カネ儲けのためなら

高速道路上に2列に並べられた豚の死骸、彼らの皮膚には赤紫色の死斑が現れているのと同時に土埃がこびり付き、見るからにぞっとする光景だった。

 それはネット上に表示された写真だったが、そこには次のような説明文が添えられていた。

 「一昨日殺処分されて穴の中へ埋められたアフリカ豚コレラに感染した豚の死骸は、その日の夜に地元民によって掘り返され、トラックで別の地方へ運ばれて販売される予定だった。ところが、そのトラックが高速道路で積荷の検問に引っ掛かり、輸送中だった豚の死骸は運悪く摘発された」。

 写真は摘発を受けてトラックから下ろされ、高速道路上に並べられた豚の死骸である。

 米国カリフォルニア州セントメリーズ大学(Saint Mary’s University)英文学部教授の徐賁(じょふん)はこの写真を見た感想を3月3日付のコラムの中で下記のように述べた。

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1)私の最初の反応は、人間性がどうしてここまで失われてしまったのかというものだったが、思わず以前にネット上で流行っていた言葉を思い出した。
それは「中国需要的不是走向世界、重返人類(中国が必要なのは世界に向かうことではなく、人に立ち返ることだ)」であった。
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2)今日、異なる地域が生産物を相互にくさしたり、生産者が自分の生産物をゴミと認識しているといった話を聞いても、以前のようには驚かなくなってしまった。
過剰な農薬散布の故に、ニンニク農家は自分の栽培したニンニクを食べないし、きくらげ(木耳)農家は自分が栽培したきくらげを食べない。また、稲作農家は自分が育てた米を食べない。
このようなニュースはたびたびメディアで報じられるが、大多数の人々の驚きや憤りはすでに絶望と麻痺によって取って代わられている。
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 アフリカ豚コレラに罹患した豚の肉を人間が食べても感染はしないということなので、たとえ人間が罹患した豚の肉を食べたとしても、豚がその人間の排泄物を食べない限りという条件付きではあるが、何ら問題はないという。

 しかし、感染の拡大を防ぐために殺処分されて穴に埋められたアフリカ豚コレラに感染した豚を、カネ儲けのために掘り出して遠く離れた食肉市場へ販売するということは、どう考えても人倫にもとる行為である。

豚コレラ犯罪の規模

2018年8月3日に、遼寧省瀋陽市の沈北新区にある養豚場で豚の感染が発見されたアフリカ豚コレラは、19年2月末までに、河南省、江蘇省、浙江省、安徽省、黒龍江省、内蒙古自治区、吉林省、天津市、山西省、雲南省、湖南省、貴州省、重慶市、湖北省、江西省、福建省、四川省、上海市、北京市、陝西省、青海省、広東省、甘粛省、寧夏回教自治区、広西チワン族自治区、山東省という順に感染を拡大し、2月24日に河北省保定市で感染が確認されたことにより、31ある中国の一級行政区(省・自治区・直轄市)のうちの28でアフリカ豚コレラの感染が確認された。

 2月末時点でアフリカ豚コレラの罹患が確認されていない一級行政区は、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、海南省の3つだけで、中国全土がアフリカ豚コレラの汚染によって制覇される日はそう遠くないものと思われる。

 こうした深刻な情勢下で、3月1日に記者会見を行った中国政府「公安部」は、中国国内に蔓延するアフリカ豚コレラに関連する違法な病死豚の売買や虚偽報告などの犯罪取締り状況を発表した。

 それによれば、昨年8月から今年2月末までに全国各地の公安機関が協力して捜査を展開した32件のアフリカ豚コレラに関わる刑事事件を通じて犯罪容疑者90人を逮捕し、事件に関連した豚は1.5万頭、豚肉と豚肉製品は140トンにも及んだ。

 また、病死豚の解体・販売事件など各種の死んだ家畜に関わる事件500件以上を解明し、犯罪容疑者960人を逮捕した。

 不法分子は先ずアフリカ豚コレラの感染で病死した豚を大量に購入し、それらを別の省へ送って肉製品に加工した上で、さらに他の省へ分割して販売する。

 この種の犯罪は主として生産、供給、販売の3分野から構成される。最初に疫病の発生状況を遅滞なく報告しないまま、密かに病死した豚を外部へ販売する。

 その次に、違法な私営の食肉加工工場が死豚の解体を行い、豚がアフリカ豚コレラに感染していないことを示す検疫証明書を偽造したり、違法に購入したりして、豚肉を感染区域外へ運び出して販売するのである。

 公安当局によれば、これら事件の中には、政府所属の獣医が不法分子からの要請を受けて検疫証明書を違法に発行して販売した例もあったという。

相変わらず良心はない
 各地の公安機関はアフリカ豚コレラの汚染地域の治安や交通秩序の維持を強化し、関係部門との協力の下で汚染地域の封鎖、殺処分、消毒、無害化処理などの作業の完璧を期しているし、公安交通警察の取締り所や公安検査所などは家畜用獣医などの部門と連携してアフリカ豚コレラの伝染リスクを抑制すべく努力しているという。

