韓国最高裁が昨年10月、日本企業に第2次大戦中に動員された元徴用工への賠償を命じた判決から4月30日で半年を迎えた。日本政府は1965年の日韓請求権協定で問題は解決済みとの立場を取り、韓国政府に国内問題として解決するよう求めているが、文在寅(ムンジェイン)政権は事態打開に動く気配を見せない。沈黙の背景には、革新政権として過去の保守政権の政策判断に否定的な姿勢があり、内外に難題を抱えて身動きが取りにくい事情も絡んでいるようだ。

 「三権分立の原則から行政が司法の判断に介入するのは難しい。日本政府は韓国政府の立場を理解すべきだ」。日本の政治に詳しい韓国・聖公会大の梁起豪(ヤンギホ)教授は、元徴用工判決を巡る問題についてこう語る。

 梁教授は、文氏から対応を一任された李洛淵(イナギョン)首相と近い関係。「李氏は東京特派員を経験した元記者で知日派。日本の立場も分かるだけに、互いが納得できる妙案がなく板挟みになっている」と言葉をつないだ。

 安倍晋三政権は、原告が被告の日本企業の資産を売却するなどして実害が及べば、対抗措置を取るとしている。梁教授は日本が圧力を強めれば、かえって問題がこじれると指摘する。

 日韓の専門家の間には、解決策として元徴用工や遺族への補償を仲介する財団を設立する案もある。ただ、旧日本軍の従軍慰安婦問題を巡る2015年の日韓合意に基づき日本が10億円を拠出した財団が昨年11月、韓国側の事情で解散方針が発表されたばかり。日本側には「慰安婦財団の二の舞いになりかねない」(外交筋)との懸念が根強い。

「積弊清算」
 韓国内には、文政権が日韓請求権協定を否定的に捉える背景に、協定が朴槿恵(パククネ)前大統領の父、朴正熙(パクチョンヒ)政権時に締結されたことと関連付ける見方がある。

 「韓国小学校教科書から消えた『漢江の奇跡』」。韓国の保守系紙、朝鮮日報に4月25日、こんな見出しの記事が載った。漢江の奇跡は1960年代~80年代の経済成長を象徴する言葉で、朴正熙政権など歴代保守政権の功績とされるため、教科書の記述削除は文政権の意向とみられる。

 当時は発展の陰で、民主化運動が厳しく抑え込まれ、貧富の差が拡大した時代。人権派の弁護士出身の文氏には、権力を背景にした保守勢力への強い反発心があることが、著書「運命」からも読み取れる。

 保守政権下の政策や慣習の解消を意味する「積弊清算」を掲げる文氏。元徴用工や元慰安婦を巡る問題で厳しい対日姿勢を取ることについて、韓国のある研究者は「単純な反日感情というより、過去の保守政権を否定する意味合いが強い」と解説する。

政権発足から2年

 解決の糸口が見えない状況に、原告側もいら立つ。代理人の崔鳳泰(チェボンテ)弁護士は4月22日、都内で記者会見し「日韓請求権協定に基づく政府間協議が実現すれば、協議継続中は被告企業の資産売却を保留できる」と発言。日本政府が求める政府間協議に入るよう韓国政府に促すメッセージだ。

 北朝鮮の非核化交渉の停滞や景気減速など、5月に発足2年を迎える文政権には手詰まり感も漂う。韓国政府関係者は「内外の問題に追われる文政権は、日本に譲歩して国内の反発を買いたくないが、韓日関係をこれ以上悪化させたくないというジレンマに陥っている」と明かす。

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釜山の徴用工像、「円卓会議」開催を断念
韓国釜山市の労働組合系の市民団体が日本総領事館前に徴用工像を設置しようとしている問題で、釜山市議会は30日、像の最終的な設置場所を5月1日までに市民100人の円卓会議で決めるのは困難と判断し、会議の開催を断念した。人選を巡って市議会と市民団体の意見が折り合わなかったのが原因とみられている。

 円卓会議は4月28日に開催される予定だったが、人選が難航し、いったん中止していた。地元メディアによると、労組関係者を中心に選びたい市民団体と、各界から幅広く参加させたい市議会との間で意見が対立し、溝が埋まらなかった。市議会は市と市民団体に対し、設置場所を決める3者協議の再開を提案しているが、団体側は反発しており、先行きは不透明だ。

【ワードBOX】元徴用工判決
 韓国最高裁は昨年10月、新日鉄住金(現日本製鉄)に対し、元徴用工の韓国人4人(3人は既に死去)に1人当たり1億ウォン(約1千万円)の損害賠償を命じ、判決は確定した。同11月には、三菱重工業に賠償を命じた判決も確定した。いずれの判決も「日本の不法な植民地支配に直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の請求権は、日韓請求権協定の対象に含まれない」と判断した。原告側によると、元徴用工らを巡る訴訟の原告は現在、約千人に上るという。

西日本新聞社

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