韓国海軍の駆逐艦が日本の海上自衛隊哨戒機にレーダーを照射したとされる事件は、現在の日韓関係を象徴的に物語る出来事だ。

 中国、ロシア、北朝鮮の軍事的な脅威にさらされている韓国軍が味方である(アメリカを介して准同盟関係にある)はずの日本の自衛隊を「敵」に回す行動を取ったとすれば、それは「自害行為」にほかならない。

 しかも今のところ韓国政府にこの問題に真摯に向き合おうとする姿勢は見えない。

 韓国の代表的な保守論客の1人、チョ・ガプチェ氏は、文在寅政権がやっている外交は「国益を守護する外交ではなく、韓国を国際的に孤立させる外交、自害外交、自殺外交だ。世界歴史上このような外交をやる政権は見たことがない」と批判する。

 この指摘は的を射たものだ。

● レーダー照射問題の「沈黙」 関係悪化を覚悟のシグナル

 外交の根本は外国と友好関係を築き、国際社会における自国の地位を高め、不測の事態が発生した時や困った時に友好国から支持と支援を取り付けることだ。

 アメリカのような大国ですら、トランプ大統領はともかく、歴代の政権は同盟国を突き放し、友好国をわざと敵に回すようなことはしない。

 ところが、文政権は「反日外交」を展開中だ。

 徴用工問題でも、1965年、日韓両政府が長い時間をかけ困難な交渉の末に、それまでの不幸な過去を克服するためにまとめた「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約(日韓基本条約)」の重みを無視するような姿勢だ。

 日韓の歴代政権が守ってきた国際法上の協定を文政権は破ろうとしている。

 昨年10月には、韓国で催された国際観艦式に日本は派遣を見送った。海上自衛隊が使用する軍艦旗が、旧日本海軍の旭日旗だという理由で、韓国側が軍旗掲揚の「自粛」を要請したためだ。

 韓国での観艦式は1998年、2008年にも行われたが、自粛要請はなかった。文政権になって過去の慣例を破る措置を取ったのだ。

 慰安婦問題でも、国家間で交わした約束をほごにする行為を取った。問題に最終決着をつけるために、日韓両政府の合意の下に設立した「和解・癒やし財団」の解散を一方的に決めたことだ。

 外交慣例では考えられないこうした韓国の措置を、日本は「暴挙」(河野太郎外相)と批判、「韓国には国際社会の一員として責任ある対応を望みたい」(安倍晋三首相)と求めたが、韓国側の姿勢は変わらず、いまだ解決の糸口は見つからないままだ。

 一連の出来事の中で起きた伝統的な友邦である日本の自衛隊機へのレーダー照射事件で、文大統領がだんまりを決め込んでいるのは、文政権が日本との関係はこじれることがあっても困ることはないと考えているシグナルかもしれない。

● 事実無視から責任転嫁、感情に訴え 3段階で変わる対日姿勢

 レーダー照射問題で韓国の態度は一貫性を欠いている。問題が起きた後の韓国国防省の対応は二転三転し、時間の推移とともに変化した。

本来なら、こうした事件が起きた時には、現場検証を通じて事実を確認し、非のある側が再発防止を約束して謝罪すれば済む性格のものだ。

 だがこれまでの推移を見る限り、文政権は日本と真摯に向き合おうとしていない。

 事件発生後、韓国側の態度は3段階を経ながら変化したが、それは、これまで日韓の間に発生した問題に文政権が対処してきたやり方と共通しているようにみえる。

 まず、事実関係を最初は無視することだ。

 昨年12月21日、岩屋毅防衛相が記者会見で韓国海軍の駆逐艦「グァンゲト・デワン(DDH-971)」が日本の海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダー(射撃管制用レーダー)を照射したと発表した時、日本の多くの国民は、海上で単純な技術的なミスが発生したのだろうというぐらいの認識だったように思う。

 ところが、韓国側が「レーダー照射の事実はない」(24日)と主張し始めてから、事態は新しい段階に突入した。

 当初、韓国側は「火器管制用レーダーを作動させたことは事実だが、日本の哨戒機を狙う意図は全くなかった」と説明していたが、事実関係を無視して開き直るかのような態度は日本の世論を刺激するのに十分なものだ。

 そうして次に、日本に責任を転嫁しようとする。

 1月に入り、韓国国防部は、レーダー照射があったのかなかったのかという根本的な問題、すなわち事実関係はさておき、日本の哨戒機の「低空飛行」を問題にし、謝罪を求めてきた。

 「わが海軍が人道主義的な救援活動を正当に行っているところに日本の哨戒機が駆逐艦に対し威嚇的な低空飛行を行った」とし、責任は日本側にあると主張した。

 しかも反論動画を作り、国際社会に日本が悪いという印象を広めるため8ヵ国語で映像を公開した。

 3番目にしたのは、国内の反日感情に訴えることだった。

 事実を無視し、責任を転嫁しようとしてもうまくいかない場合は感情に訴えかける。これは韓国がいつも打って出る手段だ。

 日本側が事実関係を明確にし、再発防止の約束を取り付け、信頼関係を築き直そうとしても、感情に訴える段階になってしまえば、もはや韓国を説得するのは無理だ。

● 対北朝鮮安保政策を転換 保守政権の政策を「積弊清算」

 文政権は、なぜここまで「強気」なのか。3つの理由が考えられる。

 第1に、文政権発足後、韓国軍は安保戦略を180度修正したようにみえる。つまりかつて「敵」としてきた北朝鮮を敵とはみなさなくなった。

 米軍を介して日本とは間接的な同盟関係にある韓国は、文政権が誕生するまでは軍事面で協力関係にあった。北朝鮮は日本と韓国の共通の「敵」だった。

 しかし、文政権になってから韓国は安保問題では日本と距離を置こうとしている。少なくともそうした姿勢を北朝鮮と中国に見せる努力をしている。

 文政権が発足して半年後の2017年11月、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は中国を訪れ「3不(3つの事柄をしない)」を約束した。後に「約束」ではなく「立場を表明した」だけと弁解したが、いずれにせよ内容は変わらない。

