日産自動車がアメリカで販売するSUV「インフィニティQX50」には、世界初となる「可変圧縮比ターボ・エンジン」(VCターボ・エンジン=Variable Compression Turbo Engine)が搭載される。今回、これを日本の公道で試す機会を得たので早速リポートしていこう。

■燃費もパフォーマンスにも優れるエンジンの実現

日産が可変圧縮比エンジンの開発を始めたのは1998年のこと。実に20年もの時を経て開発してきたわけだ。

エンジンの圧縮比は基本的に固定されている。ピストンの上死点と下死点で決まるシリンダーの容積は当然不変のもの。しかし日産はこの容積を自在に変えることで圧縮比を可変させる技術を実現した。

目的は燃費とパフォーマンスという、相反する要件を両立して将来にふさわしい内燃機関とするためだ。

エンジンの熱効率向上を求めて圧縮比を上げると、燃費はよくなるがパフォーマンスは低下する。逆に圧縮比を下げると、パフォーマンスは向上するが燃費は低下するし、当然熱効率も下がってしまう。そんな相反する要件を両立する……つまり、燃費もパフォーマンスにも優れるエンジンを実現したのが今回の可変圧縮比技術というわけだ。

可変圧縮比エンジンは、通常のエンジンとは違って、ピストン>コネクティングロッド(コンロッド)>クランクシャフトという関係ではなく、ピストン>コンロッド>Lリンク>Cリンク>コントロールシャフトという構成になっている。

そしてこのコントロールシャフトをVCRアクチュエーターが動かすことによって、ピストンの上死点の位置が変わり、ピストンのストローク量が変わり、これによってシリンダーの容積が変わる仕組みだ。

そしてシリンダーの容積が変わるということは、圧縮比が変わるわけだ。「KR20DDET」の型名でQX50に積まれている可変圧縮比ターボ・エンジンは、実際に圧縮比は8から14までの間で変化する。そして排気量も変化するわけで、実際に1970cc(圧縮比14の時)から1997cc(圧縮比8の時)の間で増減する。

つまり圧縮比が14の1970ccエンジンから、圧縮比が8の1997ccエンジンまでの性能が1つのエンジンで賄われる。しかもこのエンジンは過給器を積んだターボ・エンジンでもあるから状況に応じてターボの力を借りているため、イメージとしては1970ccの高圧縮なNAエンジンから、1997ccの低圧縮ターボ・エンジンまでが1台のクルマの中にある感じといえるだろう。

ちなみに圧縮比14のNAエンジンは、プリウスなどに搭載されるような高効率エンジンと考えればよく、圧縮比8のターボ・エンジンは280ps程度を発する2.0Lターボと考えればいいだろう。

そんなふうに、まるで違うキャラクターが1台のエンジンの中にあって、これをアクセル開度などの状況の変化によって使い分けているのが今回の可変圧縮ターボだ。

実際にそのスペックは、最高出力272馬力、最大トルク390Nmで、典型的な2.0Lターボのパフォーマンス志向のエンジンと同じような数値となっている。

■いったいどんな走りを見せるのか

では、この可変圧縮比ターボ・エンジンを搭載したQX50はいったいどんな走りを見せるのだろうか?

今回試乗したQX50はインフィニティブランドだが、先代モデルはスカイライン・クロスオーバーの名前で日本でも発売されていた経緯を持つ。つまりミドルサイズのSUVだ。

実際に走り出してみると、フィーリングとしてはごくごく普通のエンジンといった印象だ。可変圧縮だからといって、何か特別な感覚があるわけではない。

もっともこのQX50が、車両重量にして1.9トンに達するヘビー級のSUVであることを考えると、2.0Lのターボ・エンジンでよくぞこれだけ走るものだとすら思う。

とはいえ、さすがに発進時など低回転域でのトルクがいわゆる2.0Lのターボよりわずかに薄く感じるのは、低圧縮にしてターボを効かせると燃費が……というような制御が働くからだろうか。そう考えると車速やアクセルの開度などから頻繁に状況を切り替えられるがゆえの悩ましさが制御にも出ているように感じられる。もっともそうした低回転でのトルクの細さは、CVTがうまく仕事をしてカバーしてくれているので、感度が高くなければ気づかない場合も多いが。

