対策は万全なのに、なぜ大流行は収束しないのか?
 エボラウイルスが、アフリカのコンゴ民主共和国で猛威を振るっている。感染が拡大しているのは、同国北東部の人口が密集した地域。専門の医療チームが対策に当たり、効果的なワクチンや最新の治療法を試みているにも関わらず、4月の1週間だけで新たに110人もの発症が確認された。


今回のアウトブレイク(大流行)は、すでに史上2番目の規模になっている。2014年から2016年にかけて、西アフリカで1万1300人以上を死に至らしめた大流行が発生したが、それに次ぐ大きさだ。世界保健機関(WHO)は、ルワンダおよびウガンダと国境を接するコンゴの北キブ州において、833人の死亡を含む1290の症例を報告している。

 エボラウイルス病(エボラ出血熱)を発症すると、最悪の場合、制御不能な出血が起こり、死に至る。

 今回の流行の特徴は、子どもの感染が非常に多いこと、そして、かなりの割合の患者がエボラ治療センターで手当てを受ける前に亡くなっていることだ。センターでは地元や海外からの支援者が治療や対策に当たっているものの、患者が手当てを受けなければ、感染経路も究明できない。そのため、公衆衛生の専門家からは、流行に終わりが見えないと危惧する声が上がっている。

 地域性も、エボラウイルスの封じ込めに不利となっている。ウイルスが拡大しているエリアは、外国人に対する根深い不信感があるせいで治療を受けたがらない人が多い。さらに支援者を襲撃する事件が発生するなど暴力もはびこっており、エボラの制圧はますます困難になっている。

「短中期的にエボラの流行を収束させられるとは、まったく思えません。あらゆる情報が、これは長引くだろうということを示しています」。米国ジョージタウン大学のWHO公衆衛生法・人権共同研究センター所長、ローレンス・ゴスティン氏はそう話す。「問題は、地域住民の不信感が根強いことと、暴力が急増していること、そしてそれらを乗り越えるためのきちんとした計画がないことです。これではエボラ症例は増え続けますし、国際的に広がる可能性さえあります」

 エボラは治療が遅れるほど、死亡や感染拡大のリスクが高まる。「治療が有効なのは、一定の時間内に行った場合のみです。遅すぎた場合、治療を受けたとしても患者は亡くなります。そうすると、みんな(治療を)信用しなくなってしまいます」と国際NGO「国境なき医師団」の緊急援助コーディネーターであるナタリー・ロバーツ氏は話す。

9カ月間で、最初の火種は大火事に

流行の火がくすぶり始めたのは、コンゴ北東部で症例が出始めた2018年の夏である。エボラがこの地域で発生したのは今回で10度目。前回までと同様、未だ特定されていない自然宿主から出たウイルスが、人間に広まった。エボラの名の由来は、1976年に初の発生地となった場所の近くを流れる、コンゴのエボラ川だ。細胞の中へ入り込んだウイルスは、自らのコピーを大量生産したうえ、組織のつながりや血管を破壊して、臓器不全や出血を起こし、体を内側から壊してしまう。

 とはいえエボラウイルスは、さほど簡単には感染しない。患者の体液や組織に接触することで感染するが、このときウイルスは、皮膚にできた傷か、目や鼻などの粘膜を通る必要がある。

「エボラの感染力は、世界一というわけではありません」とロバーツ氏は話す。「致死率は高いのですが、感染しやすいわけではないのです」

 にもかかわらず、過去9カ月間で、最初の火種は大火事となった。3つのエボラ流行地域では大統領選挙が延期された。それに、国境なき医師団、WHO、米国疾病管理予防センター(CDC)が、北キブ州とイトゥリ州に緊急支援チームを送り込む事態となっている。

 だが、流行を食い止める努力は、外国人からの援助を受け入れたがらない地元の人々の抵抗によっても妨げられている。その一因は、内戦で疲弊した地域における不信だ。いくつかの都市では、市民がエボラ治療センターを狙った襲撃事件さえ発生している。2月27日にブテンボで発生した襲撃では、国境なき医師団の施設がほぼ全焼し、多くの緊急支援チームが一時避難へと追いやられた。現在、医療従事者たちは少しずつ戻り始めている。

「過去1カ月間に、CDCスタッフが現地でカバーするエリアを拡大しました」と話すのは、CDCでエボラ対策を率いる一人、インガー・デイモン氏だ。「これまで最も感染がひどい地域に入りこめていなかったので、今は現場のチームと一緒にデータを丹念に分析して、どこに努力を投入すべきかを見極めることに集中しています」

机上ではよい戦略なのに
 専門家たちは丸腰でエボラと闘っているわけではない。現場には、試験中の4つの新治療法に加え、「rVSV-ZEBOV」ワクチンという強力な武器が備わっている。2000年代前半にカナダの科学者たちが開発し、2015年にギニアで臨床試験が行われたこのワクチンは、無害なエボラウイルスたんぱく質を組み込んだ動物由来のウイルスでできている。これを接種すると、ヒトの免疫システムは、あらかじめエボラウイルスに対する防御策を講じるようになる。

