航空自衛隊三沢基地(青森県)の最新鋭ステルス戦闘機F35Aが墜落した事故から1カ月が経過した。

フライトデータレコーダー(FDR)の部品は回収されたが、肝心の飛行データを保存したメモリーは発見に至っていない。操縦していたベテランパイロットは依然行方不明で、厳しい状況が続いている。「訓練中止」の交信から墜落するまで空白の約1分間の解明が原因究明の焦点だ。

◇訓練中止のなぞ
 防衛省によると、細見彰里3等空佐(41)が搭乗したF35は4機編隊の1番機として4月9日午後6時59分ごろに三沢基地を離陸。「B(ブラボー)」と呼ばれる訓練空域への進路や気象状況などを無線交信し、一緒に飛行する僚機に指示もしていた。

 「ノック・イット・オフ(訓練を中止する)」と通信した約1分後の午後7時27分ごろにレーダーから機影が消えた。訓練中止の理由に関する交信や救難信号は確認されていない。

◇緊急事態なら「エマー」も
 戦闘機パイロット出身の空自OBは「墜落の恐れがある切迫した事態であればエマージェンシー(緊急事態)の表現を使う。『ノック・イット・オフ』を使ったのは、何らかの違和感や異常を感じ、状況を確認するためにいったん訓練を中断しようとしたのではないか」と指摘する。

 操縦トラブルであれば、上下の感覚を誤認する空間識失調の可能性もある。F35のパイロットは高度や照準などの情報がバイザーに表示される「HMD(ヘッドマウントディスプレー)」が付いた特殊なヘルメットをかぶる。HMDは機体のセンサーやシステムと統合され、機体の6台のカメラを通じて、バイザーに映し出される映像を基に敵に照準を合わせることができる。ズームも可能だ。

 ただ、夜間は慣れるまで自分の感覚と自機の状況にズレが生じることもあり得るという。軍事関係者は「普段から夜間訓練でバイザーをオンにしていたかも事故調査の対象になるのではないか」と話す。

◇GAOは次々と「欠陥」指摘
 
 機体の不具合の可能性もある。米議会付属の政府監査院(GAO)が昨年まとめたF35に関する報告書は、2017年5月から8月にかけて、パイロットが酸素欠乏症を訴えた事例が6件あったと指摘した。共通の原因は特定されていないとしながらも、操縦席の生命維持システムに関連する問題点について(1)操縦席の呼吸調節装置が頻繁に故障(2)呼吸調節器が機能しなくなったときに、コックピット内の空気を吸うために開く弁の不具合(3)コックピット内の急激な気圧の変化-などと列挙した。政府関係者によると、酸素系統の不具合は解消されているという。

 今年4月の報告書は、安全に重大な危険を及ぼすと考えられる「カテゴリー1」に分類される欠陥は、これまで指摘された13件に加えて、新たに4件確認されたと記述した。 

 また、生命維持システムに関する問題も指摘。政府職員や医師らで構成するチームが18年5月まで調査したが、システム上の欠陥は特定されなかった。報告書は「飛行中のパイロットの健康状態をリアルタイムでモニターする手段がないことが、原因特定を困難にしている」との調査チームの声も紹介。

 このほか、過去にコックピットの表示がフリーズした事例があったことなども挙げている。大量の電子データを扱うことが原因とみられる。

◇後手の情報収集
 岩屋毅防衛相は10日の記者会見で、GAOの最新報告について「新たに確認された課題の影響や、対応状況については現在、米国政府に確認を行っている」と述べた。しかし、米国防総省は既に4月23日付でGAOに回答を送付しており、防衛省の情報収集が後手に回っている感は否めない。

 F35の開発参加国は米国を除くと8カ国。日本は開発に参加していない後発組だ。日米同盟があるからといっても、米国からみればF35ユーザー国の一つにすぎない。米国防総省運用試験・評価局やF35ジョイント・プログラム・オフィスとの太いパイプがなければ、米議会やGAOのような第三者が指摘するF35の「欠陥」情報はリアルタイムで入ってこない。

 
 ◇F35のデータリンクで解明も 
 FDRには高度や速度、機首の方向、加速度などが記録されており、解析すれば墜落直前の飛行姿勢も分かる。メモリーを回収できるかが原因究明のカギを握る。

 メモリーがなかった場合には、F35の編隊間で情報共有するシステム「マドル(MADL=多機能先進データリンク)」の記録や、レーダー航跡などの解析に基づき、事故に至る状況と原因を推定する。ステルス機だが、訓練中は地上レーダーに映るようにリフレクター(反射板)を付けていたとみられる。

 
 ◇「かいめい」活躍、回収物は三沢基地
 機体は米国が巨費を投じて開発した軍事機密の塊であり、航空戦力の屋台骨でもある。米は今後30年近くにわたり2000機以上のF35を配備する。米は事故発生直後から捜索を支援。三沢基地の東方約135キロの現場海域では、米軍がチャーターした深海活動支援船「ファン・ゴッホ」が、海洋研究開発機構の海底広域研究船「かいめい」とともに捜索したが、9日までに支援を終了。防衛省が契約した民間サルベージ船が7日に現場海域に入り、海中捜索を続けている。

 捜索では「かいめい」が機体の一部が沈んでいる場所を特定して活躍した。積み込んでいた深海えい航調査のソナーシステム「ディープ・トウ」(全長3.3メートル)を投入。えい航されたディープ・トウが海底に向けて音響を発信し、音のはね返りを分析して、F35の機体の一部とみられる人工物が沈んでいるのを発見、ファン・ゴッホがFDRの一部などを引き揚げた。回収物は三沢基地に運ばれた。米空軍が同基地にいることも機密保全上、考慮されたとみられる(時事通信社編集委員 不動尚史)。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190512-00000051-jij-soci


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