メールにチャットツール、オンライン会議など職場でもデジタル化が進みコミュニケーションも多様化する一方、職場での「孤独」が新たな課題になっている。

4人に1人がメンタル不調を経験しているとされる(労働制政策研究・研修機構調べ)背景として、職場で感じる孤独が注目されているからだ。

だが、一言で孤独と言っても、ストレスになる孤立もあれば、快適な一人の環境もある。孤独マネジメントとして、ユニークな取り組みを進める企業も出てきている。

オフィスビルの個室トイレでランチ?
「トイレのゴミ箱に、お弁当の空き箱やランチのゴミがやたらあるのが気になって。ビルの管理会社に聞くと、やはりトイレでお昼を食べる人がいるそうです」

東京・丸の内の大手企業が入るオフィスビルで働いていた、IT企業勤務の30代の女性は、そう明かした。洗練された都心のビルでさっそうと働いているような人たちが、わざわざトイレの個室で食事をするのはなぜか。

「みんなが社食に向かう中で、ひとりでお昼ご飯を食べる姿を見られるのが、嫌なのでは」(前出のIT企業勤務の女性)。

かつて大学生が、ひとりでご飯を食べる「ぼっち飯」に恐怖を覚えるあまり、大学のトイレで「便所飯」をする現象が話題になった。同様に、オフィスでもぼっち飯を恐れて、トイレの個室でお昼ご飯を食べる会社員が、一定量いるようだ。

デジタル化が進む世の中で、コミュニケーションのあり方も多様化しているのに、オフィスで孤独を感じる人は、少なくないのかもしれない。

しかし、孤独はパフォーマンスを低下させることがさまざまな調査で明らかになっており、イギリスでは孤独担当大臣が2018年1月に新設されたほどだ。

それでは、職場の孤独と、どう向き合えばいいのか。

エンジニアの孤独を癒やすのは
「ご注文は何にされますか。コーヒーですね少々、お待ち下さい」

東京・日比谷にオフィスを構えるIT企業、ブロードバンドタワーのオフィスエリアには、社内外の人が利用できるカフェスペースが併設されている。背の高い男性が、エプロン姿で接客をしている。

このカフェで働くのは、エンジニアや人事部門などブロードバンドタワーの社員。ローテーションを組んで、本業のかたわら月に2~3回のペースでシフトに入っている。

その目的は、黙々と一人で取り組む作業の多いエンジニアを中心とする社員に、カフェの“店員”をしながら、他の社員などと交流の機会を持ってもらうことだという。

「エンジニアが6割の会社ですから、どうしても一人で画面に向かっている時間の長い社員が多い。社内外とのコミュニケーションの場が必要なのではないかと考えたのです」

そう話すのは、人事総務統括の取締役、及川茂さんだ。休日の確保、労働時間をみても「働きやすい環境は整っている方だと思う」が、どうしても年間で数人はメンタル不調者が出てしまう。

社内カフェの運営を社員同士で
本人が休職に追い込まれる前に、なんとか改善できないかと頭をひねった結果が「職種も上下関係もない、コミュニケーションの場としてのカフェ運営」だったという。

誰とも話さないなど、「孤独」な状態が続きがちな環境を変えようという取り組みだ。

会社が移転したのをきっかけに、2017年12月からオフィススペースにカフェを導入。その運営を社員で担うと決めた。

働く人は公募をして、上司さえOKならばシフトに入ることができる。メンタル不調で休職した人が会社に復職するときのステップとしても、利用されている。

「評判はすごくいいです。会社が楽しくなったという人が多く、いろんな人と圧力なく会話ができるのでリラックスして仕事ができると。周囲からも顔つきが変わった、元気になったとの声が上がっています」

人事総務グループディレクター、武宮博子さんは、カフェでの仕事が社員にもたらす「変化」に手応えを感じたという。

現状、社内でメンタル不調による休職者はゼロ。コミュニケーションの機会をつくるという、孤独や孤立のマネジメントは一定の効果を生んでいるようだ。

ちょっといいですか?で中断される集中時間
一方、積極的に孤独を取り入れる動きもある。

「孤独はネガティブにとられることが多いですが、自分の心と向き合うことで集中力が高まる、攻めの孤独もあると思うんです」

そう話すのは、アイウェアブランドのジンズのJINS MEME(ジンズミーム)事業統括リーダー、井上一鷹さんだ。

ジンズは「世界一集中できる環境」をコンセプトとした、会員制のワークスペース「Think Lab(シンクラボ)」を2017年12月、本社のある東京・飯田橋の高層ビルにオープン。

シンクラボは、予防医学研究者の石川善樹さんの監修のもと、科学的根拠に基づく「超集中環境」を実現したことで話題を呼んだ。そして「超集中環境」に欠かせないのが、井上さんが言うところの「攻めの孤独」だというのだ。

「人間は自分がしたいことには集中できます。自分が何をしたいのか言語化できていないと、集中できない。自分の心を知るためには、一人の時間が必要なんです」

ジンズの調べによると、一般的なオフィス環境では、人は集中できていないことが明らかになったという。

特殊なセンサーをメガネに搭載したジンズミームを着用して集中度を測ったところ、オフィスにいる人が多い午前9時~午後8時の時間帯で、集中力は低迷していた。

「人は集中環境に入るまでに23分かかると言われているのですが、その23分に到達する前にオフィスでは『ちょっと、いいですか?』と話しかけられてしまう。これでは、集中はできない。あえて自分と向き合える時間を作り出す、攻めの孤独を実現しました」

飯田橋のシンクラボを訪ねると、「攻めの孤独」を、肌身で感じられるかもしれない。

「攻めの孤独」のあるオフィス環境とは。ジンズのシンクラボをのぞいてみよう。
シンクラボの世界観は、高野山に合宿してイメージを得たという。ワークスペースまでの参道のような通路。

“参道”を経てワークスペースに入ると、視界が開け、東京の街を見渡す開放的なゾーンへ。「よし、やるぞ!」と気持ちを上げる。
オフィスの中で目に入る緑の割合も、もっともリラックス効果の高いとされる10~15%に合わせている。

デスクとチェアの高さは、目的に応じて3種類から選べる。下を向く姿勢になるチェアは、内向的になり細かい作業向き、上向きになるチェアならクリエイティブ思考向きという。

心が落ち着く畳の空間も。座禅を組むなど自分と向き合うことで、集中を高めることができる。

静寂に包まれていたワークスペースからは一転、カフェスペースでは交流が楽しめる。「集中状態を生み出す、攻めの孤独があるからこそ、人と交流する時間が濃密になる。それが仲間の良さを引き出すのではないでしょうか」と話す、井上さん。攻めの孤独がチームづくりにも役立つという視点だ。

今の時代にここまでして集中環境が必要な理由は、明白だという。

急激な変化を迎える時代環境の中、独創的なアイデアやイノベーションが求められている。「新しいものを生み出すには孤独な時間が必要」(井上さん)と、考えるからだ。

コミュニケーションをとれずに孤立するような「受け身の孤独」もあれば、集中環境を求める「攻めの孤独」もある。いずれも正面から孤独と向き合った上で、会社も個人も環境を選択できれば、孤独も怖くはないのかもしれない。あなたの職場はどうだろう?

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