姫。
苛立ちをさらに募らせたようで…。

 ミニナッツ姫:
 おじさんって英語も知らないのに、なんで私たちと交わるの?
 おじさん笑ってる?笑える暇あるの?バカ!
 口臭い!歯は何でそんなにデコボコになってるの?

 元運転手:
 座りなさい、けがするから。シートベルトして。

 ミニナッツ姫:
 歯は何でこんなにデコボコしてるの? あーーーきもい。
 「あーーー」とか「いーーー」とか言ってみないさいよ。
 なぜ「いーーー」できないの?

40以上も年の離れた運転手の容姿を執拗に責め立てる孫娘。そして罵詈雑言の矛先は、運転手の家族にまで向く。

 ミニナッツ姫:
 頭1回叩きたいな、おじさん。
 ここでマジおじさんに叫びたいな。
 おじさんの奥さんにも問題あるでしょ。子供にも問題あるでしょ。
 何よりも問題なのは、お前の親。親の教育がダメで問題があったのよ。

韓国では、頭を叩くという行為はタブーだ。さらに、両親や祖先への暴言は最大限の侮辱とされている。
別の日には「死んでほしい」との言葉まで発せられる。

 ミニナッツ姫:
 私は誰にも負けないわよ。私はトップになる人間だよ。
 死んだ方がいいよ、おじさんは。この世にいてほしくない。
 おじさんには死んでほしいよ!
 叱ってみなよ!叱ってみなよ!!叱ってみなよ!!!
 「うん」とちょっと返事してみてよ。

 元運転手:
 はい。

 ミニナッツ姫:
 まったく…。「はい」しか言えないのか!!!
 おじさん、耳にうんと音(弾いて)鳴らしてあげようか!?
 うん、そうするとしっかりできるの。
 私はおじさんよりかなり幼いのに。
 「うん」といえないの!!!?
 なんで「はい」と言うの!!!?私のほうが歳下なのに!!!
 ずーーーとやらせようか!!?
 うん!うん!

 ミニナッツ姫:
 私今日お母さんに言うわよ!

 元運転手
 はい?

 ミニナッツ姫:
 言うわよ。

 元運転手:
 好きにして、言いたきゃ言えばいい。

 ミニナッツ姫:
 おじさんクビにするわよ!

運転手は、その後本当に解雇された。

韓国メディアに君臨する祖父と父の威光をかさに着たかのような、このパワハラ暴言。これが“ナッツ姫”や“水かけ姫”に続く、“ミニナッツ姫”として、韓国で大きく報道され、波紋を広げている。

元運転手の男性が語った胸の内
「本当につらかったです。それを考えるだけでも涙が出たり、眠れなかったり悪夢も見ました」

『とくダネ!』のカメラに、そう胸の内を語った元運転手の男性。

元運転手の男性は、韓国の他の大企業の取締役などの運転手を務めていたが、今年7月面接を受け、“パン一家”に採用されたという。

しかし運転手として働き始めると悲惨な日々が待ち受けていた。
“ミニナッツ姫”は助手席に座り、頭を叩いたり、耳元で大声で叫んだり、元運転手の男性が握るハンドルをいきなり切るなどの危険行為までしてきたという。
さらにパワハラは、暴言だけではなかったそうだ。

「一番精神的に重かったのは、市場で買い物してこいと言いながらお金をくれなかったり」と語るように、買い物の際に料金を立て替えさせられたにもかかわらず、返金はされなかったというのだ。

最後に、孫娘に言いたいことを尋ねると、「子供はまだ小さいし、特にこれと言ったことはなく、ただ忘れたいです」と答えてくれた。

10歳の少女の暴言が、50代の男性に大きな心の傷を残していた。

ブーメランのような“社説”
ここ数年パワハラが大きな問題となっている韓国だが、ミニナッツ姫の祖父が社長を務める『朝鮮日報』では、2016年4月9日付けの社説『人間として基本がなっていない財閥2世・3世』で以下のように書いている。

 (財閥2世、3世は)幼いころから、かしずかれることに慣れ、他人の感情を傷つける言行を自制するエチケットすら会得できていないケースが多い。
 社員が貴いとも、他人に配慮すべきとも思わない人間が、どうして巨大組織を率いて数多くの消費者の共感を引き出すことができるだろうか。

財閥2世3世が起こしたパワハラ事件を断じていた朝鮮日報だが、実は今回の事件を報じていない。

一方、実父が代表のTV朝鮮では、父が「運転手の心に傷を負わせてしまったことに改めて謝罪する。娘をきちんと教育できていない私を叱っていただきたい」と謝罪し、辞任を表明した。

韓国でこれまで話題となったパワハラ事件では、パワハラを起こした本人が役員などを務めていたため、本人の辞任はあり得ることだったが、今回は娘が起こした事件で父親が会社を辞任している。この辞任の背景について、龍谷大学の李相哲教授は2点指摘する。

1つ目は、韓国では“持つ者”と“持たざる者”の対立がエスカレートしているため、それを懸念したこと。そして2つ目は、文政権を批判する論調のTV朝鮮は、政府の再承認審査(数年に一度行われる、テレビ局としての信頼度やバランスが取れた報道かをチェックする審査で、これに通らないと停波処分となる)で厳しい立場に置かれていること。

その2点を鑑みて、先手を打つ形で辞任を決断したと考えられるという。

韓国で、またも起きたパワハラ騒動。いったいいつまで繰り返されるのだろうか。