 「米国が主導するミサイル防衛システム(MD)に加入せず、韓・米・日協力を軍事同盟には発展させない、高高度ミサイル防衛システムを追加導入しない」というものだ。

 このうち二つの「不」は、日本とは距離を置くことを意味する「約束」だ。日本よりは北朝鮮、中国のほうに配慮している姿勢がうかがえる。

 第2に、文政権の政権運営の考え方や政治路線と関係がある。

 大統領就任後、文大統領がぶれずに、しかも最優先課題として推し進めてきたのが「積弊清算」だ。

 これは過去の軍事政権や保守政権時代に積もりに積もった「弊害」を一掃するというものだ。

 そのために、政府内の各部署にはタスクフォース(作業部会=TF)を立ち上げ、すでにさまざまな形式で調査が行われている。

 すでに結論が出ている事件であっても、過去の軍事政権や保守政権時代の主要事件は再調査し、時には全面的に結論や評価をひっくり返し、関係者を処罰してきた。

 国家安全に関わる秘密を取り扱う国家情報院(旧KCIA)や国家機密を扱う外交部も例外ではない。

 2015年12月、日韓両政府の間で決着をつけたはずの慰安婦問題を蒸し返したのも、一般市民が参加するタスクフォースに日韓両政府の交渉過程を記録した外交機密を開示し、見直しを許したからだ。

法曹界も例外ではなかった。最近でも、朴政権下で韓国大法院(最高裁)院長を務めた元長官が、徴用工判決に対する判断を先送りするなど「司法取引に関与した」という容疑で検察に召喚される身になった。

 当時、この裁判に介入したとされる法院行政処の次長は拘束済みだ。

 文大統領は弁護士時代には徴用工問題の弁護人を務め、1965年に日韓両国の間で交わした請求権協定については、「個人請求権」が消滅されていないという立場を取ってきた。

 大統領就任後も同じ趣旨の言葉を何度となく口にした。文氏は、朴正熙政権下に交わされた日韓基本条約そのものに不満を持っているのだ。

 つまり、文氏は日韓の間で合意したものでも、積もりに積もった「弊害」として、「積弊」を清算するつもりでいるようだ。

 昨年暮れの韓国大法院の徴用工裁判も、外交部が慰安婦問題の結論を見直したのも、そのような文氏の考えをくんでの判断だろう。

● 「反日」で支持層を結集 保守勢力を抑え込む手段にも

 日本に対し強気の外交を展開する3つ目の理由は、そのことが支持層を結集し、文政権に批判的な保守系までを抱き込む手段になり得るからだ。

 今年は韓国では「3・1独立運動」の100周年を迎える年だ。

 1919年3月1日は、朝鮮半島では日本の植民地統治に反対する全国規模のデモが起こった日だ。文政権は今年の3月1日の記念日は北朝鮮と共同で祝うことにし、大々的に準備を進めている。

 韓国の元高官はこう話す。「すでに100人以上の公務員が準備事業にとりかかっており、各種市民団体の代表ら数千人が大々的な行事を準備している。今年、韓国は反日で明け暮れるだろう」。

 支持率が低下傾向にある文政権にとって、徴用工問題、慰安婦問題、レーダー照射問題などで日韓がギクシャクするのは、政権運営に障害になるどころか、弾みがつくと計算しているのかもしれない。

 「反日」は、文氏を支持層の核心をなす理念なので日本と妥協しない姿勢を見せれば支持者は喜ぶ。また、保守勢力を抑え込む手段にもなる。

韓国の左派は、「保守イコール親日」という政治的なプロパガンダを作っている。そのため日韓の間に問題が生じた場合、保守勢力は親日的言動を取れば、国民の反発を受ける恐れがあるということで、文氏を批判しにくい。文氏を支持せざるを得ない側面もある。

 さらに、反日をモチーフにすれば、北朝鮮とも共通の価値、共通の目標で協力しやすいということもある。

● 国益に反する「自害外交」 有事には日本の協力が必要

 しかし、それにしても日本と距離を置き、日本を敵扱いするのは韓国の国益には反するという指摘が韓国国内でも根強い。

 韓国政府の反日外交は、まずアメリカにとっても厄介なものだ。

 日本と同盟関係にあるアメリカは日本に5万4000人の米軍を駐留させており、最新鋭の戦略兵器を展開している。朝鮮半島の有事の際はこれら米軍戦力が迅速に朝鮮半島に展開することを想定している。

 有事の際、日本の協力が必要であることは言うまでもない。

 また、朝鮮半島の南北軍事境界線での平和を維持するために韓国に残っている国連軍は、前線司令部は韓国に置いてあるが、7つの後方司令部は日本に置かれている。

 これも朝鮮半島有事を想定してのことだ。つまり、日本は韓国の防衛に決定的な役割を果たす国だ。

 このように隣国である日本を刺激し「敵」に回す行為をいとわない文政権の外交は、「自害外交」と批判されても仕方のないことではないか。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190122-00191492-diamond-int&p=5


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