 それにしても、病死豚の解体・販売事件などの死んだ家畜に関連する事件が500件以上に上り、それら事件の解明により逮捕された犯罪容疑者が960人にも達したというのは驚き以外の何物でもない。

 逮捕された犯罪容疑者が960人ということは、同類の罪を犯している人数はその10倍以上にはなるのではなかろうか。

 これは、上述した徐賁教授が提起した「重返人類(人に立ち返ること)」という言葉をしみじみ実感させるものであるが、金儲けのためなら人間としての尊厳を打ち捨てて、恥も外聞もなく利益を追究するのがこの種の人々なのだ。

 彼らにとっては、殺処分されて地中に埋められた豚の死骸はカネの成る木に見える。地中に埋められたということは、捨てられたということになるが、それを掘り出して解体すれば、その出所は分からなくなり、無価値の物が有価な物となり、濡れ手に粟のカネ稼ぎになるのである。

 金儲けの欲望に負けた人物が最初に手を出してカネを稼いだことを聞けば、我も我もと欲に目がくらんで人倫を忘れた人々が殺処分された豚の解体・販売に手を染めるのである。

 彼らの論理は、「そうした豚肉は自分で食べる訳ではないから、何も問題ないし、カネが儲かれば良く、良心の呵責を感じることは全くない」というものである。だからこそ、「重返人類」が必要なのだが、それは容易なことではないようだ。

腰の引けた地方政府
 2月19日に湖南省永州市で大きな養豚場を経営する桂新友が、アフリカ豚コレラウイルスの侵入によって巨額な損失が発生したことに関連して、管理不十分を理由に逮捕された。

 2月28日に永州市冷水灘区防疫指揮部が永州市内の郷・鎮政府や開発区宛てに発行した『永州経済開発区横冲養豚場の伝染病状況に関する通報』がネットに流出したが、そこには下記の内容が記されていた。

 「2月8日に国家農業農村部は、永州市経済開発区横冲養豚場でアフリカ豚コレラの流行が確認されたと発表した。当該養豚場で飼育されている豚は4600頭だが、その中270頭が発病し、171頭が死亡した。感染が確認された後、永州経済開発区政府は同養豚場の封鎖、殺処分、消毒などの措置を取り、病死と殺処分された全頭に無害化処理を行い、流行に対し有効な処置を取った。専門家の初歩的分析によれば、感染原因は同養豚場の職員や車両が不用意にアフリカ豚コレラウイルスを持ち込んだことによるもので、経営者の桂新友は、アフリカ豚コレラの感染防止をおろそかにしたという管理不十分の理由で逮捕された」。

 ただし、地元の関係者によれば、永州市政府側はアフリカ豚コレラに対する政府自体の防疫力不足の責任を大型養豚場の経営者である桂新友に押し付けたもので、桂新友はスケープゴートにされたのだという。

 養豚場がアフリカ豚コレラの感染を受けると、養豚場は大きな損失を被るが、国家は一定の補償を支給するので、経営者の損失は若干軽減できることになっている。

 ところが、地方政府は補償を支給したくないのが本音であり、桂新友のように逮捕された養豚場経営者には補償を支給しない規定となっているので、養豚場経営者の多くは政府の対応に不満を感じていても文句を言えない状況にある。

 昨年8月以来、中国でアフリカ豚コレラが猛威を振るい始めた後に、中国政府は豚の殺処分を命じられた養豚場に対して経済的な補償を支給すると宣言したが、感染状況が深刻さを増すにつれて補償の支給を継続することが難しくなった。

 広東省が最近発表した補償基準を例に挙げると、豚1頭当たりの補償は、300元(約5000円)、500元(約8300円)、800元(約1万3200円)、1200元(約1万9800円)の4等級に分かれており、その財政負担は、中央政府が40%、残りの60%は省・市(県)などの地方政府となっている。

 しかし、多くの地方政府は数ヵ月前からアフリカ豚コレラの流行状況を隠蔽したり、確認を怠るなどして支給すべき補償を無視しているのが実情であるという。

さすがに「両会」前に発表

2019年の「両会(中国人民政治協商会議と全国人民代表大会)」は前者が3月3日から、後者は3月5日からそれぞれ開催されているが、これに先立つ3月1日の午後に中国政府「農村農業部」はアフリカ豚コレラに関する記者会見を開催した。

 会見の中で農村農業部が招聘した専門家である中国工程院院士の陳煥春、国家食品安全リスク評価センター実験室主任の李鳳琴、中国農業大学教授の楊漢春の3人は記者の質問に答えて次のように述べた。

