改修そのものは大規模にならないかも?
 政府は2018年12月18日(火)、おおむね10年後までを念頭に置き、中長期的な視点で日本の安全保障政策や防衛力の規模を定めた指針である「防衛大綱」(以下「新防衛大綱」)を発表。航空自衛隊に短距離離陸・垂直着陸ができるF-35B戦闘機の導入と、海上自衛隊のいずも型ヘリコプター搭載護衛艦にF-35Bを運用するための改修を加えることが決定しました。これでいずも型は事実上、空母となります。
防衛省は12月21日(金)に発表した平成31年度防衛予算案に、いずも型でF-35Bを運用するために必要な改修の調査研究費として、7000万円を計上しています。この調査研究を経なければ、いずも型がどのような空母となるのかは決まりませんが、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は、それほど大規模なものにならないと考えています。

 F-35Bの搭載を予定している、イギリス海軍のクイーン・エリザベス級空母と、イタリア海軍の軽空母「カブール」は、艦首に発艦機の滑走距離を短縮して燃料消費量を抑える効果を持つ、スキージャンプ台のような傾斜を設けていますが、防衛省には現時点で、そのような傾斜をいずも型の艦首に設ける構想はないようです。

 いずも型の飛行甲板の長さは、やはりF-35Bを搭載するアメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦と大差なく、F-35Bの短距離滑走による発艦は十分可能です。ただ、飛行甲板の右舷側前部に設置されている、自衛用のCIWS(機関砲)は撤去するか、移設する必要はあるでしょう。

 いずも型は飛行甲板中央部と右舷側後部の2か所に、格納庫と飛行甲板を繋ぐエレベーターを設けています。飛行甲板中央部のエレベーターは長さ20m、幅13m、右舷側後部のエレベーターは長さ15m、幅13mであるのに対し、F-35Bの全長は15.67m、翼幅は10.67m。飛行甲板中央部のエレベーターは余裕を持って、右舷側後部のエレベーターも、機体の尾部をエレベーターから若干はみ出させる形であればF-35Bを搭載できます。両エレベーターとも最大搭載重量は30tで、最大離陸重量が27.2tであるF-35Bの搭載には支障ありません。

格納庫の一部と甲板は要改修か

いずも型の格納庫のうち、航空機の搭載に使用できるスペースは長さ125m、幅21mで、現状の格納庫のままだとF-35Bを横に2機並べて格納する事はできませんが、縦に1機ずつ並べる形であれば、最大7機を格納できます。一部のメディアは、いずも型へのF-35Bの搭載機数は8機程度で、それも常時搭載はしないと報じています。海上自衛隊は基本的に艦載機を常時艦内の格納庫に収容しますが、諸外国の海軍のように機体を飛行甲板上に並べる「露天繋止」をすれば、そこへさらにF-35Bと数機のヘリコプターを搭載できるでしょう。

 F-35Bを搭載して長期の作戦行動を行なう場合、予備エンジンや兵装類の搭載も必要となります。このスペースを確保するため、格納庫の前部にある第1車庫と、航空機整備庫の後方にある第2車庫を潰して、予備エンジンや兵装類の格納庫とする可能性があります。

 F-35Bの垂直着陸時の排気熱は、アメリカ海兵隊のVTOL(垂直離着陸)戦闘機AV-8B「ハリアーII」よりも高く、アメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦もF-35Bを搭載するにあたって、飛行甲板下に伝わる熱を低減する、熱拡散コーティングを順次行なっています。いずも型の飛行甲板の耐熱性能は明らかにされていませんが、おそらく熱拡散コーティングは必要になるものと思われます。

 熱拡散コーティングのほか、レーダーの換装や、F-35の運用に不可欠な自律型兵站支援システム「ALIS」、自動着艦誘導システム「JPALS」なども搭載されるでしょうが、少なくとも艦の形が変わるほどの大規模な改修工事を行なわなくとも、いずも型にその運用能力を与えることは十分可能です。

改修が小規模でも戦力化には時間がかかるワケ
ここまで述べてきたように、「いずも型にF-35Bを搭載するための改修」には、それほど費用と時間はかからないと考えられますが、一方で「F-35Bを搭載するいずも型」が戦力になるまでには、かなりの時間を要します。

 アメリカ海軍は約100年に渡って空母を運用していますが、空母の艦上で航空機の運用に携わる乗組員を養成する学校は設けておらず、経験豊富な上司や先輩が、部下や後輩に具体的な仕事を与え、その仕事を通じて必要な知識や技術、技能などを修得していく、いわゆる「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」によって、乗組員の教育を行なっています。

 海上自衛隊は、艦艇からのヘリコプターの運用については、長い経験と豊富な実績を持っていますが、F-35Bのようなジェット機を艦艇から運用した経験はありません。

 おそらく海上自衛隊は、すでに海兵隊のF-35Bを強襲揚陸艦で運用しているアメリカ海軍や、海上自衛隊よりもひと足早く、クイーン・エリザベス級空母でF-35Bの運用を開始するイギリス海軍などへ要員を派遣して、いずも型でF-35Bを運用するための技術やノウハウを学ばせるものと思われますが、それでもいずも型で円滑にF-35Bを運用できるまでには、相当な時間がかかるものと見てよいでしょう。

もちろん空自も「未知へのチャレンジ」
 いずも型に搭載されるF-35Bは航空自衛隊が運用しますが、航空自衛隊もまずF-35Bのパイロットと整備員をアメリカに派遣して訓練を受けさせ、そのパイロットと整備員を基幹に飛行隊を編成する必要があります。空自は、垂直着陸ができない基本型のF-35A初号機の発注から引き渡しまでに約4年、初号機の引き渡しから臨時F-35A飛行隊を編成するまでには約2年を要していますが、F-35Bも同程度の時間がかかるものと考えられます。

 F-35Bは、垂直着陸時におけるエンジン推力の調整などが自動化されているため、同様の短距離/垂直離着陸機である「ハリアー」シリーズに比べてパイロットの負担が少なく、また前に述べた自動着艦システム「JPALS」の実用化によって、航空機の空母への着艦も、以前に比べて楽になったと言われています。しかし、これまで一度も空母に戦闘機を着艦させたことがない航空自衛隊のパイロットにとって、未知の領域へのチャレンジであることには変わりはなく、いずも型でのF-35Bの運用開始までには、臨時F-35B飛行隊の編成から、さらに数年を要すると思われます。

 新防衛大綱は2021年度から2031年度までの10年間を想定していますが、いずも型でのF-35Bの運用開始は、最速でも新防衛大綱の期末に近い、2020年代後半ごろになるのではないかと筆者は思います。
竹内 修(軍事ジャーナリスト)

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