 このワクチンは未だ米国食品医薬品局から承認されていないが、製造会社であるメルクの寄付で、人道的見地により配備が行われている。

 4月16日時点で、10万2000人近くがワクチン接種を受けた。WHOによれば、その多くはエボラ患者との一次または二次接触者で、主に医療関係者や患者の家族だ。ワクチン接種を受けるべき人々は、接触者追跡調査によって特定される。ロバーツ氏が言うには、患者の周りにワクチン接種済みの人々の「輪」を作り、さらにそうした一次接触者たちの周りにも「輪」を作ってゆく、という考え方である。

「一次接触者たちはすでに感染しているかもしれないので、必ずしも彼らを守ることにはなりません」と同氏は話す。「でも、一次接触者と接触した人々にワクチンを接種すれば、この人たちを感染から守ることはできるはずで、そうやって感染の拡大を食い止めようというわけです」

 WHOの報告によれば、今のところrVSV-ZEBOVワクチンは、特に早期に接種をした場合、非常に効果が高いとのことだ。接種後10日を過ぎてエボラウイルス病の症状が出た人の中で、死亡例は報告されていない。また、いつ発症したかに関わらず、ワクチン接種を受けた人全体の死亡率は低い。

 では、非常に効果的なワクチンが存在し、これからも届けられるというのに、なぜエボラの流行を制圧できないのか?

「机上ではよい戦略に見えますし、理論的にはうまくいくはずだと思います。しかし、現実にはこれがどれだけ実効的なのか、問い始めている段階です」とロバーツ氏は話す。「たしかによいワクチンですが、すぐに流行を収束させてくれるわけではなさそうです」

エボラが収束に向かわない理由
ロバーツ氏もデイモン氏も、エボラが収束に向かわない理由として、いくつか同じことに触れている。

 まず、コンゴ北東部では人々の移動が非常に活発であることが挙げられる。それに、医療を提供する人や施設が、個人病院から伝統医術者、薬局に至るまで、何百もある。しかも、エボラの初期症状は、麻疹やマラリアなどのありふれた病気とよく似ている。つまり、エボラ患者を初期段階において特定することは必ずしも簡単ではない。現在、エボラウイルス病は特定の施設でしか診断できないため、早期に患者を隔離し治療を開始することはかなり難しい。

「多くの患者はエボラと診断される前に、1つか2つの医療施設に行っていることが多いのです」とデイモン氏は言う。

 その間に患者は、複数の医療関係者や他の患者と接触する。医療施設内での密な接触によって、知らず知らずのうちにウイルスを広げてしまう。こうした院内感染は特に子どもに多く見られる、とロバーツ氏は言う。

「エボラ以外の理由で入院した子どもたちが、他の患者と同じベッドを使ったり、下手をすれば医療器具を使い回されたりしています」と同氏は話す。「エボラを発症している子どもの多さは想定以上です」

 多くの人がエボラ治療センターではなく、自宅で亡くなっているという事実は、恐らく最も憂慮されるべきだとデイモン氏は言う。つまり、彼らは助かる見込みがある段階で、おそらく治療を受けなかったということだ。こうした自宅死の場合、感染者の隔離や接触者の追跡、ワクチンの配備といった対策がますます困難になる。

「この数週間で死亡した患者の30%以上が地元コミュニティで亡くなっているという事実に、がっくりきています」とデイモン氏は話す。「看病していた人たちは長い時間、患者に接していたことになるので、それだけ感染が広がる可能性が高まります」

地域住民をよき理解者にできるか
 エボラ制圧のためには、地域と支援チームのつながりを変える必要がありそうだ。

 デイモン氏によると、CDCは地域住民に情報を広める効果的な方法を模索しているという。「メッセンジャー役になってくれそうな人を探し出し、エボラという病気や効果的な対策について理解を深めてもらうのは、大変なことです」

 エボラ対策と地元コミュニティがうまくかみ合った地域では「流行が収束しています」とWHOの報道官タリク・ヤサレビチ氏は話す。WHOのチームは日々、地元の人々にエボラ対策に関わってもらえるよう努めているほか、非協力的な地域で活動する努力も続けているという。その結果、ワクチン接種が受け入れられるようになったほか、死亡者の埋葬に際しても、感染しにくく尊厳のある方法が実践されているとヤサレビチ氏は語る。

 しかしロバーツ氏は、もっと根本的に変えられることがあるのではないかと考えている。それは、中央集権的なエボラ治療施設のあり方だ。地元の医療従事者たちでエボラの診断ができるようになれば、より効果が上がるのでは、と言うのだ。患者は早く治療を受けることができ、遠くにある治療センターまで行く必要もなくなる。支援者たちは、感染が拡大する前に、患者と接触する人にワクチンを接種できる。

「人々が自宅の近くで診断を受けられたら、ずっとよくなると思います」とロバーツ氏は話す。「そのほうが、ワクチンをもっと簡単に配備できます。感染拡大にもっと素早く対応し、流行を鎮圧できるはずです。現在は、感染経路を追跡できず、どこで次の症例が発生するかもわからない状況なのです」

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190424-00010000-nknatiogeo-m_est&p=4