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1) アフリカ豚コレラは豚だけに感染し、人やその他の動物には感染しない。
アフリカ豚コレラが発見されてから100年以上が経過し、その間に世界62カ国で流行が報じられたが、今に至るも人が豚肉を食べてアフリカ豚コレラに感染したという報道はない。
すでにアフリカ豚コレラの流行が報じられた62カ国中で、流行を根絶して消滅させた国は13カ国に過ぎず、その中でキューバ、ベルギー、フランスの3国は消滅後に再発生した。
それほどにアフリカ豚コレラが一度流行すると、短期間に根除するのは困難であるだけでなく、消滅後も油断できない。
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2)人には感染しなくとも、アフリカ豚コレラは豚や野生猪にとっては致命的な病気でアフリカ豚コレラのウイルスに感染して発病した豚は100%死亡する。
中国は養豚大国で、養豚数は世界全体の53%を占めている。中国における豚肉の消費は肉類全体の消費中の62%を占め、項目別では最大の農産物で、その金額は1.6兆元(約26.4兆円)に上り、その他の関連産業を加えると3兆元(約50兆円)以上に達する。
したがって、アフリカ豚コレラはたとえ人に感染しなくとも、それが養豚業、国民経済、国民生活に対して及ぼす影響は非常に大きく、国務院、農業農村部および各レベルの地方政府はアフリカ豚コレラの流行を高度に重視し警戒している。
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3)今年1月以来の状況は去年の同時期に比べると、豚の飼育数だけでなく母豚の飼育数も過去10年間で最大の下降率を示している。
豚の出産数が減少するのは速いので、下半期に出荷される豚の頭数は減少が予想されるが、これは豚肉市場に極端な供給不足をもたらす可能性がある。第3四半期以降、とりわけ第4四半期になると、豚の価格は比較的大きく上昇するものと思われる。
豚価格の上昇は、アフリカ豚コレラ流行の影響を受けて、養豚業者の飼育数抑制や、一部養豚業者の廃業が養豚コストの上昇がもたらすことに起因する。
昨年8月にアフリカ豚コレラが流行を始めて以来、中国の豚肉価格は低下を続けており、中小規模の養豚業者は次々と市場からの撤退を余儀なくされ、豚の生産量は縮小を続けている。
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拡大続ける被害

なお、農業農村部が2月21日に発表した『2019年1月期・監視測定県400カ所の豚飼育数情報』によれば、2019年1月末時点における豚の飼育数は前年同期に比べて12.6%減少し、繁殖可能な母豚の飼育数は前年同期に比べて14.8%減少した。

 アフリカ豚コレラの流行は一向に沈静化せず拡大していることから、この数字は1ヵ月後の2月末時点ではさらに減少幅が拡大しているものと思われる。

 2018年11月23日に農業農村部が発表した「8月初旬のアフリカ豚コレラの感染が発見されてから11月20日までの疫病情報」には、20の一級行政区内の47の市(区、盟)で73件の飼育豚の感染、1件の野生猪の感染が確認され、累計60万頭の豚が殺処分されたとある。

 それから2ヵ月後の19年1月16日に農村農業部は「アフリカ豚コレラの中国豚肉市場に対する影響は限定的だ」として、19年1月14日までに24の一級行政区で発生した飼育豚および野生猪の感染に関連して累計91.6万頭の豚が殺処分されたと発表した。

 さらに1ヵ月半が経過した2月末時点では殺処分の総数は100万頭を超えていることは間違いない。

 2月28日に国家統計局から発表された『2018年国民経済・社会発展統計公報』によれば、2018年通年の豚・牛・羊・家禽(鳥)肉の生産量は8517万トンで、前年比0.3%の減少であった。

 その中、豚肉生産量は5404万トンで前年比0.9%減、牛肉生産量は644万トンで1.5%増、羊肉生産量は475万トンで0.8%増、家禽肉生産量は1994万トンで0.6%増であった。また、2018年末における豚の飼育数は4兆2817万頭で、前年比3.0%減、豚の出荷数は6兆9382万頭で1.2%減であった。

 この数字を上記の1月末時点の飼育数と比べると、わずか1ヵ月で減少幅が拡大していることが分かる。

どこまで続くのか
 91.6万頭の豚が殺処分されたとしても、それは豚の飼育総数である4兆2817万頭から見ればわずか0.2%にしか過ぎず、その影響は大きくないように見える。

 しかし、国家が発表する統計数字を信じる中国国民は少なく、実際に殺処分された豚の総数を知る術はない。

 少なくとも、上述したように多くの地方政府が殺処分された豚の補償金の支払いを回避すべく逃げを打っているとの情報に接すると、殺処分された豚の頭数は91.6万頭を大きく超えている可能性は高いと想定できる。

 中国政府はアフリカ豚コレラの流行を限定的として、その影響が小さいことを強調しているが、上述したように感染が確認されていない一級行政区は、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、海南省の3つだけ、感染の全国制覇は近いものと思われる。

 アフリカ豚コレラが人に感染しないことから、気にせず豚肉を食べる人も多いが、牛肉・羊肉・家禽肉の消費増が話題に上るようになってきており、豚肉消費が減少を余儀なくされつつあることは間違いのない事実である。

 筆者は、アフリカ豚コレラの流行を通じて、最初に述べた「中国が必要なのは世界に向かうことではなく、人に立ち返ることだ」という言葉を実感したのだった。殺処分されて埋められた豚の死骸を掘り出して販売するという火事場泥棒同然の犯罪を行う人々には、「人に立ち返ること」で、人間としての道理をわきまえて欲しいものである。

 ただし、これは中国人だけに言えることではなく、我々日本人も念頭に置くべき考え方だと思うのである。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190316-00063390-gendaibiz-cn&p=1


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