<世論調査で「残留」が「離脱」を逆転――それでもメイ政権が固執するのは、失敗すれば保守党が分裂・崩壊するからだ>

イギリスの有権者は、ブレグジット(英国のEU離脱)に関して考えを変えたようだ。

英国社会研究センターの2月の世論調査によれば、いま国民投票が実施された場合にEU残留に投票する人が55%なのに対し、離脱に投票する人45%。ストラスクライド大学(グラスゴー)のジョン・カーティス教授の調査でも、残留支持が53%、離脱支持が47%となっている。残留派が48%、離脱派が52%だった16年6月の国民投票とは賛否が逆転した形だ。

カーティスがBBCへの寄稿で指摘しているように、「2度目の国民投票を行えば前回と逆の結果になると、残留派が確信できるほどの差はない」。しかし「(16年から)世論は変わっていないと離脱派が確信できる状況でもない」。

テリーザ・メイ首相は、EUとの間で昨年まとめた離脱協定案の承認を議会に求めてきたが、議会はこれまで2回それを突っぱねていた。そして、3月29日に行われた3度目の採決でも、議会はメイの協定案を否決した。

こうした議会の姿勢は、世論の風向きを反映している。2月の英国社会研究センターの世論調査によれば、離脱交渉でEUから好ましい条件を引き出すことはできないと考える人が回答者の63%に上っている。好条件を引き出せると考える人は、6%だけだった。

2年前とは状況が大きく変わっている。17年2月の同センターの調査では、有利な合意を結べると考える人が33%、不利な合意を結ばざるを得なくなると考える人が37%と、国民の見方は拮抗していた。

また、今年2月の調査によれば、国民投票で離脱を支持した有権者の80%は、政府がEUとの交渉に失敗したと考えている。この割合は、2年前の調査では27%だった。

<国民投票での約束はほご>

英政府は国民投票で示された民意を理由に、ブレグジットに向けて動いてきた。離脱中止を求める600万人近いオンライン署名に対して、政府は次のように返答した。「(離脱を実行しなければ)政府が国民に約束したことが履行されず、民主的な投票によって明確に示された民意がないがしろにされる。そうなれば、民主主義への信頼が損なわれる」

3月23日にロンドン中心部で実施された推定100万人のデモ参加者など、再度の国民投票を求める人たちは、離脱派から「民主主義の敵」というレッテルを貼られてきた。

「端的に言えば、デモ隊は民主主義を否定し、民主的な国民投票の結果を実現させないために行進している」と、与党・保守党内の離脱推進派であるマーカス・フィッシュ下院議員は英テレグラフ紙に語っている。

ブレグジットはもはや「民意」ではない?
とはいえ、国民投票のやり直しを望む世論が高まっていることは事実だ。世論調査機関ユーガブが最近行った調査によると、2度目の国民投票を支持する人は48%。反対の人は36%だった。

イギリスの二大政党の保守党と労働党はいずれも、自国がEUのメンバーであり続けるべきだと一貫して主張してきた。メイ自身も、16年の国民投票では残留支持を呼び掛けていた。その点では、下院議員の3分の2以上も同じだ。

では、ブレグジットがもはや民意とは言えなくなっているのに、どうしてメイはかたくなな態度を崩さないのか。「離脱を実現できなければ、保守党が完全に崩壊するからだ」と、ある英政府高官は言う(メディア対応する正式な権限がないことを理由に匿名を希望)。

この高官によれば、保守党内の離脱強硬派は「メイの離脱合意案が理想的なブレグジットには遠いと感じ、怒りをたぎらせている。この協定案では、EUのルールには従わずに加盟国並みの恩恵にだけ浴するという夢物語が実現しないからだ」。

「その一方で、ブレグジットが実現しなければ、裏切りだと騒ぎ立てるだろう。このグループが(離脱推進の)新党を結成すれば、保守党が政権を握ることは向こう数十年なくなる」

多くの保守党議員はブレグジットに消極的だが、保守党の未来はブレグジットの実現に懸かっているのだ。しかし、国民投票で離脱推進派が約束したような好条件は、EU側が到底受け入れないことが明らかになってきた。つまり、国民投票での離脱推進派の約束を守ることは不可能になりつつある。

メイは29日の議会採決を前に、離脱協定案が可決されれば首相を辞めると示唆した。それでも、メイが党内の支持を取り付けることはできなかった。

「メイの辞任は避けられないと、誰もが思っている。辞任の意思を示しても全く重みがない」と、ある保守党議員は言う(政権内での立場を考えて匿名を希望)。「問題は、リーダーが交代しても何も変わりそうにないことだ……国家的な危機の最中に党内の権力抗争にうつつを抜かしていたと思われれば、私たちは次の選挙で有権者からお仕置きを受けるだろう」

<「合意なき離脱」回避へ?>

こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。EUはメイに、4月12日まで実質的な猶予期間を与えている。それまでに協定案を議会で可決させられなければ、メイはさらに長期間の離脱期限延長をEUに申し入れるほかない。

しかし、議会の総選挙や2度目の国民投票の実施など、イギリスがそれなりの理由を示さなければ、長期間の期限延長には同意できないと、EU側は常々述べてきた。

「EUがイギリスの政治プロセスを指図するような状況になる」と、前出の保守党議員は不満を述べる。「EUからコントロールを取り戻すという目的を達成できているとは思えない」

ドラマはまだ終わっていない
ドナルド・トゥスクEU大統領は最近、残留を望むイギリス国民を強く支持する姿勢を鮮明にした。

「もしイギリスがブレグジット路線を考え直したいと言うのなら、私たちは長期間の期限延長を受け入れるべきだ」と、トゥスクは欧州理事会で述べた。「離脱中止を求める署名をした600万人、再度の国民投票を求めてデモ行進した100万人を見捨てるわけにはいかない。今では過半数のイギリス国民がEU残留を望んでいる」

これまでずっと「合意なき離脱」の可能性をちらつかせて離脱協定案への賛同を呼び掛けてきたメイは、ここにきて前言を翻し、合意なき離脱を回避する意向を口にし始めた。

ブレグジットをめぐるドラマには、まだひと山もふた山もありそうだ。

From Foreign Policy Magazine

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190404-00010003-newsweek-int&p=3


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