北朝鮮メディアが昨年7月、「韓国政府も終戦宣言について傍観しているようではいけない」という論評を出すと、韓国のカン・ギョンファ外交長官は数日後、「終戦宣言はわれわれの外交的課題」と肯定的に回答した。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「終戦宣言を行って何か問題が生じれば、再び取り消せばいいだけのこと」という常識外の発言まで行い、終戦宣言を米国に提案した。金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長が、10月初めに訪朝した米国のマイク・ポンペオ国務長官に「終戦宣言は重要ではない」と終戦宣言から制裁緩和の側に方向を転換すると、今度は文大統領が欧州訪問で会談した首脳たちに「制裁緩和で非核化を促進するのはどうか」と打診して回った。金正恩労働党委員長が今年の年頭の辞で金剛山観光と開城工業団地の全面再開を明らかにして以降は、文大統領とスタッフたちの話題もそちらに移行していった。

 北朝鮮が発言するたびに願い事を聞き入れようとする韓国政府に苦しめられてきた米国は、その疲労感をメディアを通じて吐露している。「文在寅大統領は金正恩委員長のチーフスポークスマン」としたブルームバーグ通信の報道(昨年9月)が、これを物語っている。国際舞台に直接登場できない金正恩委員長の願い事を耳にした文大統領が、代弁役を務めているというわけだ。その半年後、野党院内代表が国会本会議場で同報道に触れると、大統領府と与党は「国家元首を冒涜(ぼうとく)する卑劣な言葉」とひどく立腹したが、国際社会がこうした視線で韓半島(朝鮮半島)情勢を注視しているという内容は、ニュースにさえもならない。

 韓国政府が北朝鮮と一体であると認識されることで米国が本音を打ち明けなくなるといった懸念は、今回のハノイでの首脳会談を通じて現実化した。韓米同盟の協力体制が正しく作動していれば、米国がバッドディール(悪い合意)の代わりにノーディール(合意なし)を選択する可能性もあるという立場を、当然事前に韓国にほのめかしたはずだ。そうなっていれば、南北経済協力の再開を裏付けるために通商専門家を対米関係担当の安保室次長に任命する人事を、それも米朝首脳会談の当日朝に大統領府が発表したり、会談が決裂する30分前に大統領府のスポークスマンが「今回の会談をきっかけにしばらくの間くすぶり続けていた南北対話は本格化する」とブリーフィングしたりするとんでもない事態は発生しなかったはずだ。大統領府スポークスマンは会談の前日、「ビッグディール、スモールディールといった用語を米朝交渉の当事者たちは使わない」と韓国メディアを叱責(しっせき)したが、会談に同席したボルトン国家安保補佐官は「トランプ大統領が自ら『ビッグディール』と呼ぶ完全な非核化に向けた提案書を金正恩委員長に伝えた」と明らかにした。

 韓米間のかみ合わない関係は、会談後さらに増幅されている雰囲気だ。文大統領は会談の翌日「金剛山観光と開城工団を再開する問題について米国と協議する」と言ったものの、米国務省の高位関係者は「関連する制裁を緩和する用意はあるのか」という質問に対し、ためらうことなく「ノー」と即答している。相手が拒否したがっているのを無視してしつこく付きまとうストーカーには、感情を表さず短く冷静に「ノー」とだけ答えるよう専門家たちは忠告する。礼儀をわきまえて一言二言と交わすようになれば、ストーカーは未練がましくまとわり付いてくるというのだ。米国務省の関係者も「現時点では検討対象ではない」「韓米間で緊密に協議していく」などのように交渉の余地を残したとすれば、韓国政府の執拗(しつよう)な要求が寄せられるようになる、と考えたはずだ。そこで、短く拒否する形で「可能性は全くない。百回、千回、聞かれても答えは変わらないため、同じ言葉を繰り返さないでほしい」といった意向を伝達したわけだ。

文大統領の金剛山観光、開城工団の再開提案について、米国専門家は「音痴(tone deaf)としか言いようのない発言」と厳しい口調で言及している。音痴とは、他の人の奏でる音階を聞き分ける能力が足りないため、和音になっていない人のことをいう。ハノイ会談が決裂して以降、ワシントンでは「金正恩委員長の弱点は制裁」であることが確認された。北朝鮮に核兵器を諦めさせるためには、制裁の手を強めなければならない」というコンセンサスが成立したわけだが、文大統領の理解が鈍いため、ショック療法を使用したのだ。

 文大統領が「朝鮮半島の平和に向けたプロセス」の進み具合を速めたい思いは理解できる。所得主導型の成長、脱原発、4大河川(漢江、洛東江、錦江、栄山江)のせきの撤去といったその他の政策が全て出遅れている中、対北政策という成果一つで来年の総選挙を闘っていかなければならないため、気が気でないのだろう。しかし、このままではいけないといった焦りから、相手が到底受け入れることのできない提案をしきりに突き付けることは、逆効果なだけだ。大韓民国の大統領の要請が相手国の実務者に「ストーカーまがいの行為」として認識されているとすれば、国の威信や国益、そして5100万人に上る国民のプライドにも傷が付くという点を、ぜひとも忘れないでいただきたい。

金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190405-00080131-chosun-kr&p=2


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