小児科医 坂本昌彦
 はじめまして。私は小児救急を中心に、「子どもの病気とホームケア」の啓発活動に関心を持っている小児科医です。このコラムでは、お父さんやお母さんをはじめ、子どもを取り巻く周りの皆さんにとって、大切だけれど、正確には知られていないかもしれない情報を、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思っています。

「人の集まる時」に起こりやすい事故
 さて、年末年始は過ぎましたが、そうした「人の集まる時」に起こりやすい子どもの事故と言えば、「誤飲」です。

 赤ちゃんは、生後5か月を過ぎると、手にしたものは何でも口に入れていくため、誤飲の事故が増えます。特に、2歳までの男の子に多いとされています。

 気をつけなくてはいけない誤飲事故ですが、最近、誤飲への対応について、救急現場の常識と一般家庭の常識に違う部分がいくつかある、と気づきました。一般家庭の誤飲の対処方法を、もう一度見直してみたほうがいいのではないか……。今回のテーマに誤飲を選んだのは、そんな理由からです。では、救急現場と一般家庭で、何が違うのでしょうか?

大きく分けて気道異物、消化管異物、薬物誤飲
 まず、「異物誤飲」について説明しましょう。異物誤飲には、大きく分けて気道異物(窒息など)と消化管異物、そして薬物誤飲(いわゆる中毒)とがあります。

 口から入った異物が気道に入ると、気道異物です。多くは食べ物で、つるっとしたモノや丸いモノ、たとえばピーナツや枝豆、ブドウやミニトマトなどです。3歳以下の男児に多いとされています。

 一方、食道に入るものには、消化管異物と薬物誤飲があります。消化管異物で最も多いのはコインです。ボタン電池や磁石なども最近増えています。薬物誤飲の第1位はタバコ、次いで家族が使っている薬です。近頃は、トイレ洗浄剤や洗濯用ボール型洗剤などを飲み込むケースも見られます。お菓子やゼリーと間違えてしまいそうな、カラフルな色と形をしていることも一因だろうと思います。

気道異物 無理に取り出そうとしない
 気道異物と消化管異物、薬物誤飲では対処の方法が異なります。

 まず、気道異物についてです。食事しているときや目を離していた間に急に苦しがり出し、声が出せない場合、可能性が高いのは気道異物、つまり、窒息です。当然、一刻を争う緊急事態。すぐに人を呼び、119番通報をする必要があります。それとともに、乳児の場合は、背中を手のひらでたたく「背部叩打(こうだ)」を数回ずつ繰り返します。もう少し大きなお子さんであれば、後ろから両手を回しておなかを圧迫する「腹部突き上げ方」というやり方もあります。それらを行っても取り除くことが困難で、意識の状態が悪いようなら、直ちに心肺蘇生を始めなくてはいけません。

 超緊急事態に気が動転し、異物を無理に取り出そうと頑張ってしまうと、窒息状態をさらに悪化させてしまいます。例えば、餅を詰まらせたときに掃除機を口の中に入れて吸い出そうとするケースなどは、効果がないばかりか、背部叩打などの有効な処置を妨げてしまうため、お勧めできません。

消化管異物や薬物誤飲は「吐かせない」が正解
 次に、消化管異物や薬物誤飲はどうでしょうか。

 口に異物を入れているところを目撃した場合は、あわてて大声を出したり、叱ったりしないようにしてください。子どもがびっくりしたり、泣き出したりして、飲み込んでしまうことがあるからです。大人があわてることなく、優しく言い聞かせて、口から出させましょう。

 では、もしゴクリと飲んでしまったら?

 この場合、実は、「吐かせない」が正解です。強制的に吐かせること(催吐(さいと))は、吐いたものが気道に入って窒息するリスクがあるとされ、現在は勧められていません。

 以前は、吐かせるための薬(催吐剤、日本では「吐根(とこん)シロップ」という名前で知られていました)を、家庭にも常備するよう勧められていた時期がありました。しかし、アメリカ小児科学会は2003年、催吐の効果には医学的根拠がないことや、より適切な処置を受けるタイミングが遅れるなどの理由で、催吐剤を使用しないよう通達を出しました。これは家庭だけでなく医療機関でも同様です。米国では10年、日本の製薬メーカーも12年に催吐剤の製造を中止しています。13年の米国臨床中毒学会などの声明でも、引き続き催吐剤を使用しないようにとされています。これらを踏まえて、日本中毒情報センターのHPにも、「家庭で吐かせることは勧められていません」と明記されています。

 いかがでしょう。「すぐ吐かせよう」と考えていませんでしたか? 吐かせる努力に時間を費やすのではなく、すみやかに医療機関を受診することが大切です。

「何を」「いくつ」により緊急度が変わる
 もう一つ、「吐かせない」と同様、忘れないでいただきたいのが、医療機関に「誤飲したのと同じものを持参する」です。誤飲したものによって、緊急度が変わります。例えば、血糖値を下げる薬や血圧を下げる薬を、子どもが誤って飲んでしまうと大変危険です。また、ボタン電池の中でも、「リチウム電池」はアルカリボタン電池よりも電圧が高く、より危険とされています。磁石も磁力は様々ですし、複数の磁石の誤飲はより危険です。したがって、「いくつ飲み込んだか」も重要な情報になってきます。

 以上の原則を踏まえながら、異物誤飲の際の具体的な対応方法をまとめた誤えん・誤飲早見表(図)を作成し、チラシも作りました。冷蔵庫の壁など日常的に目に入る場所に貼ってご活用いただければ幸いです。

小児医療を知るため…お手伝いを!

連載初回ですので、このコラムを書こうと思った背景や私たちの活動についてご紹介します。

 私たちの活動「教えて!ドクター」は、長野県佐久市と佐久医師会の委託を受け、佐久総合病院を中心とした小児科医など医療スタッフやイラスト・ウェブ・アプリ等の専門家が集い、冊子やアプリ、保育園出前講座、SNSで情報発信をしています。

 核家族化が進み、子育てについて相談する人が身近にいない方も増える昨今、保護者の皆さんが頼るのはインターネットです。ところが、ネット上には正確ではない情報があふれています。また、専門家が発する情報は、一般の方には分かりにくく、届きにくい内容であることも少なくありません。そこで、私たちは、医療関係者とイラストデザイナーやプログラマーが協力することで、「伝える」から「伝わる」啓発を目指し、活動を続けています。

 このコラムを通じて、保護者の皆さんが救急や身近な小児医療について知るお手伝いができればと願っています。次回もよろしくお願いします。

坂本昌彦(さかもと・まさひこ)
 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190223-00010000-yomidr-sctch&p=3


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