1997年まで英国領だった香港は、独自の文化を築いてきた。

 代表的な文化の一つは、香港映画だ。昔から映画を通して香港を身近に感じてきた日本人も少なくないだろう。

香港映画の象徴的な存在が、ブルース・リーやジャッキー・チェンである。ただブルース・リーはちょっと世代が上ということもあり、現在64歳のジャッキーのほうが日本では広い層に支持を得ていたと言える。ジャッキーは長く香港映画を率い、90年代にはハリウッドにも進出して成功を収め、世界的なアクション俳優に上り詰めた。今では、世界で5番目に稼いでいる俳優(2018年)になった。

 かくいう筆者も子供時代に彼の映画に夢中になった一人だ。『プロジェクトA』などは吹き替え版のせりふを覚えてしまうほど繰り返し見たものだった。

 そんな香港を代表する俳優のジャッキーが、いま大変なことになっているという。とにかくイメージが急落しているのだ。しかも、15年に上梓した自伝の英訳版が最近出版され、そこで語られた彼の「ダメ人間」ぶりがあらためて英語圏で話題にもなっており、世界的なイメージダウンの危機にある。私たちのヒーローだったジャッキーにいったい何が起きているのか。

子供を放置した“偽善者”としてバッシング

 最近、ジャッキーに絡んだ奇妙なニュースが世界的に話題になった。カナダに住むジャッキーの「娘」が、同性愛者であることをカミングアウトし、カナダ人女性との結婚を11月に発表したという。娘といっても、ジャッキーが公然と認めている娘ではない。1999年頃に愛人だった元ミス・アジアの台湾人女性との間にできた子供で、現在19歳になる。

 しかも、ジャッキーはこの娘を養育しておらず、ほぼ会うこともなく放置してきたという。そんなことから、娘が12月14日、滞在していた香港のホステルの宿泊費を払えず、その時に持っていた全財産は300円弱だったことがアジアを中心にニュースになっている。

 メディアでは、「隠し子」である娘をまったく世話しようとしないジャッキーに批判の矛先が向かった。というのも、ジャッキーは自分の子供の面倒を見ないのに、ユニセフ(国連児童基金)では長く親善大使をやっているからだ。ユニセフに寄付もしているのに、実の子供は300円しか持っていない。それなのに何もしない「偽善者」だというのだ。

 こうなると、とにかく憎しみの感情が先に立っている気がする。さらに言うと、15年には台湾人の妻との間に生まれた息子が、中国で大麻所持の容疑で逮捕されたこともあった。その裁判で、「父親は無関心な上に愛情が乏しかった」と手紙を書いたことが話題になっている。とにかくプライベートのジャッキーはイメージが悪い。

 だが実は、メディアがジャッキーを容赦なくたたいたのには、他にもわけがある。少し前から、多くの香港人がジャッキーに違和感を抱くようになっていたからだ。主な原因は、彼の政治的なスタンスが物議を醸した09年の発言にある。
中国政府に寄り添う姿勢が批判の的に

 彼は当時、中国の海南島で開催されたビジネスパーソンのイベントに登場し、映画などにおける表現の規制について討論する場で、中国政府をよく思っていない人たちを敵に回すコメントをした。当時の報道によれば、彼は「今、私は混乱しています。自由になりすぎると、今の香港のようになってしまう。混沌としているのです。台湾も混沌としている……徐々に、中国人は規制や支配をされたほうがいいのではないかと考えるようになっています。コントロールされないと、何でもやりたいことをやってしまう」と発言した。

 当時、このコメントは、香港や台湾から厳しい反発が出て、ジャッキーは四面楚歌状態になった。中国政府に取り入ろうとしているのだ、と。確かに当時は、ハリウッドでの映画の成功の後、少しジャッキー人気も落ち着いた時期だった。さらに、経済成長によって中国本土の生活水準も上がってきており、映画市場としてもポテンシャルが高かった。そこを狙ったおべんちゃら発言ではないのかとの指摘もあった。

 ただそのおかげもあって、ジャッキーは13年に中国本土の全国政治協商会議の委員にも選ばれ、これがまた香港で批判を浴びた。さらにこの後、彼は中国を持ち上げるような映画を作り、中国本土で大ヒットを連発した。

 それ以降も中国本土と良好な関係を続けたジャッキーは、中国国内の企業との関係も指摘されている。16年にパナマ文書が弁護士事務所から盗まれて暴露された際に、ジャッキーと中国企業の関係が判明したこともあった。とにかく、本土との関係は良好のようだ。

 だが、その反面、やることなすことが批判されるようになった。18年、オークションの売り上げを寄付するつもりで、中国の障害者向けチャリティ団体に自伝5万部を寄付したときは、健全な男がスタントで成り上がった話を障害者向けに寄付するのはけしからん、と一部の中国人から批判が巻き起こったと報じられている。これはさすがに言いがかりに近いが、とにかく、中華圏では常に文句が飛び交うようになった。

“いい人”のイメージとは程遠い「素顔」

 そして隠し子の話に加え、以前出版した自伝の英語版が最近になって発売されたことが英語圏で大きな話題になっており、あらためてジャッキーのネガティブな話が広まっているのである。

 日本ではすでに翻訳版が発売されているこの本では、ジャッキーは愛人だった元ミス・アジアの女性についても言及。息子が小さい頃にイラついて投げ飛ばしたことがあるという話、若い頃に稼いだ金をギャンブルと売春婦に使っていたこと、飲んだくれて車を運転していたことなど、自身の素顔を赤裸々に暴露している。

 欧米では、子供たちを中心に人気が高い、憧れのジャッキーにそうした黒いイメージは皆無だと言っていい。いつも笑顔を絶やさず、ファンサービスは厭わない。いかにも「いい人」というイメージだからこそ、この暴露満載の自伝によるインパクトは大きかったようだ。

 中国との関係、若かりし日の悪行、隠し子、同性愛――。大人になったジャッキーファンたちは、さまざまな情報にさらされ、もう純粋にジャッキー・チェンのアクション映画を楽しめなくなってしまったのではないだろうか。

 英語版の刊行で、世界的にもそんなファンがさらに増えることになるだろう。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181220-00000013-zdn_mkt-int&p=1


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