■ 日韓「慰安婦問題」合意反故に戸惑う米政府と議会

 昨今の日韓のごたごたについては一部の米メディアが断片的に報じている。

米国にとってはともに同盟国の日韓がいがみ合っていることに、米政府も議会も苦虫を噛み潰したような印象を受ける。 

 米国は「いわゆる慰安婦問題は日韓関係をよい関係にするうえでの最大の障害になっていたが、2015年安倍晋三首相と朴槿恵大統領との合意(首相による謝罪と日本政府による慰安婦財団への10億円=約830万ドルへの拠出)により『最終的かつ不可逆的に解決した』」(2018年10月19日公表の米議会調査局報告)と理解している。

 (https://www.everycrsreport.com/reports/RL33436.html)

 日韓合意については当時のジョン・ケリー国務長官は「日韓がこの問題を最終的かつ不可逆的に解決することを明確したことを歓迎する」との談話を出している。

 同報告書はいわば米上下両院議員の「虎の巻」。立法活動のための参考情報として議員向けに提供されている。

 米連邦議員たちはそう理解していた矢先に文在寅大統領が一方的にこれを反故にすると言い出したのだから皆驚くわけだ。

■ 「日韓のいがみあい」を知る米国民は1割未満

 日韓のごたごたを米国の一般大衆はどう見ているのか。実はごたごたを知っている米国民は1割にも満たないのではないだろうか。

 つまり知っているのは東アジア問題を扱っている官僚、学者、ジャーナリストや国際問題オタクの知識人ぐらいなものだろう。

 その最大の理由は、日本のように同時刻に犯罪から政治外交に至るまで広く浅くまんべんなく報道する「国民に強力な影響力を与えるNHK」の「7時のニュース」のような番組が米国にはないからだ。

 『ニューヨーク・タイムズ』のように全世界に特派員を置き、くまなく国際報道を続ける新聞は別として、視聴率を狙うニュース専門ケーブルテレビのフォックス・ニュースやCNNですらぎくしゃくした日韓関係を報じてはいない。

 そうした中で、米国民が日本(日本人)や韓国(韓国人)にどのようなイメージを抱いているのか。あるいは中国(中国人)についてどんなイメージを抱いているのか。

 今回は、韓国(韓国人)について絞って取材してみた。

総論的にズバリ表現すれば、「米国の一般大衆は韓国(韓国人)に対してはっきりとしたイメージなど何も抱いていない」と言える。

 つまり韓国について米国の一般大衆は知らないのだ。

 「自分の住んでいる町で見かけるコリアン・アメリカン(韓国系米国人)の言動で韓国を知るくらいで、韓国についてどうかと言われてもイメージが湧いてこない」(ワシントン近郊にすむ中年の白人主婦)

 その前提で、米一般大衆の対韓国観は、まさに「十人十色」。

 全く韓国人などには関心がないという極端な「無知派」から世代別、人種別、地域別、韓国(韓国人)との接触体験の有無などによって大きく異なるのだ。

■ 朝鮮戦争世代には「韓国を守った」という強い自負心

 世代別では、朝鮮戦争に参戦した元米兵生き残りや戦死者家族には特別な対韓国観がある。

 他の世代の米国市民とは異なるイメージがある。ポジティブなイメージはあまりなさそうだ。

 「朝鮮戦争という米国人にとっては『外国の戦争』。その戦争で米兵3万3652人が犠牲になった。その記憶は消そうと思っても消えない。韓国人のために戦ってこれだけの若者が犠牲になったのだ」(ロサンゼルス在住の朝鮮戦争に参戦した在郷軍人)

 むろん共産主義勢力から韓国を守ったという自負心はあるが、それがポジティブな対韓観にはなってはいない。

■ 「江南スタイル」もBTSも対韓認識定着には役立たず

 ミレニアム世代の米国人はネット世代だ。2012年にユーチューブに登場した韓国の音楽ビデオ「PSY」の「江南スタイル」に度肝を抜かれた。

 次世代は今最高潮のBTS(防弾少年団)にしびれている。歌い踊っているのは韓国の韓国人とは分かっていてもそれで韓国や韓国人に対するイメージが定着しているわけではない。