■エンジンの回転感がとても滑らか

アクセルを踏み込んでいくと、回転が高まると同時に2.0Lターボらしい力強さが生まれ、1.9トンのSUVが軽快に感じるだけの加速がもたらされる。この時に特徴的なのは、エンジンの回転感がとても滑らかなことで、これは可変圧縮機構によってピストンがスムーズに動くがゆえの効果だろう。ただしこの時のエンジン・サウンドはとても独特なもので、「ビーン」という高周波な響きを伴ったものとなる。
自動車専用道などで巡航するようなシーンでは、高圧縮のエンジンのキャラクターが顔を出し燃費を削減するのに貢献する。そのようなシーンでアクセルを踏み込む際には、その量で反応が違う。深く踏み込めば低圧縮のパワフルなターボが顔を出し力強く加速し、浅く踏み込めば高圧縮の低燃費エンジンが顔を出し穏やかに加速する。そしてこうした状況に応じた制御が頻繁になされているさまが、メーター内のインジケーターに表示される。

もっとも、こうした仕組みを知ってしまうと、なるべく踏み込みたくなくなるのが人の心理で、むしろパワフルさを享受しようとすると、通常の低圧縮ターボ・エンジン以上に、踏み込むのをためらってしまう。なぜなら踏み込めば、高圧縮側で得た取り分が相殺あるいはマイナスにさえなってしまうのでは、と思えるからだ。もっとも固定の低圧縮ターボならばそもそも取り分もないわけで比べるべくもないのだが、差し引きができるとなると余計なことを考えてしまうのは、人の悲しい性かもしれない。

日産はこの2.0Lの可変圧縮ターボをこのQX50においては、これまでの3.5LのV6NA(自然吸気)エンジンと同等という置き換えを行っている。確かにV6NAなみのパワー&トルクながら、排気量は小さく燃費にも優れており、V6比では約27%燃費も向上している。

実際にどのくらいの燃費なのかといえば、アメリカの数値を日本的な表現に直すとガソリン1リットルあたり13キロメートル(13km/L)ということである。2.0Lターボエンジンの数値とすれば「一瞬それって普通じゃない?」と思う人も多いだろう。実際に筆者もそんなふうに思った。

しかしながら、このQX50が1.9tのSUVと考えると、なかなかに優れた数値だということに気がつく。残念なのは、なかなかに優れた数値とは思うものの、革命的なものではないし、驚愕するほどの数値でもないのが実際だということ。この辺りは悩ましいところである。

そうした悩ましさをカバーしてくれたのはQX50というクルマそのものが魅力的な仕上がりを見せていたからでもある。1.9tのSUVながらもフットワークは実に軽快で、気持ちよくワインディングを駆け抜けるハンドリングを見せてくれた。また同時に可変圧縮ターボは、細かなところでは気になる点がいくつかあったものの、それ以外のシーンではこのQX50の車格にふさわしいトルク感と豊かさを感じさせた。そう考えると、夢の機構といわれた可変圧縮比エンジンがすでに販売されているということには改めて驚くのである。

■e-POWER用として、より優れた効率を発揮する

またこのエンジンの開発を手がけた木賀新一氏によれば、搭載車両や組み合わせるトランスミッションとのさらに密な開発によって、このエンジンはより優れたものへと進化していく可能性を秘めているという。加えて最近の日産ではむしろ、いわゆる内燃機関よりもメジャーとなりつつあるハイブリッドシステムの「e-POWER」があるが、この可変圧縮比エンジンはe-POWER用として使うことで、より優れた効率を発揮するのだという。

その意味では、内燃機関はまだまだ伸び代を持っていると感じるし、今後の進化にも期待がかかるのである。

いやむしろ、カルロス・ゴーン前会長の逮捕という大事件に揺れている日産の今の状況だからこそ、プロダクトで意地を見せる必要があるならば、こうした技術はこの先とても大切なものとなるだろう。

そして同時に今回、改めて日本の道路でインフィニティを走らせてみて、このブランドもまたこの先、日本市場への導入を図る必要があるのではないかと感じたのだった。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181206-00253483-toyo-bus_all&p=1