日本に対する攻撃にあたるのか?
 2019年6月13日(木)、中東における海上交通の要衝であるホルムズ海峡を航行中のタンカー2隻が、何者かによる攻撃を受け、船体に大きな損傷を受けました。このできごとは、攻撃を受けたうちの1隻であるケミカルタンカー「コクカ・カレイジャス」号が日本の海運会社「国華産業」によって運航されていたことなどを受け、日本国内でも大きく報じられました。

事件の発生を受けて国華産業が開いた会見により、この「コクカ・カレイジャス」号が攻撃を受けた際の様子が明らかになってきました。「コクカ・カレイジャス」号は、まず艦尾に攻撃を受け、これによりエンジンルームで火災が発生しましたが、二酸化炭素注入によりこれは消火されました。しかし、その後さらに艦中央部付近にも攻撃を受け、乗員は船からの退避を決断し、救命ボートにより脱出したとのことです。

 今回の事件について、日本の海運会社が運航している船が攻撃を受けたこともあり、これを「日本に対する攻撃」と受け止める意見が散見されます。しかし、少なくとも法的には、そうした結論には至りません。これを理解するためには、国際法上の「公海制度」および「旗国(きこく)主義」という言葉について見ていく必要があります。

海には海のルールあり、「旗国主義」とは?
 地球の大部分を構成する海には、いかなる国の主権も及ばず、また世界中の国が自由に利用できる部分が存在します。これを「公海」といいます。

 しかし、いかなる国も公海に主権を及ぼすことができないということになれば、そこを航行する船舶が自由に活動することと引き換えに、公海が無秩序な状態におちいる可能性も否定できません。そこで、公海上の「船舶」に対してその船の「旗国(登録国)」が管理や支配をおよぼすことにより、公海秩序を維持しようという考えが確立していきました。これを「旗国主義」といいます。

 これに基づけば、たとえば日本を旗国とする船で何らかの事件が発生した場合、そこには日本の法律が適用され、それによってその犯罪が裁かれることになります。実際に、日本の刑法第1条2項には「日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項(この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する)と同様とする」と規定されています。

 今回の事例では、攻撃を受けた「コクカ・カレイジャス」号はパナマ船籍なので、つまり、この攻撃は日本に対するものではなく、パナマに対するものとみなされることになります。

「自衛権行使の必要性なし」 防衛大臣発言の理由とは
 ところで、今回の事案をめぐって6月14日(木)に岩屋防衛大臣は会見し、そこで「今回の事案は自衛権行使の3要件に合致せず、自衛隊の派遣は見送る」という趣旨の発言をしました。

 しかし、そもそも、民間船舶への攻撃に対して自衛権を行使する余地はあるのかという点、そして、なぜ今回の事例は自衛権行使の要件に当てはまらないのかという点について、疑問を持つ人がいるかもしれません。

 まず、国際法上、民間船舶に対する攻撃であっても、その攻撃者が明確になっていて、かつその船を狙って攻撃したことが明らかである場合には、これを当該船舶の旗国に対する「武力攻撃(自衛権を行使するための要件となる、最も重大な形態の武力行使)」と認めることは可能とされています。つまり、もし民間船舶に対する攻撃が武力攻撃と認められるような場合には、当該船舶の旗国は個別的自衛権の行使によってこれに対処することができるわけです。

日本の「自衛権」、発動のための3要件とは?
 一方で、自国が旗国ではない船が攻撃を受けた場合でも、当該船舶の旗国からの要請を受けた場合には、これを集団的自衛権の行使として防衛することができます。すなわち、今回の事案に対して日本が対処するためには、この集団的自衛権の行使が必要となります。しかし、岩屋大臣はこれを否定しました。いったいなぜでしょうか。

 まず、そもそも日本が自衛権を行使するためには、「自衛権発動の3要件」が満たされなければなりません。以下がその3要件です。

●日本における自衛権発動の3要件
(1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。
(2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。
(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。

 岩屋大臣の説明では、特に(1)の「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」という要件が満たされていないため、今回は集団的自衛権の行使に至らないと判断されたようです。

 また、そもそも自衛権の行使には、当該船舶に対する攻撃が武力攻撃に該当するものでなければならず、また、仮に武力攻撃に該当するとしても、集団的自衛権の行使の場合にはさらに旗国からの要請がなければならないという点を踏まえれば、今回の事案はこれらの要件をいずれも満たしていないという理由も指摘できるでしょう。

 いずれにしても、ホルムズ海峡の危機は世界経済の行方にも大きく関係する大きな事態です。一刻も早い安定化を切に願うばかりです。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190614-00010008-norimono-bus_all&p=2


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