 ハワイ出身の日系社会学者でキリスト教牧師のディクソン・ヤギ博士はこう分析している。

「今から56年前に坂本九の歌った『スキヤキ・ソング』が米国内で大ヒットしたことがある」

 「この歌が米国民に日本に対するフィックスド・イメージ(明確なイメージ)を確立させるのに役立ったかどうか。はなはだ疑問だ」

 「K-Popにも同じようなことが言える。ポップカルチャーは出たかと思うと、すぐ消えていく泡のようなものだ。どこまでも一過性だ」

 「国民が特定の外国に対する安定したイメージを作り上げるには何年も場合によっては何百年もかかる」

 「いわゆる欧米と中国は何千年も前から、日本とも何十年も前から築き上げてきた歴史に基づくイメージが出来上がっている」

 「中国で言えば、マルコポーロの頃から。日本ならペリー提督の時代からのつき合いがある。韓国にはそうした歴史上の積み重ねが皆無だ。あるとすれば、朝鮮戦争しかない」

■ 「韓国・北朝鮮」の区別すらできない学生も

 南部、中西部に行くと、韓国という国がどこにあるかも知らない人がいる。

 中西部の大学で教鞭に立っているある韓国人教授(米韓の最高学府を出て、米大学で経済経営学を教えている)は、筆者にこう語っている。

 「まず驚いたのは朝鮮半島がどこにあるのか、知らない学生がいたこと。また韓国と北朝鮮の区別がつかない学生もいた」

 「地方紙やテレビは米朝首脳会談について報じていたが、ある学生は金正恩を韓国の大統領だと思っていた」

 何事につけて朝鮮半島の動向を事細かにメディアが報じ、それをよく知っている日本人では考えられないことだ。まさに嘘のような本当の話なのである。

■ 黒人には「韓国人=ロサンゼルス暴動」の根強い記憶

 50代の黒人の新聞記者に対韓国人観を聞いてみた。咄嗟に口をついて出たのは「ロサンゼルス暴動」だった。

 「ロサンゼルス暴動は黒人の中高年層にとって絶対に忘れられない事件だ。暴動の際に黒人の少女が射殺された。撃ったのは白人警官ではなく、韓国移民の男だったんだ」

 「もともと韓国人が黒人を蔑んでいるのは分かっていた。しかし自衛だといって無防備の少女を射殺したんだ」

 「黒人にとって韓国人は他のアジア人とは別個の存在になっている」

 事件は、1992年4月末から5月にかけてロサンゼルスの低所得者層が住んでいるサウスセントラル地区で起こった暴動だった。

 きっかけは、この地区に住むロドニー・キングという黒人が数人の白人警官に暴行を受けたのに抗議した黒人が一斉に暴れ出し、車や商店に火をつけ、略奪を繰り返した。

 最も被害を受けたのが、同地区に点在する韓国人経営の食料品兼酒類商店などだった。

 暴動に抵抗しようとした韓国人商店主の雇ったガードたちが銃で「自衛」し、ちょうど商店に入ってきた11歳の黒人の少女を射殺した。

 これに怒った黒人はさらに暴徒化。逮捕者は1万人に上った。

 このガードたちはベトナム帰り。韓国軍の兵士としてベトナム戦争に参戦し、米軍の助っ人をやってくれた「ご褒美」に米市民権をもらった連中だった。

 米メディアは屋根の上から銃を構える韓国人の男たちの写真を載せて報道し、「戦うコリアン」は全米に知れ渡った。

これに黒人は激しく反発した。黒人の憤りは今も後遺症として残っている。

 2015年4月にはメリーランド州ボルチモアで黒人暴動が起こり、100軒近い韓国系経営の食料品店や酒類店が襲われる事件が起こっている。

■ なぜ韓国人は低所得者層地域にいたのか

 黒人が住む低所得者層の居住地になぜコリアンがいるのか? 

