徴用工訴訟の原告側代理人が15日、新日鉄住金の本社を訪れ賠償へ向けた協議入りを求めたが、面会を断られたため、差し押さえ済みの同社の資産を売却し、現金化すると宣言した。原告側はその後、三菱重工、不二越も訪れ、賠償責任を果たすように求めた。

 この問題をめぐっては、去年、韓国の最高裁にあたる大法院が新日鉄住金と三菱重工に賠償責任を認める判決を出し、原告側が両社の韓国国内の資産の差し押さえ手続きを進めていた。資産の現金化には数週間程度がかかると見られているが、手続きが完了すれば、日本企業には金銭的な負担がかかることになる。

 この事態については、菅官房長官も“極めて深刻“とした上で、「日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも、引き続き関係企業と緊密に連携を取りながら日本政府として一貫した立場に基づき適切に対応していきたい」と述べた。これまでも日本政府は韓国政府に対し、元徴用工らの請求権問題が「完全かつ最終的」に解決と定めた1965年の日韓請求権協定をもとにした対応を求めており、「日本企業に実害が出れば対抗措置を取る」としているが、有効な手を打てないうちに韓国側の手続きが着実に進んでいるのが現実だ。

韓国の法律に詳しい高初輔弁護士は、この“資産の現金化“について、「不動産には“競売手続“というのがあり、不動産鑑定士の評価を基準に競売にかけ、最高値で入札した人が買い取ることになる。新日鉄住金の株式はすでに差し押さえられているので、基本的にはこれと同じことが行われる。評価に基づいて韓国の裁判所で売却処分され、その代金を原告が取得して、損害賠償金に充てるという形になる」と説明、「韓国の最高裁判所の確定判決が出てしまった以上、この動きを止めることはできない。日本企業としては損害賠償金を払わなければどうすることもできないので、本当に困っているだろう。早く解決してほしいという気持ちだろうが、日韓両政府の話し合いが全く進んでいない感じだ。別の方策で何ができるかを考えないといけない。その場合、韓国ではなく日本に土俵を持って来ないとやりようがない」と指摘する。
 
 高弁護士が日本企業の取りうる方策として挙げるのが、次のような“逆提訴“だ。

「少なくとも企業側は日本では勝訴判決を得ている。従って、日本の法秩序という観点から見れば、韓国の判決と、それに基づく強制執行は不当、あるいは不法行為だということで、徴用工を被告として日本の裁判所に損害賠償請求訴訟を提起するということが考えられなくはない。つまり、株式が差し押さえられて換金されてしまということは企業にとっては損失だ。これを損害として賠償請求をするということだ。ただ、それにあたっては二つクリアしなければならない問題がある。一つは日本で裁判ができるかどうか。もう一つは、その訴訟を規律する法律=準拠法が日本の法律であるかどうかだ。可能性が高いとは言えないが、なくはないと思う。もしこの二点がクリアできて、しかも徴用工側の敗訴のリスクが高いとなれば、やはり本来は韓国政府が解決してすべき問題ではないのか、いう方向になる可能性もある。まさに徴用工や遺族の方々が原告団を組んで韓国政府を訴える道を探っているという状況でもあるので、こういう形を取ることによって、一石を投じることができる可能性はある。その場合、ほとんど不可能だろうが、日本企業の徴用工の皆さんに対する請求権に基づいて、徴用工の皆さんの韓国政府に対する請求を代わりに行使する“債権者代位権“ということも考えられはする」。

 これを受け、元経産官僚の宇佐美典也氏は、「政府としては所管する法律についての見解を出すことができるので、そうした裁判が可能かどうかを示すこともできる。国会も企業に対する救済法案などを議論することもできる。そのようにして後押しすることは可能だ」と指摘した。

共同通信社編集委員の磐村和哉氏は「企業の中には“話だけは聞くか“というところもあるかもしれないが、それをやってしまうと1965年の日韓請求権協定や戦後の日韓関係の枠組みを否定するのか、という話になってしまう。前例を作りたくない日本政府としても、企業には動いてほしくないだろう。だから企業としてはむやみに動けないジレンマに陥っていると思う。次の段階としては外交の場で、お互いに妥協ではないが着地点を探るしかないと思うが、日韓の意思疎通のルート自体がスカスカだ。対話をしようにも意味のある対話ができない。そこから仕切り直しをしないといけない」と話す。

 「考えられるのは、6月28、29日に行われるG20サミットの個別の首脳会談で何とか突破口を作ることができないかということだ。当面は、そこまでに首脳同士で話ができる雰囲気を作ることを目指すしかないと思う。ただ、それまでに現金化もしてしまい、決裂状態が続くようだと、韓国がG20サミットそのものに大統領を送らない、もしくはナンバー2になる首相でお茶を濁すということもあり得る。トップレベルの外交ができないとなると制御不能になってしまう危険性もある。1987年から民主化闘争が本格化して、今の民主的な国家になったが、もしかしたら文在寅政権は今も民主化闘争をやっている気分なのかもしれない。国内政治で親日派、知日派が多い保守を叩くと、日本というファクターも一緒にボロボロと落ちてくるという構造がある。徴用工側の若い弁護士には、学生運動をやっているような雰囲気もあった。単純に外交や法の問題だけではなくて、韓国の国内政治も深く絡まっているので複雑だ」。

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