 治安の悪いことから大手スーパーはこうした地域には近寄らない。したがって住民に欠かせない日常品や食料品を売るのはいわゆる「Ma-and-pa store」(夫婦経営の店)。

 「新参者の韓国人移民たちは、ある程度の危険を承知でこうした食料品店を買い、事業を営んでいた」

 「食料品だけでなく、(黒人女性にとっては必需品の)かつらを扱う店にも食指を伸ばしている」

 「ただし、韓国人店主は犯罪発生率の多いその地域には住まない。住居はかなり離れた韓国人密集地域にあり、店には通勤していた」(韓国系メディア編集者)

■ 韓国系2世がロサンゼルス暴動を扱った映画を制作

 2017年夏、このロサンゼルス暴動をテーマにした韓国系2世による映画が公開され、サンダンス国際映画祭などで賞を獲得している。

 制作・演出・主演はジャスティン・チョン氏(37)。タイトルは「Gook」(韓国人を蔑んだ差別語)だ。

 (https://www.theguardian.com/film/2018/mar/15/gook-review-justin-chon-la-riots)

 1992年のロサンゼルス暴動の背後に横たわるマイノリティ(少数民族)の社会をビビッドに描いた作品だ。

 なぜ暴動が起こったのか。韓国人はなぜ銃を取ったのか。黒人の少女はなぜ殺されたのか。これらを客観的に見つめている。

 この映画についてハリウッドを拠点に映画評論をしているジャック・マイルズ氏はこうコメントしている。

「ロサンゼルス暴動後も韓国人は少女殺害を正当化してきた。ところがチョン氏は韓国人に殺された黒人の少女と韓国人の若者とが接触があり、親しく話をする間柄だったという設定でドラマを作っている。実はそれが自分自身だったのだ」

 「どちらかというと、コリアン・アメリカンというのは自己主張が強い移民とされていただけに、他の人種との融和的なアプローチをしていることに『あれっ!』といった感じだった。それが新鮮だった」

■ 好意的な対韓国観を書いたブログを巡る論争

 どんな質問にも答えるサイトがある。それを見た人が回答するサイトだ。

 筆者は試みに「米国人は韓国人についてどう思っているか」と質問してみた。

 真っ先に発信してきたのは、韓国在住のクリスチャン・スタンコ氏だった(名前からするとルーマニア系のようだ)。

 「私は米国人でも韓国人でもない。韓国は発展を続けており、多くの製品を作って外国に輸出している」

 「PSY人気は去ったが、韓国には数万人の米国人英語教師がいるし、米国に移住した韓国人の多くはビジネスなどで成功している。韓国人は米国に好かれており、ますます成功するだろう」

 その直後、スタンコ氏に対する反論が出た。

 「外交辞令としては結構だが、米国人の中には韓国の現代(ヒュンダイ)の自動車は日本製だと思っている人やLGは米国企業だと信じているものがたくさんいることもお忘れなく」

 「米国人やカナダ人の韓国に対する認識は、韓国人が(アフリカの)マリに対する認識の程度と同じだろうと思う」

 「韓国と北朝鮮の区別すらつかない米国人が沢山いる。米国人にとっては、タイやネパール、ブータンについて知っておかねばならない以上に韓国について知っておかねばならないなどという理由はどこにもない」

 「韓国大好きという米国人の多くはエバンジェリカルズ(キリスト教原理主義者)ぐらいなものだ。韓国のキリスト教人口は他のアジア諸国に比べ目立って多いからだ」(ソウル在住のゴード・セラーズ氏)

■ 韓国プレゼンス急増、でも対韓認識は深まらず
前述のサイトに対する米国人のコメントの中には韓国のドラマやK-Popをネット上で見ているという若者からのものもいくつかあった。

 その理由は、特に韓国人がやっているとか、韓国について知りたいからだというのではないようだった。

 「ドラマのストーリーが面白いし、訳された英語がこなれていて分かりやすい」というものが目立った。

 「面白くて奇抜なものならどこの国のものだろうと飛びつくのが米国流」なのだろう。

 ここ10年、確かにK-Popや現代自動車は米社会に進出している。韓国系米国人や永住権を持っているコリアンが多く住み着いている西部や東部には、町のあちこちに韓国料理店がある。

 だが韓国料理は、中国料理や日本料理のようにメーンストリート(主流)を闊歩しているわけではない。

 最近韓国人経営の寿司屋が増えている。これらの店のメニューには小さく韓国料理が載せてある。

 確かに韓国人の存在感が増していることは間違いない。

 だがそのことが米国一般庶民の韓国イメージを大きく変えているふうには見えない。対韓国人認識を一気に深めているというわけでもない。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181128-00054770-jbpressz-kr&p=6